エクスプロイテーション映画
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エクスプロイテーション映画(Exploitation films)とは、1950年代以降に量産されたアメリカ映画のジャンルの一つで、興行成績をあげるため、センセーショナルな時事問題やタブーとされる題材をあえて取り上げている低俗な作品群を指す[1]。チケットの売れ行きを伸ばす狙いで、テーマの話題性を「利用する(exploit)」ため、この呼び名がある[1]

一般に、物語や演技よりも性描写や暴力など主流の映画が扱わない、きわどい過激な題材を映画館で見せること自体を売り物として、低予算で量産される[1]
歴史
草創期ラス・メイヤー監督『肉体の罠』(1964) ポスター。観客を集めるため、エクスプロイテーション映画の宣伝ではヌードが執拗に反復された。

1930年頃までのアメリカでは、観客を引きつけるため、きわどい題材の映画作品が大量に製作・上映されており、売春・中絶・児童婚・不倫といったセンセーショナルな話題を取り上げた作品は、宣伝で大いに強調されて多くの観客を集めていた[2]。「ホワイト・スレイヴ White Slave(強制売春)」を扱った『魂の交流〈日本未公開〉Traffic in Souls 』(1913)や、性病にかかったカップルを描いた『損なわれた者〈日本未公開〉Damaged Goods』(1914)は、その典型的な例である[2]
市場の拡大

1934年にハリウッドの自主規制システムである「プロダクション・コード(ヘイズ・コード)」が施行されると、こうした題材があからさまに取り上げられることは少なくなっていた[3]。しかし第二次大戦後に観客の中心が十代から二十代前半までの若者に移行し、さらに彼らに人気のある上映場所として親の目を離れたドライブインシアターが注目されるようになると、どぎつい題材で耳目を集める作品が再び現れた。

映画情報誌『バラエティ Variety』は、1946年の段階でこうした現象が現れていると指摘しており、「エクスプロイテーション映画」は、この記事の中で初めて使われた言葉とされている[3][1]

1950年代になると、この傾向はさらに加速する。1954年に設立されたプロダクション「アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ(AIP)」は、ドライブイン市場向けに、非行に走る十代の若者や、路上で不良少年たちが行う違法なカーレースを題材とする作品、さらに残虐シーンを売り物とするホラー映画、サーフィン映画などを大量に製作した[4]。きわめて低予算で量産するため、多くは似たような話の筋・同様の舞台装置を使い回しており、特段の経験を積んでいない若い俳優が動員された。このAIPで、とくに成功したひとりはロジャー・コーマン監督である[4]
多様化へ死霊の盆踊り』(1965) ポスター。死霊を演じる女優がヌードで踊るシーンが大半を占める。エクスプロイテーション映画は低予算での量産を強いられたため、一般に物語上の矛盾などは考慮されず、ばかげた設定のままヌードを出して観客を集めることが常態化した[4]

1960年前後にはプロダクション・コードはまったく形骸化し、さらに性の解放という時代状況にも後押しされて、セックスとヌードを強調してそれを売り物にする作品が現れた。ラス・メイヤー監督の『インモラル・ミスター・ティーズ (The Immoral Mr Teas)』(1959)は、女性の衣服を透視できる目をもった男の物語で、これが大きな商業的成功をおさめると、同種の作品が相次いで作られるようになった[4]

この傾向は1970年代を通じてつづき、アメリカでは女囚刑務所やチアガール、修道院などさまざまな場所を舞台に変えて作品が量産されたため、エクスプロイテーション映画の中でも、とくに「セクスプロイテーション映画 Sexploitation films」と呼ばれるサブジャンルを形成するまでになった[2]。同様の傾向は他の欧米諸国でも始まっており、イギリスで『キャリー・オン Carry On』シリーズ、ドイツで『女子学生(秘)レポート Schulmadchen-Report』シリーズなどが作られている[5]

アメリカでは主流の映画館がこうした作品を上映しないことから、エクスプロイテーション映画・カルト映画を専門に上映する低料金の映画館「グラインドハウス・シネマ(英語版)」が大都市で台頭することとなった[2]

1980年代以降、レンタルビデオの登場によりこうした過激な題材を映画館で見る習慣は各国で急速に衰退するが、エクスプロイテーション映画は低俗・猥雑な作品の代名詞として定着した[1]
再評価

作り手の大半は男性だったが、まれにドリス・ウィッシュマンのように女性監督がセクスプロイテーション作品を手がけた例もあり、近年フェミニスト映画批評の観点から再検討が進んでいる[6]

また低予算の製作現場に若い作り手が容易に参加できたため、アメリカではピーター・ボグダノヴィッチマーティン・スコセッシフランシス・フォード・コッポラなど、後に主流映画で活躍する監督たちが映画製作を学ぶ重要な場として機能したことが注目されている[4]
エクスプロイテーション映画の例イルザ ナチ女収容所 悪魔の生体実験』(1975)。ナチスを登場させながら残酷な拷問やエロティックなシーンを多用して観客を呼び込もうとする「ナチスプロイテーション」は、その背徳性・猟奇性から物議をかもしつつ、とくにイタリアで多数の作品が作られた。

上述の「セクスプロイテーション映画」はさまざまな変種が現れ、アマゾネス映画、女囚映画[7]、カトリックの修道女が出てくる「ナンスプロイテーション映画」などが作られた。ほかには主にイタリアで量産された疑似ドキュメンタリー「モンド映画」、特定の宗教団体の信者に向けた映画(アメリカではモルモン教徒向けの映画)、ナチスの強制収容所などを舞台にした「ナチスプロイテーション映画」などがある。

ブラックスプロイテーション (Blaxploitation):黒人観客を集めるため、従来のハリウッド映画の登場人物を黒人に置き換えて探偵・警察映画、ギャング映画、ホラー映画などさまざまなジャンルの「黒人版」が多数制作された[8]。ここで活躍した黒人の作り手の中には、俳優のパム・グリアや、監督のゴードン・パークスなど、後にハリウッドのメジャー作品で活躍するようになった者もいる[8]。このジャンルの代表作品には「黒いジャガー」「スーパーフライ」「スウィート・スウィートバックス・バッドアス・ソング」「黒いジャガー アフリカ作戦」「スーパーフライTNT」などがあった。

ハグスプロイテーション (Hagsploitation):「何がジェーンに起ったか?」から始まるジャンルで、かつて裕福だったり有名人だったりした女性が、高齢になるにつれて精神的に不安定となり、家族を虐待したりするスリラーやホラーの一種で、サイコ・ビディ(Psycho-biddy)とも呼ばれる[9]


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