点頭てんかん
概要
診療科神経学
分類および外部参照情報
ICD-10G40.4
点頭てんかん(てんとうてんかん)は、てんかん(てんかん症候群)の一種。West症候群(ウェスト症候群、ウエスト症候群)とほぼ同義語に用いられている。ICD-10(疾病分類)ではG404。日本国内では、比較的「ウエスト症候群」が使われるため、以下「ウエスト症候群」と記述する。
ウエスト症候群の原因は、周産期脳障害、結節性硬化症をはじめ多岐に及ぶ。特徴は、点頭発作(攣縮(スパスム))と呼ばれる短い発作を一群の繰り返しをして収束する、シリーズ形成性の発作。脳波では、非常に特徴的なヒプスアリスミア(英語版)と呼ばれる異常を呈する。年齢依存性で、3歳未満の乳児にしかほぼ認めない。
定義ウエスト症候群によるヒプスアリスミアの脳波。同期性の乱れた不規則の高電位棘徐波として見られる。
1989年の国際てんかん分類では、ウエスト症候群の診断基準として、
乳児スパスム
精神運動発達の停止
ヒプスアリスミア
を挙げており、このうち2つ以上有することが定義となっている。日本での東京女子医科大学小児科教授・福山幸夫の研究によれば、補助的な診断の手引きとして、1歳未満、ACTH治療が良く効く、普通の抗てんかん薬が効きにくいことなどを挙げている。
点頭てんかんは、名前の通り点頭発作を前面に出してきており、統一的な意見ではないが、上記の2および3がなくとも診断しうる。しかし、実際にはほとんどの症例では、ウエスト症候群と点頭てんかんはオーバーラップしており、臨床上はほぼ同義語として用いられている。 1841年、イギリスの医師ウィリアム・J・ウエスト(William J. West)により、この疾患を発症した彼自身の息子の症例報告として初めて発表された。その後長らく注目されなかったが、20世紀に入り症候群として認識され、元のウエストの発表の記載が詳細で良質であったため、この疾患に彼の名が冠せられた。1952年にはGibbs & Gibbsにより、脳波上の特徴的異常であるヒプスアリスミアが発見され、診断力の向上に大きく貢献した。1958年には早くもACTH治療が発明され、この治療は現在でも広く行われている。 発症率は、フィンランドの調査では14歳までの累積で0.6%、日本では長崎の調査では出生1万に対し3.1人であり、やや男児に多い。ほとんどの例が3歳以下(定義自体で乳児のみを診断基準とすることもあり、その場合は当然全例3歳以下。)であり、特に3か月から9か月に多い。 本疾患は、原因の特定または推定される症候性ウエスト症候群と、そうではない潜因性(無症候性)ウエスト症候群に大別される。潜因性の群も、実は微細な奇形が脳にあった場合や、遺伝子異常が解明するなどで症候性に診断が変更されることがある。潜因性と診断されている群は、原因が徐々に解明されつつあり、いずれ多くが症候性に分類されていくと考えられる。 症候性ウエスト症候群の原因としては、周産期脳障害 ウエスト症候群の95%には、精神運動発達遅滞
攣縮(れんしゅく、スパスム)
1から3秒程度の短い時間に、四肢と頭部が瞬間的に強直する(力が入る)[1]。強直発作の短いものであるとする意見もある。典型的なものは、両手両足を伸ばし、頭と一緒に前にガクンと体を折れ曲げるような動きが見られる。イスラム教徒の点頭する(うなずく)動作の礼拝に似ていることから、点頭発作、礼拝様発作などとも呼ばれる。しかし、逆に体を伸ばすようなスパスムや、四肢に同時に力が入るのではなく片手や片足だけ、眼球が偏るだけ、声を出すだけの発作の場合もある。この場合は、臨床的なスパスムとは言わない。一方、ヒプスアリスミア(hypsarhythmia、特徴的な脳波所見)を脳波上認めるときには、これらの点頭ではない発作もスパスムの形を変えたものであることが強く疑われる。また、てんかんの国際的権威であるフランスの医師ジャン・アイカルディ(Jean Aicardi)によれば、発作が本当にスパスムでないかを証明するには、筋電図により微細な四肢の動きを観察する必要があるとされており、実際には臨床上、そこまでの検査は煩雑なため行い難い。このため、国際ウエスト症候群協会では、ヒプスアリスミアがあれば他の形のものもスパスムであろうとみなすとしている。
