ウィキッド
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この項目では、ブロードウェイミュージカルについて説明しています。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンで行われていたショー・アトラクションについては「ウィケッド (アトラクション)」をご覧ください。

ウィキッド
Wicked
作曲ステファン・シュヴァルツ(英語版)
作詞ステファン・シュヴァルツ
脚本ウィニー・ホルツマン(英語版)
原作Wicked(英語版)
初演2003 ? カラン劇場(英語版)
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ウィキッドがロングランしているロンドンのアポロ・ビクトリア劇場にて。

『ウィキッド』(Wicked)は、ブロードウェイミュージカル舞台。サンフランシスコでのトライアウトを経て2003年10月30日ニューヨークのガーシュイン劇場で初演を迎えた。
概要

ストーリーは、アメリカでは広く周知されている少女ドロシーの冒険物語「オズの魔法使い」の裏話として構成され、西の悪い魔女・エルファバと南の良い魔女・グリンダの知られざる友情を描いている。

原作は、1900年に刊行されたライマン・フランク・ボームオズの魔法使い』と1939年に公開された映画『オズの魔法使』を基にし、1995年に刊行されたグレゴリー・マグワイアの『オズの魔女記』 (Wicked: The Life and Times of the Wicked Witch of the West) [注釈 1]。エルファバ (Elphaba) の名前は『オズの魔法使い』の作者ライマン・フランク・ボーム (Lyman Frank Baum) の頭文字L、F、Baから作られた。この作品はオズの国の魔女達の視点で描かれ、ドロシーがカンザス州からオズの国に到着する前から到着した後まで映画や小説のディテールと絡め、『オズの魔法使い』の裏の歴史物語としてもの悲しく語られている。

『オズの魔女記』をウィニー・ホルツマンが書き直し脚本化し、スティーヴン・シュワルツ(英語版)が作詞作曲を手掛けたミュージカル版ウィキッドは、原作を大幅に脚色しなおして、テンポがよく趣のある作品に仕上がった(そのため、キャラクター、ストーリーは原作とは異なっている)。境遇の全く異なる魔女2人、西の悪い魔女エルファバと南の良い魔女グリンダが互いの性格や視点の違いに戸惑いながらの友情、ボーイフレンドとの三角関係、オズの魔法使いによる腐敗政治、エルファバの世間の評判の陥落に焦点を当てながらも、肌の色の違いや動物たちに象徴させたアメリカ社会が抱える弱者への差別問題がある。湾岸戦争がきっかけで制作されたミュージカルであるという話もあり、「アメリカにはアメリカの正義があり、イラクにはイラクの正義がある」といった「表の正義と裏の正義」、「正義とは一体なにか?」といったところにメッセージを込めたいといった製作者の思いがあったという裏話があり[1]、最後にはどんでん返しも用意されている。ちなみに、ミュージカル版にはオズの魔法使いにも出てくる、ブリキ男、カカシ、空を飛ぶ猿たちが誕生秘話も含めて登場する。意気地のないライオンは尻尾だけ、ドロシーは影絵だけで、愛犬トトは名前しか出てこない。

マーク・プラットおよびデイヴィッド・ストーンと提携したユニバーサル・ピクチャーズによりプロデュースされ、ジョー・マンテロ演出、ウエイン・シレント振付により、2003年5月、サンフランシスコのカレン劇場でSHN による、ブロードウェイ公演前の試験興行を経て、2003年10月、ブロードウェイのガーシュイン劇場で開幕した。オリジナル・キャストはエルファバ役にイディナ・メンゼル、グリンダ役にクリスティン・チェノウェス、オズの魔法使い役にジョエル・グレイ[2]。オリジナル・ブロードウェイ公演はトニー賞3部門、ドラマ・デスク・アワード6部門を、キャスト・アルバムはグラミー賞を受賞した。2013年10月30日、ブロードウェイ公演は10周年を迎え、それまで4,155回上演を記録し[2]、史上11番目のロングラン公演作品となった[3]。通常の上演時間は2時間30分で、その他に15分の休憩時間がある[4]

ブロードウェイ公演の成功により、数々の北米公演、ローレンス・オリヴィエ賞にノミネートされたウエスト・エンド公演の他、世界中で公演が上演されている。2003年の開幕から世界中で興行収入の記録を塗り替えており、ロサンゼルスシカゴセントルイスロンドンでは週間興行記録を保持している。2011年1月2日、ロンドン、ブロードウェイ、2つの北米ツアー公演で同時にそれまでの週間興行記録を塗り替えた[5][6]。2013年の最終週、ブロードウェイ公演はさらに記録を塗り替え、320万ドルの興行収入をあげた[7]。ウエスト・エンド公演と北米ツアー公演はそれぞれのべ200万人が鑑賞した。
経緯

