カリオタ
Ignicoccus hospitalis
分類
階級なし:アルカエア Archaea
エオサイト説(Eocyte hypothesis)とは、真核生物の起源に関する説の一つで、古細菌の1系統であるエオサイト(1984年当時、エオサイトはクレン古細菌しか発見されていなかった)が真核生物の祖先となったとする説のことである。その根拠はクレン古細菌のリボソームがユーリ古細菌のそれよりも真核生物のそれに類似していた事である[1][2]。エオサイト説はもともと1984年にジェームス・A・レイク(英語版)らが提唱した仮説であるが、2000年代中頃にゲノム解析が進むと、真核生物のゲノムのコードの特徴が古細菌の様々な門で見つかり、再度注目を集めた。
その一つがクレン古細菌に近縁なタウム古細菌こそが真核生物の起源であるとするものであり[1][3][4][5][6]、クレン古細菌とタウム古細菌の双方を含む上門としてTACK(英語版)が提唱された。このTACKが真核生物の起源とする説を「TACK説(TACK hypothesis)[7]」という。その後熱水噴出孔のメタゲノム解析の結果として、TACKの姉妹群でより真核生物に近い上門としてアスガルド古細菌が提唱された[8]。また、「生命の輪 (Ring of life)[9]」も広い意味でエオサイト説の変形といえる。
なお、現在真核生物に最も近い古細菌はクレン古細菌(=エオサイト)ではなく、アスガルド古細菌と考えられ、厳密にはエオサイト説とは言えなくなってきている。そのため二分岐説や Eocyte like hypothesis/scenarios と呼び換えることもある。ただし、2008年ごろまでは後にアスガルド古細菌と呼ばれることになるDSAG系統/MBG-B系統もクレン古細菌に含まれていたことに留意しなければならない。また、エオサイト説の提唱者であるジェームズ・レイクは、エオサイトはクレン古細菌よりももっと広い範囲(少なくともTACK以上)を指していると述べている[10]。
概要青字は真正細菌、緑字は真核生物、赤字が古細菌。左は古細菌を単系統とする説(3ドメイン系統樹)、右はエオサイト説。矢印はEF-1α/Tuに挿入が発生した地点を指す。エオサイト説の場合挿入は1回で済むが、3ドメイン系統樹の場合、2ヶ所で同じ挿入が別々に起こったと仮定しなければならない
古細菌は大きくクレン古細菌 Crenarchaeota とユーリ古細菌 Euryarchaeota の2系統に大別される。このうちクレン古細菌は、70種に満たない小さな古細菌集団で、80°Cから時には110°Cを超える高温環境、あるいは強酸環境に適応したグループである[11]。ユーリ古細菌はメタン菌や高度好塩菌の他、超好熱性のテルモコックス属 Thermococcus、好熱好酸性のテルモプラズマ属 Thermoplasma、硫酸還元菌であるアルカエオグロブス属 Archaeoglobusなどが所属している。記載種は400種余りとそれほど多くないが、原核生物最大の9綱を擁す大きな群である。
クレン古細菌とユーリ古細菌は、通常門または界の階級が与えられ、古細菌ドメインに所属している。一方で、この2系統と真核生物の関係はよくわかっておらず、論争が続いている。よく知られた説では、クレン古細菌とユーリ古細菌が近縁であるとする3ドメイン説がある。エオサイト説は3ドメイン説と異なり、クレン古細菌と真核生物がより近縁であるとするものである。この説ではクレン古細菌のことをエオサイト。さらにエオサイトと真核生物を合わせてカリオタと呼称する。
この説は純粋に分子生物学的知見に基づくもので、具体的な真核生物誕生についての説明は比較的乏しい。このため一部の研究者が支持するだけであった。
一方で、2013年現在、前述のクレン古細菌、ユーリ古細菌以外にも古細菌にはいくつかの未培養系統が見つかっており、エオサイト説も見直しを迫られている。これらはいずれもエオサイト説が提唱された1980年代には知られていなかった。2008年に提唱されたタウム古細菌 Thaumarchaeotaを皮切りに、2015年には真核生物により近いと考えられるロキ古細菌 Lokiarchaeota が発見された。これらの系統を含めて、エオサイト説を見直す動きがある[10]。 エオサイト説がレイクらにより提唱されたのは1984年である。古細菌、特に好熱古細菌は真核生物とは何の関係もないように見える環境に生息していたが、リン・マーギュリスの連続細胞内共生説において、古細菌のThermoplasmaが真核生物の祖先になったと主張されるなど真核生物と古細菌の関係が注目されていた。 その中で、レイクらは原核生物と真核生物のリボソームの形状を詳細に比較し、好熱硫黄代謝古細菌と真核生物が近縁なことを見出し、エオサイトと名付けた[12][13]。 1988年には、レイクらが5S rRNAの系統解析を独自に行い、メタン菌・高度好塩菌が真正細菌の祖先、好熱古細菌が真核生物に近縁であるという結果を得た[14]。これが当初のエオサイト説である。しかし、リボソームの形状比較は証拠として曖昧であること、5S rRNAも情報量が少なく根拠としては弱いものであった。1990年にカール・ウーズが提唱した、3ドメイン説[15]を覆すほどにはならなかった。 メタン菌 Eocyta(エオサイト界=好熱性古細菌)
歴史
エオサイト説(1988年)
Lake (1988)による系統樹[14]
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カリオタ