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インフォームド・コンセント(英: informed consent)とは、「医師と患者との十分な情報を得た(伝えられた)上での合意」を意味する概念[1]。医師が説明をし、同意を得ること。特に、医療行為(投薬・手術・検査など)や治験などの対象者(患者や被験者)が、治療や臨床試験・治験の内容についてよく説明を受け十分理解した上で(英: informed)、対象者が自らの自由意志に基づいて医療従事者と方針において合意する(同意する)(英: consent)ことである(単なる「同意」だけでなく、説明を受けた上で治療を拒否することもインフォームド・コンセントに含まれる)。説明の内容としては、対象となる行為の名称・内容・期待されている結果のみではなく、代替治療、副作用や成功率、費用、予後までも含んだ正確な情報が与えられることが望まれている。また、患者・被験者側も納得するまで質問し、説明を求めなければならない。これは医療倫理から派生した概念であり、患者の権利の一つともされる。
インフォームド・コンセントについて、日本医師会生命倫理懇談会は1990年に「説明と同意」と表現し、患者の自己決定権を保障するシステムあるいは一連のプロセスであると説明している。1997年に医療法が改正され「説明と同意」を行う義務が、初めて法律として明文化された[2]。
医療法の一部を改正する法律(97年12月17日法律第125号)に基づくインフォームドコンセント義務の第1条の4第2項への挿入は96年12月13日に閣法として第139回国会衆議院本会議に厚生大臣小泉純一郎が趣旨説明を行い審議入りしたが提出年月日は96年11月29日で成立年月日は97年12月9日である。
医療法の一部を改正する法律(1997年法律第125号)
医療法(1948年法律第205号)の一部を次のように改正する
第1条の4中第3項を第4項とし、第2項を第3項とし、第1項の次に次の1項を加える。
2 医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。
修正時期は特定出来ないが同条文中の看護婦は以下のように看護師に字句修正されている。
2 医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。
なお、英語の本来の意味としては「あらゆる」法的契約に適用されうる概念であるが、日本語でこの用語を用いる場合はもっぱら医療行為に対して使用される(#日本語訳の取り組みを参照。医療行為以外については説明責任を参照)。
本項では医療行為に伴うインフォームド・コンセント、特に医師を始めとする医療サービスの提供者(以下、医療従事者)と、患者との間でなされるインフォームド・コンセントについて述べる。 インフォームド・コンセントの概念として「説明・理解」と、それを条件にした「合意」の、いずれも欠けないことが重要である。また、ここでの「合意 (consent)とは、双方の意見の一致・コンセンサスという意味であり、必ずしも提案された治療方針を患者が受け入れるということを意味しない(医療従事者の提案を拒否すること「Informed refusal
概念
患者が「全部お任せします」といって十分に理解しようとせずに署名だけするような事態や、医療従事者が強引に誘導して方針に同意させるような事態は、不適切なインフォームド・コンセントの典型例である。一方で、患者が充分な説明の元で治療方針を「拒否」し、医療従事者側がそれを受け入れた場合、これは充分なインフォームド・コンセントといえる。(医療において患者は、いかなる選択をしようと、公序良俗に反しない限り、自己決定権の範囲内として法的にも尊重される。)
インフォームド・コンセントは、旧来の、医師・歯科医師の権威(パターナリズム)に基づいた医療を改め、患者の自己決定権・選択権・自由意志を最大限尊重するという理念に基づいている。説明する側は医療行為の利点のみならず、予期される合併症や、代替方法についても十分な説明を行い、同意を得る必要がある。また、この同意はいつでも撤回できることが条件として重要である。こうすることで初めて、自由意志で治療または実験を受けられることになる。
臨床試験/治験についてインフォームド・コンセントの必要性を勧告したヘルシンキ宣言は、ナチス・ドイツの人体実験への反省から生まれたニュルンベルク綱領をもとにしている。
日本では、1990年1月の日本医師会第II次生命倫理懇談会「『説明と同意』についての報告」、1996年日本医師会第IV次生命倫理懇談会「『医師に求められる社会的責任』についての報告」に始まり、1997年(平成9年)の医療法改正によって、医療者は適切な説明を行って、医療を受ける者の理解を得るよう努力する義務が初めて明記された。さらに国際法的にも2006年11月に議決されたジョグジャカルタ原則によってその必要性と重要性が明記された。
説明・理解のない治療で侵襲を与えた場合、近年[いつ?]の日本では民事訴訟で医療従事者側に対する損害賠償が認められる傾向にある[要出典]。説明・理解のない治療は刑法上の傷害罪や殺人罪に当たるという主張もある[要出典]。ただし、現在の日本では、これらの容疑で医療従事者が起訴されることは非常に稀である。 インフォームド・コンセントは、1990年に日本医師会が公表した「『説明と同意』についての報告」において「説明と同意」という語で表現され[3]、アメリカ合衆国のシステムを参考に日本国独自のものとしてまとめられた[4]。これがインフォームド・コンセントの最も有名な和訳とされている[5]。その他、「説明、納得、同意」などの日本語もあてられてきた[5]。 しかし、ここで日本医師会生命倫理懇談会が「説明と同意」という語で表現したのは[注 1]、日本国とアメリカ合衆国ではインフォームド・コンセントの概念が異なるからである[8]。日本医師会の常任理事は「説明と同意」と「インフォームド・コンセント」は概念が異なるため「インフォームド・コンセント」という言葉を入れてはいけないと発言している[8]。医療制度や国民性の差異によって、インフォームド・コンセント法理の発展には相違がある[9]。 訴訟社会であるアメリカ合衆国では、医療過誤が弁護士の餌食となっており、本来の意義とは異なり、インフォームド・コンセントは裁判に訴えられないための防波堤としての場合もある[10]。このような医療不信や訴訟の増加は、大きな社会的費用となりうる[5]。 1993年、厚生省は『インフォームド・コンセントのあり方に関する検討会』を設置し、インフォームド・コンセントの法制化は、医療従事者と患者の信頼関係を損なう恐れがあるとして否定的な見解を出し、用語については強い訳語を作らないで「インフォームド・コンセント」と片仮名で表記する内容の報告書を提出した[3]。インフォームド・コンセントは「患者が医療者に行うものであって、医療者はインフォームド・コンセントを受ける側である」ため、日本語に翻訳するとしっくりせず、インフォームド・コンセント[注 2]としてそのまま使用されている[11]。 これに対し日本弁護士連合会は、2011年10月6日第54回人権擁護大会の声明において、「我が国には、このような基本的人権である患者の権利を定めた法律がない」「日本医師会生命倫理懇談会による1990年の『説明と同意』についての報告も、こうした流れを受けたものではあるが、『説明と同意』という訳語は、インフォームド・コンセントの理念を正しく伝えず、むしろ従来型のパターナリズムを温存させるものである」と批判した[12]。
日本語訳の取り組み