作曲・作詞のスティーヴン・シュワルツは休暇中にグレゴリー・マグワイアの1995年の作品『オズの魔女記』を読み、舞台化の構想が浮かんだ[8]。しかしマグワイアは実写映画化を計画していたユニバーサル・ピクチャーズとすでに知的財産権の契約を交わしていた[9]。シュワルツはユニバーサルのプロデューサーであるマーク・プラットに『オズの魔女記』の舞台化について切々と訴えつつ、1998年、シュワルツはコネチカット州でマグワイアを説得した[10]。この結果、プラットはユニバーサルとデイヴィッド・ストーンと共に共同プロデューサーとして契約を結んだ[9]

小説ではドロシーがやって来る何年も前からのオズの国を舞台に政治、社会、善と悪の倫理的解釈を描いている。エメラルド・グリーンの肌色をし、人々から誤解されているが賢く情熱的で、後に悪名高い西の悪い魔女となる少女エルファバと、金髪で美しく人気のある、後に南の良い魔女となる少女グリンダが中心人物となっている。場所や出来事により5章に分かれており、登場人物や状況は1900年のライマン・フランク・ボーム著『オズの魔法使い』および1939年の映画『オズの魔法使』に沿っている。本当に「ウィキッド」(悪い)なのは誰か、良かれと思ったことが悪い結果を生むことが果たして悪気があって悪い結果を生むことと同義であるのかを読者に考えさせる。シュワルツはいかに小説の濃度を凝縮し、複雑な筋を明快にするか熟慮した[10]。最終的にマーク・プロットと共に構想を練り、マグワイアの小説を完全に舞台化するのではなくオリジナルの舞台を作り上げる方向で話し合いを重ね[10]エミー賞受賞脚本家ウィニー・ホルツマンに1年かけて概略を任せることとなった[11]

1939年の映画を基にエルファバの視点から描かれたマグワイアの作品から草稿が作られたが、その舞台化のあらすじは小説の内容から程遠いものとなった。ホルツマンは『プレイビル』誌のインタビューで「悪役であるエルファバの視点で描き、大学で2人の魔女がルームメイトとなるというマグワイアの素晴らしいアイデアを採用したが、小説では描かれていない友情が深まっていく過程が舞台版の大筋となるところが大きな違いである」と語った[12]。シュワルツはこの違いについて「当初は後にグリンダとなるガリンダとエルファバの関係性、この女性2人の友情、そしてこの2人がどのようにして全く違う運命に導かれるのかに興味があった」と語った[13]。この明らかな違いに加え、フィエロのかかしとしての登場、最後の場面でのエルファバの生存、ネッサローズが生まれつき腕がないのではなく車椅子の生活、ボックがグリンダを愛し続けニック・チョッパーの代わりにブリキの木こりになる点、ウィンキー国のヴィンカスでのエルファバの生活がカット、ディラモンド教授が殺されないなどの変更点がある[14]

ミュージカル版の脚本、歌詞、曲は読み合わせの間にどんどん変更された[10]。この時のワークショップには、シュワルツが作曲の際にイメージしていたトニー賞受賞女優クリスティン・チェノウスがグリンダ役で参加していた[15]。当初エルファバ役にはステファニー・J・ブロックが配役されていたが、2000年、イディナ・メンゼルが配役された。2000年初頭、ワークショップからブロードウェイ公演に発展させるため、ニューヨークのプロデューサーであるデイヴィッド・ストーンが起用された。演出にジョー・マンテロ、振付にウエイン・シレントが起用され、トニー賞受賞デザイナーのユージーン・リーが、ボームの小説のウイリアム・ウオレス・デンスロウによる挿絵およびマグワイアが構想した巨大時計を基に舞台装置をデザインした[15]。衣裳デザイナーのスーザン・ヒルファティがエドワード7世の時代の衣裳を基に200着以上の衣裳をデザインし、照明デザイナーのケネス・ポズナーが800以上のライトを使ってそれぞれの雰囲気に合わせた54場面を作り上げた[15]。2003年4月までに全ての出演者が決まり、一般に公開される準備は整った[15]

