イモガイ属
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イモガイ
いろいろなイモガイ
分類

:動物界 Animalia
:軟体動物門 Mollusca
:腹足綱 Gastropoda
:新腹足目 Neogastropoda
:イモガイ科 Conidae
亜科:イモガイ亜科 Coninae
:イモガイ属 Conus

学名
Conus
タイプ種
ナンヨウクロミナシ
(Conus marmoreus)
Linnaeus, 1758
和名
イモガイ(芋貝)
ミナシガイ(身無貝)
英名
Cone shell,
Cone snail

約500種を数える
本項参照

イモガイ(芋貝)は、20世紀末頃まではイモガイ科貝類の総称、21世紀初頭ではイモガイ科のうちのイモガイ亜科の貝類の総称、もしくはイモガイ上科のうち“イモガイ型”の貝殻をもつ貝類の総称。別名ミナシガイ(身無貝)。
概要

全てが産で、潮間帯から深海まで棲息する。捕食性で、歯舌が特化した神経毒毒腺が付いたで他の動物を刺して麻痺させて餌とする。毒は種類によって異なるが、ヒトが刺されて死亡する場合もある(後述)。

約500種を数えるが、分類は必ずしも確定したものではない。旧来は殻の外見が"イモガイ型"のものをまとめてイモガイ科を構成させていたが、この当時でも分類は幾分混乱しており、全てが単独のイモガイ属 Conus (属のタイプはナンヨウクロミナシ C. marmoreus)として扱われる場合や、Conus の下に多数の亜属が使用される場合、これらの亜属が属として使用される場合など、の扱いは研究者によってまちまちであった。

20世紀末には従来クダマキガイ科に含められていた貝類の一部もイモガイ科に含まれるようになったため、従来のイモガイ類はその中のイモガイ亜科としてまとめられるようになった[1]。しかし2009年には、イモガイ亜科を解体して複数の科と亜科とに分けるイモガイ上科の分類も提唱された[2]。これを受け入れるなら、従来のイモガイ類は、イモガイ上科のうち単に"イモガイ型"の貝殻をもつものの総称、ということになる。

アンボイナ(学名「コヌス・ゲオグラピュス」)とツボイモ(学名「コヌス・アウリクス」)は「最も有毒な貝」としてギネスブックに掲載されている[3]
分布

世界暖流域に分布するが、熱帯域のサンゴ礁に特に種類が多い。日本では、太平洋側では主に房総半島以南、日本海側では主に能登半島以南など、黒潮対馬暖流などの暖流の影響の強い地域に見られる。本土では直接黒潮に接する千葉県和歌山県高知県などに多くの種が見られるが、南西諸島を抱える沖縄県鹿児島県は種類が格段に増え、特に沖縄県では約110種を数える[4]
形態

殻は円錐形で、ほとんどの種で螺塔が低く殻口が狭い。殻長は最大で23cm程度までになる。英語の cone shell (円錐形の貝)も円錐形をした殻に由来する。和名のイモガイは殻の形がサトイモの芋に似るからといわれており、俗名のミナシガイも狭い殻口から見え隠れするわずかな身に由来する。
生態

全種が肉食性で、食性により食性(小魚などの脊椎動物)、食性(ゴカイなど環形動物)、貝食性(貝類を主とした軟体動物)に分けられる。なかにはタガヤサンミナシ C. textile のように巻貝専門で、他のイモガイまで食べてしまう種もある。捕食法も魚食性の種は積極的に出歩いて獲物を狩る探索型と、待ち伏せて捕らえる待ち伏せ型とに大別される。

イモガイは動作が緩慢なので、魚のような俊敏な動きの獲物に対しては、歯舌を発達させた毒銛(矢舌とも呼ばれる)を撃ち、その体内に神経毒を注入し麻痺させて捕まえる。また身に危険を感じたときも、外に対してこの毒銛を撃つ場合もある。特に魚食性や一部の貝食性のイモガイは、その毒性が人を殺すのに十分なまでに発達したものがいる。種数が多い虫食性のイモガイの毒は致死的ではないものの扱いには十分な注意が必要である。

