インスマスを覆う影
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インスマウスの影
The Shadow Over Innsmouth
訳題「インスマスを覆う影」など
作者
ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
アメリカ合衆国
言語英語
ジャンルホラークトゥルフ神話
刊本情報
出版元Visionary Publishing Company(私家版)
出版年月日1936年4月
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「インスマウスの影」ウィアード・テイルズ』1942年1月号掲載時の挿絵(ハネス・ボク[1]

『インスマウスの影』(インスマウスのかげ、: The Shadow Over Innsmouth)あるいは、『インスマスを覆う影』(インスマスをおおうかげ)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフト1936年に発表した小説。
解説

ダニッチの怪』(1928年)、『クトゥルフの呼び声』(1928年)と並ぶラヴクラフトの代表作である。後半が追ってくる怪物たちからの逃走、脱出譚で占められているなど、ラヴクラフトのクトゥルフ神話系作品としては、スリラー・サスペンスの要素が強い。大瀧啓裕は、『クトゥルフの呼び声』『ダンウィッチの怪』『インスマウスの影』の3作品をダーレスによるクトゥルフ神話体系の中核と述べる[2]。クトゥルフ神話内においては「インスマウス物語」の代表作である[3][4]

執筆は1931年。ラヴクラフトは、いつものようにパルプ・マガジンウィアード・テイルズ』(以下WT)に送るつもりだったが、自信がなくなり、投稿を見合わせてしまった[5]。のち、彼のファンのひとりによって出版されたが、流通したのはわずか200部で、しかもひどい製本、印刷であった[6]。これがラヴクラフトにとって、生前、作品が単行本のかたちで出た唯一のものである。

ラヴクラフトの没後、1939年にアーカムハウスから刊行されたラヴクラフト作品集『アウトサイダーその他(英語版)』に収録された。さらにその後、WT1942年1月号に掲載されたが、このときは内容を削除した短縮版であった。またWT版ではハネス・ボクが挿絵を担当しており、傑作と名高い。[1]

不幸続きの少年時代に自らの家系(特に母方はニューイングランドの旧家で近親婚が多かったという)を呪われたものと信じたラヴクラフトが血筋への恐怖を描いたものとも、また20世紀初頭の保守的なアメリカ人の例に漏れず、ユダヤ人有色人種異教徒を嫌悪していたラヴクラフトが、その嫌悪感を作中の怪物に重ねて書いたものとも、またラヴクラウフト自身の海の生物への病的な嫌悪感などが反映していると言われている。しかし同時に、それらとの混血、血筋で結ばれているというタブーに異世界住人への憧憬、自己同一視、逆の選民意識も見て取れる。ニューイングランドの荒廃した古い漁村の描写は、まだ生活に余裕のあった頃のラヴクラフトが各地を旅行し古い建物を見て回っていた好古趣味が反映されている。

舞台となった町については別記事にて解説する。詳細は「インスマウス」を参照
作品内容
あらすじ

1927年7月、成人となった記念にニューイングランドを旅する主人公(私)は、好古趣味、旅費節約、及び怖いもの見たさのため、大人たちの忠告をよそに、ニューベリーポートからインスマウス経由アーカム行きのバスに乗り、かつては賑わっていたが、数十年前に疫病で没落したと噂されている港町インスマウスに赴く。

着いてみると、建物はどれも廃屋のようで鎧戸が閉めきられている。しかし誰か住んでいる気配もある。まばらに会う人たちは、不気味な魚めいた顔立ちをした者が少なくない。私は、酔いどれの老人から街が荒廃した真の原因を聞く。かつてオーベッド・マーシュという船長が、遠い南の海で、謎の海洋生物と混血すればその子孫は、歳をとるにつれ体が海中生活向きに変化を来たし、いずれは海中都市で不死の生活がおくれるという風習を黄金を受け取るとの交換条件でインスマウスに持ち帰り、そいつらに反対する人間は粛清されてしまったためだというのだ。そして現在もこのインスマウスでは、体に変化をきたした者たちは、海中生活できる体に完全に変わるまでは家に閉じこもっているのだという。しかしそれは部外者には語ってはいけない秘密だった。今語っているところを何者かに見られたと老人は狂ったように走り去る。

私も、街の陰気さ、魚臭さ、人間と思えぬ人々、その自分を見る目に恐れを抱き、最後のバスでインスマウスを去ろうとするが、バスは故障し、町のホテルでの一泊を余儀なくされることとなる。深夜、声からして人間でない複数の何者かが部屋の鍵をこじあけようとしていることに私は気づき、ホテルの窓から隣の廃屋の屋根へと伝って逃亡する。街から脱出しようとするも、多くの追っ手の影があちこちに出没する。それは人間ではなかった。私はその姿をまともに見た途端気絶するが、草深い廃線路の中にいたので追っ手には見つからず、翌日インスマウスからの脱出に成功する。

私からインスマウスの秘密は警察に知らされ、のち爆破処理も含めて、インスマウスは当局の手入れを受ける。しかし、のち私は家系図をつくるために祖先を調べていたさい、自分がマーシュ船長とその謎の海中生物とのあいだにできた子どもの子孫であったことを知る。
登場人物

[8] - 語り部。年齢は、1927年時点で成人になったばかり。本作品は彼の回想形式で記録されている。

オーベッド・マーシュ船長 - 数世代前の人物。インスマウスの町に、豊漁や黄金と共に、不気味な宗教をもたらした。

バーナード・マーシュ老 - マーシュ家の現当主で、金の精錬所を経営している。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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