インパクトファクター
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インパクトファクター(Impact Factor; IF)またはジャーナルインパクトファクター(Journal Impact Factor; JIF)は、自然科学社会科学学術雑誌が各分野内で持つ相対的な影響力の大きさを測る指標の一つである。端的には、その雑誌に掲載された論文が一年あたりに引用される回数の平均値を表す[1]。一般にインパクトファクターの値が高いジャーナルは、値が低いジャーナルよりも重要であり、それぞれの分野でより本質的な名声を持っていると見なされる。ひいては、大学教員や研究者の人事評価においても利用されることも多い。一方で、この指標は、ジャーナルの厳密性との相関が全くないなど[2]、批判も多い。
歴史ユージン・ガーフィールド(2007)

インパクトファクターは、科学情報研究所(ISI)の創設者であるユージン・ガーフィールド(英語版)が考案した。インパクトファクターは、ジャーナルサイテーションレポート(JCR)にリストされているジャーナルについて、1975年から毎年計算されている。インパクトファクターは、特定のフィールド内のさまざまなジャーナルを比較するために使用され、自然科学・社会科学分野の11,500を超える雑誌が対象である(2017年現在)[3]。ISIは1992年にThomson Scientific & Healthcareに買収され[4] 、トムソンISI(Thomson ISI)となった。2018年、トムソンISIは投資ファンドであるオネックス・コーポレーション(Onex Corporation)とベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(Baring Private Equity Asia)に売却され[5]、クラリベイト ・アナリティクス(Clarivate Analytics)として現在もJCRの発行を行っている[6]。そのため現在のインパクトファクターは、クラリベイト社の引用文献データベースであるWeb of Science(WoS)に収録されたデータを元に算出されている。
上位ランキングの雑誌

Nature - IF 69.504

Cell - IF 66.850

Science - IF 63.714

計算方法
定式化

インパクトファクターはWeb of Scienceの収録雑誌の3年分のデータを用いて計算される。任意の年における2年間ジャーナルインパクトファクター(two-year journal impact factor)は、そのジャーナルの全出版物について過去2年間に発行された引用数と、そのジャーナルで過去2年間に発行された「引用可能なアイテム(後述)」との比率である[7][8]。定式化すると、以下の通りである。 IF y = Citations y Publications y − 1 + Publications y − 2 {\displaystyle {\text{IF}}_{y}={{\text{Citations}}_{y} \over {\text{Publications}}_{y-1}+{\text{Publications}}_{y-2}}}
サンプル例

たとえばある雑誌の2004年のインパクトファクターは2002年2003年の論文数、2004年のその雑誌の被引用回数から次のように求める。A=対象の雑誌が2002年に掲載した論文数B=対象の雑誌が2003年に掲載した論文数C=対象の雑誌が2002年,2003年に掲載した論文が、2004年に引用された延べ回数

∴C÷(A+B)=2004年のインパクトファクター

例えば、この2年間合計で1,000報記事を掲載した雑誌があったとして、それら1,000報の記事が2004年に延べ500回引用されたとしたら、この雑誌の2004年版のインパクトファクターは0.5になる。
実際の計算例

具体例としては、例えば2017年のネイチャー誌のインパクトファクターは41.577であった[9]

IF 2017 = Citations 2017 Publications 2016 + Publications 2015 = 74090 880 + 902 = 41.577 {\displaystyle {\text{IF}}_{2017}={{\text{Citations}}_{2017} \over {\text{Publications}}_{2016}+{\text{Publications}}_{2015}}={74090 \over 880+902}=41.577} これは、平均して、2015年と2016年に発行された論文が2017年にそれぞれ約42件の引用を受けたことを意味している。ここで、2017年のインパクトファクターは2018年に報告されていることに注意が必要である。すなわち、2017年のすべての出版物がインデックス作成機関によって処理されるまで、当該年度のインパクトファクターを計算することはできない。
「引用可能なアイテム」の定義

