ウォルフ・ライエ星
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HR図スペクトル型YSOT Tauri型星Herbig Ae/Be型星褐色矮星準褐色矮星白色
矮星



準矮星B主系列星OBAFGK準巨星巨星バリウム星赤色
巨星
青色
巨星
輝巨星超巨星赤色
超巨星
LBVWR型星極超巨星


ウォルフ・ライエ星[1][2](ウォルフ・ライエせい、WR星[3]、WR型星[4]、WR star[4]、Wolf-Rayet star[2][4])は、電離されたヘリウムや高階電離された炭素酸素窒素の幅の広い輝線を示す特殊なスペクトルを持つ青色巨星。右のHR図上では最も左上の領域(「WR型星」)を占め[5]、表面温度は30,000 ケルビン (K) から100,000 K、光度は太陽の3万倍から100万倍にも達する[6]。1867年に初めてこの種の恒星の存在を発見したフランスのシャルル・ウォルフジョルジュ・ライエ にちなんで名付けられた[1]

誕生時の質量が25太陽質量 (M?) 以上の恒星は、その進化の途上ですべてウォルフ・ライエ星の段階を経て、Ib・Ic型超新星爆発でその生涯を終えると考えられている[5][7]

肉眼で見える恒星[注 1]では、ほ座γ2星(1.83[8])とはえ座θ星(5.53等[9])がウォルフ・ライエ星に分類されている。また、既知の恒星で最大級の質量を持つとされるタランチュラ星雲R136a1もウォルフ・ライエ星である。
概要ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、ウォルフ・ライエ星WR 124と周囲を取り巻く星雲 M1-67 。

恒星の中心核の水素がすべてヘリウムへと変換され、水素殻燃焼とヘリウム燃焼の段階に入ると、主系列から外れて外層の膨張が始まる。低質量星では膨張につれて表面が低温になるため赤色巨星となるが、初期質量が40M?を超えるような大質量星では恒星風が強いため、膨張の過程で重力による束縛が振り切られ、水素に富んだ外層が吹き飛ばされ失われてしまう。そのため高温の内部が露出して青色巨星となる[10]。これが、ウォルフ・ライエ星である。吹きとばされたガスが星の周囲に散光星雲として輝いていることもある。

スペクトル中に水素の線が無いという特徴は、水素の外層を失っていることによる。また、ヘリウムや炭素、窒素の幅の広い輝線は、恒星風によって吹き飛ばされている電離したこれらの原子を含むガスから発せられる輝線が、ガスの運動速度が非常に大きいためにドップラー効果によって幅が広がっているものとして説明される。高光度青色変光星 (LBV) と同様に、ウォルフ・ライエ星の輝線には短波長側に幅の広い吸収線が存在する「P Cyg プロファイル[11]」と呼ばれる特徴を持つものが多い。これは、観測者側方向の恒星風領域によって吸収される波長がドップラー効果によって本来の波長よりも短くなることによって起こされる[5][6]もので、強力な恒星風と星周物質の存在を示唆している。このドップラーシフトから計測されるガスの速度は毎秒1,000 キロメートルにも達する[6]

ウォルフ・ライエ星は、そのスペクトル中の輝線の現れ方により、ヘリウムと窒素の輝線が強い WN型、ヘリウムと炭素の輝線が強いWC型、WC型の特徴に加えて酸素の輝線が強いWO型に分類される[1]。水素の外層が失われたことで、CNOサイクルで作られた重元素が観測されるようになったものがWN型、さらに外層が吹き飛ばされてヘリウム燃焼層が直接見られるようになったものが WC型やWO型と考えられている[1]

ウォルフ・ライエ星は、大質量星の一生の末期の姿であり、最期は超新星爆発を起こすものと考えられている[10]。水素の外層を持たないウォルフ・ライエ星の起こす超新星爆発は、スペクトルに水素の吸収線がないIb型かIc型で、ヘリウムの外層が残っているWN型やWC型が起こす超新星爆発はIb型、ヘリウムの外層がほとんど残っていないWO型はIc型の超新星爆発を起こすと考えられている[12]

既知のウォルフ・ライエ星の6割は連星系を成しており、伴星のほとんどがO型星またはB型星である[5]。単独星のウォルフ・ライエ星のX線光度は可視光光度の1000万分の1程度であるのに対して、連星系では1000分の1にも達するものがある[5]。これは、ウォルフ・ライエ星と伴星の恒星風が衝突することで発生する衝撃波によってX線が放出されているものと考えられている[5]
観測史WR 137のスペクトル。横軸は波長(単位はA)。WR 137は、WC7に分類される[13]、最初にウォルフ・ライエ星に分類された3つの恒星の1つである。

1867年、シャルル・ウォルフとジョルジュ・ライエは、パリ天文台での観測中に、はくちょう座の領域にあるHD 191765、HD 192103、HD 192641の3つの星のスペクトル中に、連続スペクトルとは異なる、幅の広い輝線の帯があることを発見した[14][注 2]。ほとんどの天体は、特定の周波数で光エネルギーを吸収する元素に覆われているため、そのスペクトル中に吸収線または吸収帯を持つだけであり、幅の広い輝線の帯を持つこれらの星は明らかに特異な天体であった。

ウォルフ・ライエ星のスペクトル中の輝線帯の性質は、その後数十年間謎のままであった。エドワード・ピッカリングは、この輝線は水素の異常な状態に起因するものとして理論化し、この「ピッカリング系列」の輝線は半整数の量子数が置換されたときのバルマー系列に似たパターンをたどっていることがわかった。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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