ヒプスアリスミア(hypsarhythmia)
脳波の形を表す用語。「リズムが無い状態」という意味であり、もともとある脳波のリズムや、他のてんかんで認めるリズムのある脳波異常とは著しく異なる。多くの極波、徐波が色々な場所から不規則にでており、印象としては「グチャグチャ」である。
歴史
疫学
分類
本疾患の原因
新生児期に発症し、周産期脳障害に多い大田原症候群と呼ばれるてんかん症候群は、約半数が本疾患に移行する。また、本疾患の約半数がレノックス・ガストー症候群というてんかん症候群に移行する。 詳しい病態生理
病態生理
また、精神運動発達遅滞に関しては、ヒプスアリスミアが出現することそのものが脳の活動を抑制したり、脳細胞を破壊するのではないかといわれている。このような臨床上の痙攣発作がない、睡眠時に見られる持続的・頻回な脳波異常は、睡眠時てんかん放電重積状態(ESES)と呼ばれる。一方、ランドー・クレフナー症候群のようにヒプスアリスミアではない異常脳波を、ESESとして呈するてんかんも存在しており、ヒプスアリスミアがESESではないという説もあり、定まっていない。
頭部画像検査(CTやMRI)では潜因性ウエスト症候群では通常異常を認めず、症候性ウエスト症候群では、病因(先天感染、脳奇形、周産期障害など)に応じて様々な異常所見を認める。 日本国内で行われているもので、最も効果的な治療薬として、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が挙げられる。下記のビガバトリン
治療
ACTH療法
有効率は文献により大きく異なるが、短期的に発作が止まるのは7割程度という文献が多い。再発は3割程度と考えられる。 経口ステロイド剤であるプレドニゾロンなどの治療薬を内服することがあるが、ACTHよりも副作用が少なくなるわけでもなく、効果が少ないという意見も多いことから国内ではほとんど認めない。 体重kgあたり20-40mgと大量のビタミンB6を1-2週程度使用し、効果があれば継続する。この治療は副作用が少ないためACTHの前に行われ、無効だとACTHに移行することが多い。有効例は10%程度に過ぎない。 抗てんかん薬としては、クロナゼパムやバルプロ酸が比較的よく使われるが、有効例が2から3割程度と低い。 ビガバトリンは本疾患、特に結節性硬化症が原因の群に特に有効で、ヨーロッパでは第一選択となっているが、高頻度で視野狭窄が生じる副作用のリスクがあり、ACTHに比べ一長一短である。
薬理なぜ効果があるのかは仮説の段階でしかない。この治療は、てんかんの中でもほとんどウエスト症候群にしか用いない。ACTHがフィードバックCRHを減少させること、CRHが脳細胞の破壊・てんかんの誘発に関係していると動物実験により認められたことから、CRH仮説がよく唱えられる。その他、促進分泌されたステロイドホルモンが脳細胞の転写因子として転写促進する、髄鞘化を促進する、カルシウムの神経細胞内流入を促進する、GABA(A)受容体に促進的に働く、免疫抑制作用により免疫原性のてんかん促進因子を抑制する、などが挙げられている。
副作用ACTHは体内のステロイドホルモンを分泌させるため、基本的には経口ステロイド剤と同じような副作用が起きうる。ほぼ治療中に認めるのは不機嫌・肥満であり、その他重篤な結果を招きかねないものとして、感染症にかかりやすい(易感染)・心筋肥大・頭蓋内出血・低カリウム血症などが挙げられる。しかし、重篤なものは現在の日本のプロトコールでは少なく、死亡例はほとんど認めない。欧米の使用量では、現在でも文字通り命を掛けた治療である。
経口ステロイド剤
ビタミンB6
抗てんかん薬
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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