インパクトファクターは「平均的な論文」の被引用回数を示すものである。そのため、「引用」と「出版物(引用可能なアイテム)」をどのように定義するかによって、数字が変わってくる。現在の慣行では、「引用」と「出版物」の両方が、クラリベイト社によって独占的に定義されている。例えば、Web of Science(WoS)データベースでは「出版物」の中には「記事(article)」「総説(review)」「議事録(proceedings paper)」が含まれそれ以外の社説(editorial)、訂正(correction)、ノート(note)、撤回(retraction)、議論(discussion)などの他の記事項目は除外されている[10]。登録をすればユーザーはWoSにアクセスし、各ジャーナルにおける引用可能なアイテム数を個別に確認できる。対照的に、引用数はWoSデータベースからではなく、一般の読者がアクセスできない専用のJCRデータベースから抽出される。したがって、一般的に使用される「JCRインパクトファクター」は独自の値であり、クラリベイト社によって定義と計算がなされ、外部ユーザーが検証することはできない[11]。一方で、これらの引用情報は各著者が論文の末尾に記載した参照文献件目録(renferenceやbibliography)がソースとなっており、引用文献のドキュメントタイプをデータ作成者側のクラリベイト社は把握することができない[要出典]。そのため、分子と分母のドキュメントタイプは一致しない[要出典]。

インパクトファクターはWeb of Scienceに収録される雑誌の3年間のデータを元に算出する。そのため、第1巻第1号からWoSに索引付けされた新しいジャーナルについては、2年間の索引付け後にインパクトファクターを受け取ることになる(この場合、二年前(すなわち発行開始以前)の出版物については、出版数0引用件数0としてインパクトファクターが計算される)。また、第1巻以降の途中の巻号からWoSに索引付けされたジャーナルについては、3年間の索引付けがされるまで、インパクトファクターを取得できない。ただし時折JCRは、部分的な引用データに基づいて、索引付けが2年未満の新しいジャーナルにもインパクトファクターを割り当てることがある[12][13]。年度出版物やその他の不規則な出版物は、特定の年にアイテムを出版しないことがあり、カウントに影響を与える。また、インパクトファクターは2年に限らず、任意の期間で計算することができる。たとえば、JCRには5年間インパクトファクター(five-year impact factor)も含まれている。これは、特定の年のジャーナルへの引用数を、過去5年間にそのジャーナルに掲載された記事の数で割ることで計算される[14][15]
使い方

ジャーナルインパクトファクターは、ジャーナル自体の評価だけではなく、個々の記事や研究者の評価のためにもよく使用される[16]。インパクトファクターのこの使用方法は、Hoeffelによって以下のように要約されている[17]

インパクトファクターは、記事の品質を測定するための完璧なツールではありませんが、これ以上優れたものはなく、すでに存在しているという利点があるため、科学的評価に適した手法です。経験によれば、各専門分野で最高のジャーナルは、記事を受け入れるのが最も難しいジャーナルであり、これらはインパクトファクターの高いジャーナルです。これらのジャーナルのほとんどは、インパクトファクターが考案されるずっと前から存在していました。インパクトファクターを品質の尺度として使用することは、私たちの専門分野で最高のジャーナルの各分野で私たちが持っている意見とよく一致するため、広く普及しています。…結論として、一流のジャーナルは高レベルの論文を発表しています。したがって、それらのインパクトファクターは高く、逆ではありません。

しかしながらインパクトファクターは本来、記事レベルや個人レベルの指標ではなく、ジャーナルレベルの指標であるため、この使用法については議論の余地がある。例えばGarfieldは、Hoeffelに同意しているが[18] 、「単一のジャーナル内の記事ごとに[引用の]幅広いバリエーションがある」ため、「個人の評価における誤用」について警告をしている[19]。ガーフィールドはインパクトファクターに対する誤解に対して、次のように述べている。

「私は1955年に最初に雑誌「Science」においてインパクトファクターのアイデアについて言及した。〔中略〕1955年時点では「インパクト」というものがいつの日か大きな論議を巻き起こすものになるとは思い及ばなかった。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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