2003年5月28日、サンフランシスコのカラン劇場でブロードウェイ前のSHNによる試験興行が行なわれた。2003年6月10日、正式に開幕し、6月29日に閉幕した。観客の反応は概ね好評であったが、批評家にはその舞台の美しさは認めつつも脚本、音楽、振付を過小評価した者もいた[16]。『バラエティ』誌のデニス・ハーヴェイは「平凡な」脚本、「陳腐な」歌詞、「ありきたりの」音楽と語りつつ、「スマートな演出」、「優雅なデザイン」、「素晴らしい出演者」であると評価した[17]。『サンノゼ・マーキュリー・ニューズ』のKaren D'Souza は「エメラルド・シティの本当のテーマ」と記した[16]。賛否両論ではあったが、ブロードウェイ公演前に大規模な改訂を行なった[15]。ホルツマンは「スティーブン(・シュワルツ)はサンフランシスコでの公演終了からニューヨークでのリハーサルが始まるまで3ヶ月かけて書き直したと力説していた。これは重要なことだった、ここでこの公演の運命が決まった」と語った[18]

いくつかの曲は少々変更し、脚本の数箇所が書き換えられた[15]。シュワルツが懸念していたフィエロの人生哲学を明示するため、フィエロを紹介する『Which Way is the Party?』がカットされ、その代わりその後の『Dancing Through Life』に代用された[19]。またチェノウス演じるグリンダに比べ、メンゼル演じるエルファバが暗いことが懸念されていた[20]。『サンフランシスコ・クロニクル』紙の批評家ロバート・ハーウィットは「メンゼルが役に入り込んだ悪い魔女エルファバはチェノウスのグリンダの陽気さが必要だ」と記したため[21]、エルファバをより引き立てることにした[20]。ブロードウェイ公演への改訂についてシュワルツは「脚本と音楽を書き換えなくてはいけないことは明らかだった。批評家達は率直で助かった。劇場に来る前から批判するニューヨークと違って、正直で建設的な批評から多くを学んだ」と語った[20]。2003年10月30日、ブロードウェイ公演が開幕した[15]
あらすじ
第一幕

物語は、オズ国民が「西の悪い魔女」の死を喜び祝う場面から始まる。舞台に降臨した「南の善い魔女」グリンダは、あらためて魔女が溶けたことを国民に告げると、死んだ魔女の身上を語り始めた。魔女はその母親と見知らぬ男との情事の産物であり、父親は、全身緑色をした彼女のことを忌み嫌っていた("No One Mourns the Wicked")。これから語られるのは、グリンダと魔女の上に起きたできごとの回想録である。

グリンダ、当時はガリンダ・アップランドと、足に障害を持つ妹・ネッサローズを連れた姉のエルファバは、ともにシズ大学("Dear Old Shiz")に入学する。エルファバの父は、障害を持つ愛娘ネッサローズに宝石をあしらった美しい銀色の靴を贈り、対して姉のエルファバにはネッサローズの世話をするよう厳しく言い渡した。シズ大学学長のマダム・モリブルは学生たちに自己紹介をした後、寮の部屋割を発表する。二人の意に全く反して、初対面から反発しあっていた華やかな人気者ガリンダと生真面目で地味なエルファバは同室になってしまった。エルファバの生来の魔術の才に気づいたマダム・モリブルは、彼女が将来オズの魔法使いの右腕となって活躍できると言う。それを聞いたエルファバは浮き足立ち、魔法使いと自分がこれからどんな偉業を成し遂げるだろうかと夢想する("The Wizard and I")。同室のガリンダとエルファバは、各々の実家に向けた手紙の中で、互いの不運な部屋割や、そりの合わないルームメイトの事を嘆く("What is this Feeling?")。

大学の講義が始まり、シズ大学唯一の動物教師、ヤギのディラモンド教授が登壇するが、彼の授業は動物排斥運動団体によって中止させられてしまう。学生が去った後、ディラモンド教授はエルファバにオズの現状を打ち明ける。オズの実態が外観とは違う事、何者かがオズの動物たちから言葉を話す能力を奪いつつある事を("Something Bad")。

