ウクライナにおけるロシア語は、ウクライナのドンバス地方、クリミア地方で最も一般的に使用され、東部や南部の大都市でも多くの人々によって使用されてきた言語である[1]。マスメディア、政治、ビジネス、科学の分野において
特に浸透している[2]。ロシア語を話す人の割合は概して東南部で高いが、明確な地理的境界線が存在するわけではない[3]。ウクライナにおけるロシア語の広い使用状況は、ロシア語話者の入植、独立国家の喪失、ウクライナ文化の抑圧、教育の転換、都市化などさまざまな経緯から生じたものである[4]。
2001年の国勢調査では、人口の17.3%がロシア人である一方、ロシア語を母語であると回答した人は29.6%であった[5]。2012年から2022年にかけて、ウクライナ語を母語とする人は57%から80%に増加しロシア語を母語とする人は40%から15%に減少したが[6]、日常的なコミュニケーションではウクライナ語のみを使用するのは51%にとどまり、両方の言語を使用する人が33%にのぼる[6][7]。双方の言語をある程度理解することができる人が多く、ロシア語話者とウクライナ語話者の会話において、どちらかの言語に合わせないまま会話が進行する状況が観察されている[8]。ウクライナの地域別ロシア語使用状況(2003年)
ウクライナでは1989年以降、ウクライナ語が唯一の公用語とされている[9][10]。一方、ロシア語をはじめとする国内少数派民族の言語について、自由な発展、使用、保護が憲法で保証されている[10]。2012年には少数言語の地域公用語化を認める法律が制定されたが[11][12]、2014年にウクライナ憲法裁判所が同法の合憲性の審査を開始し、2018年2月28日に違憲との判断で同法は廃止された[13]。なおクリミア自治共和国では、ロシア語とクリミア・タタール語が公用語となっている。
2014年にウクライナ紛争が勃発し、親ロシア派が占領するドンバス地域では2014年から2016年にかけてウクライナ語の教育が段階的に廃止された[14][15]。一方のウクライナ政府もロシア語の書籍やテレビ放送を制限するなどの対応を取っている[16][17]。また2017年に教育法を改定し原則としてウクライナ語を教育言語とすることが規定された[18]。2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、ウクライナ国内のロシア語をめぐる状況はさらに大きく変化しつつある[19][20][21][22]。 ロシア語、ウクライナ語、ベラルーシ語は、その言語学的類似性から東スラブ語群に分類され[23]、遡れば共通の祖先スラブ祖語にたどり着くが[24]、いつどのように分岐したかについては諸説ある[25][26]。地域別のスルジク使用率 一般的な説は次のようなものである。11世紀以降、キエフ・ルーシで話されていた言語(古ロシア語)は、ルーシの弱体化により各地方で方言が発達した。現在のロシアの領域はタタールの支配下となり、古代教会スラブ語の影響を受けながら現在のロシア語につながる言語が発達した[27]。古ノブゴロド方言の役割を重視する学説もある[25]。一方現在のベラルーシとウクライナの領域は13世紀にルーシの崩壊でリトアニア大公国領となり、その後のリトアニアとポーランドの連合によりポーランド語の影響を受けながら北部ではベラルーシ語、南部ではウクライナ語が発達した[28]。 17世紀、ロシア・ツァーリの時代にはこれらの言語は明確に異なるものと認識されていた[24]。ロシアは自らの言語を「(大ロシア語
歴史
言語史
その後、書き言葉としてのウクライナ語は18世紀後半の作家イヴァン・コトリャレーウシキー、19世紀の詩人タラス・シェフチェンコらによって確立された[30][31][32]。1905年にはロシア帝国アカデミー言語部会がウクライナ語を独立言語として認められ、1928年にはウクライナ語正書法が承認されたが、1933年以降、ウクライナ語正書法はロシア語のそれに意図的に近づけられた[31]。
言語学者ティシチェンコによると、現代ウクライナ語とロシア語の語彙の38%が異なるものである[33]。これはスペイン語とポルトガル語、あるいはスペイン語とイタリア語、ドイツ語とオランダ語よりも大きい[30]。音声や音韻上の相違は更に顕著であり、形態論上の差異もみられる[30]。