天敵は貝食性イモガイ(タガヤサンミナシガイなど)を除くと甲殻類(強力な鋏脚を持つガザミなどワタリガニ科や貝食性に特化したヤマトカラッパなどカラッパ科をはじめとしたカニイセエビなど)で、甲殻類に対して毒銛による攻撃は通じない。
人間との関わり

イモガイは食用に供されることはほとんどないが、刺されるとに至る猛毒を有する危険生物であり、ヒョウモンダコとともに磯遊びやダイビング[要曖昧さ回避]時における要注意生物の筆頭に挙げられている。しかし、その一方で近年その毒が医療分野で画期的な新薬として期待されている。またその殻が美麗であり、かつ希少とされる種も多いので、コレクション装飾品の対象とされる。
銛と毒液

イモガイの毒銛は、歯舌(舌と歯の働きをする軟体動物の器官)が発達したものである。毒銛の先端は鋭くとがっていて容易に抜けないように逆トゲまで備わっている。銛の内部は中空で、発射時には毒液で満たされる。根元はに相当する伸縮性のある細い管につながっており、そのさらに根元には毒腺がついている。

毒銛は、通常は鉾先を出した状態で、と呼ばれる柔軟性のある管の先端内部に隠されている。獲物に気付くと、貝は吻をそちらへ向け、それと同時に銛の内部に毒液が充填され、筋収縮を用いて獲物に向けて発射される。毒は瞬時に獲物の全身にまわり、小魚であれば即死する。貝はそれを見計らって綱をたぐり寄せ、麻痺した獲物を軟体部で覆って消化に取りかかる。毒銛は消化後、背骨といった獲物の消化できない部分とともに吐き出される。コノトキシンと呼ばれるイモガイの毒は神経毒で、何百もの異なる成分からなる混合物である。その成分構成や成分比は種により様々に変化する。
危険な生き物

イモガイはその貝殻の色や模様が美しく、また美しいサンゴ礁の周辺や砂浜など人目につく場所にいることが多いのでよく素手で拾い上げられるが、その後皮膚に密着させていたりすると外敵とみなされて毒銛で刺され、死に至るケースがある。イモガイ1個体に含まれる毒は、およそ30人分の致死量に相当する。アンボイナ C. geographus は俗に英語で cigarette snail (葉巻貝)と呼ばれているが、これは、タバコを一服する間に死を迎えるという意味である。同種は沖縄県でもハブガイ、ハマナカーといった俗名があるが、前者はその毒性を毒蛇のハブに喩えたもの、後者は刺されたら陸に辿り着く前にの途中で死ぬ、といった意味を持つ。毒銛は、ときに軍手ウエットスーツさえ突き抜ける。琉球列島では1896-1996年の間に確認された被害例が30件あり、死亡例はそのうち8件、それらはすべてアンボイナによるものであった。加害例そのものではほかにニシキミナシ、タガヤサンミナシ、ヤキイモの例があった[5]

イモガイの刺した直後は全く痛みを感じず、自覚がないことがほとんどであるが、その後しばらくして患部に激が生じ、続いて痺れ腫れ、疼き、めまい嘔吐発熱といった症状が出る。ひどい場合は、視力血圧の低下、全身麻痺、さらには呼吸不全により死に至る。イモガイの毒には抗毒血清がないので、毒が被害者の体内で代謝され抜けきるまで、なんとか生命を持ちこたえさせることが唯一の救命策である。アンボイナではその毒は神経性で、呼吸筋の麻痺によって死に至るが、心筋や中枢神経には被害が及ばないため、人工呼吸器で対応することで乗り切れるとのこと[5]
毒素の医療応用

ヤキイモ C. magusの毒には、モルヒネの1,000倍強力な鎮痛作用を示す成分が含まれている。この成分に由来した初のイモガイ毒由来の鎮痛剤ジコノタイド (Ziconotide) は、2004年12月にアメリカ合衆国連邦食品医薬品局 (FDA) により医薬品として承認されており、その劇的な鎮痛効果から、将来的にはモルヒネに取って代わることが期待されている。


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