さて、フィエロ・ティゲラーはウィンキー国の王子であったが、王子ゆえ、やはりお気楽で頭がからっぽの男であり、彼の無神経な振る舞いに対して本を飛ばされたエルファバが謝罪を要求するほどであった。彼がシズ大学に入ると、その無類の王族ぶりはすぐに周囲に知れ渡る事となった("Dancing Through Life")。彼が学生を集めて開いたパーティに、ボックというひとりのマンチキンがガリンダを誘う。ところがガリンダは彼の名前をビックだと思っているほどボックに興味がなかった。ガリンダはフィエロをパートナーにと考えていたので、ボックにはネッサローズを誘うように仕向ける。ボックは意に反してネッサローズとダンスをし、ネッサローズはボックに恋してしまう。パーティの支度をしている途中、ガリンダは趣味の悪い黒い三角帽子の入った箱を見つけ、エルファバに「プレゼント」として贈る。その帽子を被ったエルファバがパーティ会場に現れるが、ただ嘲笑の的になっただけであった。しかしエルファバは嘲笑の中ひとり踊りだす。そのときマダム・モリブルが現れ、ガリンダに魔法の杖を手渡す。それは、ガリンダがネッサローズとエルファバにした「親切」に対しての、エルファバの感謝の気持ちであった。良心の呵責を感じたガリンダはダンスフロアに出てエルファバと共に踊り、ふたりは新たな友情を育みはじめる。パーティが終わり、部屋に戻ったガリンダはエルファバに語りかける。新しい友人をイメージチェンジさせ、人気者("Popular")にさせてあげると。そしてガリンダは2人の仲を深めるため、「秘密の教え合いっこ」を提案する。それに対しエルファバは、ネッサローズの不幸な身の上は自分のせいだと明かす。彼女の母は妊娠中、次の子がエルファバのような緑色にならないよう、とある植物を食べ過ぎたのだという。その影響でネッサローズの足は永遠に動かなくなり、母親は出産の時に亡くなってしまった。罪悪感を吐露するエルファバを何気なく慰めたガリンダに、エルファバは少し救われる。一方ガリンダは、自分はフィエロと結婚する予定だと公言する。ただし、その事をフィエロは知らないのだが。

その翌日、遂にオズ当局はディラモンド教授を追放する。新しい歴史の教授はライオンの子を入れた籠を持って登場し、動物はこれから籠に入れて飼育され、二度と言葉を習うことはないと宣う。このライオンが、のちの臆病なライオンである。怒ったエルファバとフィエロはライオンを盗み、解放してやる。ふたりは互いに心動くが、フィエロは動揺し、その場を後にする。エルファバは橋の下に逃げ込み、フィエロのような人が自分のような者を愛することなどないと呟く("I'm Not That Girl")。エルファバを見つけたマダム・モリブルが、彼女がオズの魔法使いに拝謁を許されたと報告する。エメラルド・シティに向かう鉄道の駅で、ガリンダとフィエロはエルファバを見送る。ガリンダは、フィエロの気を引こうと、ディラモンド教授に敬意を表して自分の名前を「グリンダ」にするわ、と宣言した。教授は以前、何度言ってもそのように間違って発音していたのだ。フィエロは聞き流していた。エルファバに心を奪われていた。フィエロのつれない態度に落ち込むグリンダに対し、申し訳なさを感じたエルファバは、一緒に魔法使に会おうとグリンダを誘う。

一日エメラルド・シティを観光した後("One Short Day")、エルファバとグリンダは魔法使いとの謁見へ向かう。魔法使いは来客に会うときは必ず、大掛かりな特殊効果を用いていた。だが、エルファバの前には身一つで姿を現した。それは噂とはかけ離れた、ごく普通の容姿の男性であった。彼はエルファバに、彼の協力者となるよう持ちかける("A Sentimental Man")。マダム・モリブルがエルファバの卓越した魔術の才能について彼に話して聞かせたという。魔法使いがエルファバを招待したのはこのためだった。その時、闇の中からマダム・モリブルその人が姿を現す。エルファバが魔法使いのお気に召すかを案じ、あとをつけてきたのだと言う。実は彼女は出世し、魔法使いの下でオズの国の広報官を務めていたのだ。エルファバはマダム・モリブルの登場に非常に驚いたが、後を尾けられていた事に怒りはせず、モリブルの「宣伝」が上手くいったことを喜んでいた。マダム・モリブルと魔法使いの関係がただならぬものである事は観客の目には早い段階から明白であったが、果たして彼らは密な協力関係にあった。かつ、よからぬ策略においての共謀関係であった。そのわけはすぐに明らかになるのだが、この段階ではまだ語られない。

魔法使いはエルファバに、魔力の試験を課する。魔法の呪文の本グリマリーを使い、召使いの猿チステリーを、空を飛べるようにしてみよというのだ。生まれながらにして古代言語の知識を持っていたエルファバは、見事チステリーに翼を与えてみせた。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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