イボガイン
IUPAC命名法による物質名
IUPAC名
12-メトキシイボガミン
識別
CAS番号
83-74-9
イボガイン(ibogaine)は、インドールアルカロイドの1種で、長時間作用型の幻覚剤である。天然にはキョウチクトウ科の植物、特にイボガ(Tabernanthe iboga, アフリカ西部産の多年生小潅木)の根皮に多く含まれる。
メサドンとは異なりオピオイドに限らず、様々な薬物依存症の治療に利用する事が模索されている。ただし、イボガインを多量に摂取すると、麻痺、痙攣、死につながる場合がある。 古くはイボガの根の皮を噛む方法で、イボガインなどの含有成分を摂取していた。販売されている形態としては、イボガイン塩酸塩の結晶やインドラ(Indra)という抽出物が知られる。研究用には、結果のばらつきを減らすために、純粋なアルカロイドの形である塩酸塩が好まれる。インドラにはイボガの根が持つ13種のアルカロイドが含まれると言われ、アフリカの民間伝承で使われていた天然物に、より近い効果が得られる。 1901年にディボフスキ (Dybowski) とランドリン (Landrin)[1]、およびハラー (Haller) とヘッケル (Heckel) によって、それぞれ独立にイボガから単離された。植物体の標本は1800年代中頃のアフリカ、ガボンで採取された物で、そこではブウィティ イボガインの全合成は、1966年にビュッヒ (Buchi) によって達成された[2]。それ以来、幾通りかの全合成経路が開拓された[3]。 イボガインを薬物使用障害
処方
歴史
1990年代初頭に、アメリカ国立薬物乱用研究所(英語版) (NIDA) はイボガインの治験第I相を開始したが、知的財産権および資金の問題により難航している[9]。
薬物依存症のヒトの被験者においてイボガインがオピオイド離脱症状を緩和する効果を示すデータは、1999年にアルパー (Alper) ら[10]、2000年にマッシュ (Mash) らにより報じられた[11]。
研究「幻覚剤#21世紀のサイケデリック・ルネッサンス」も参照
アメリカ国立薬物乱用研究所(NIDA)は、1990年代初頭からイボガインの研究プロジェクトに資金援助を行っていた。しかし、他の報告により、非常に大量を投与すると脳に損傷を与える可能性が、また既往症を持つ患者は致死性の不整脈を起こす可能性が有るとされたこと、さらに、イボガインに関する研究において不適切な予算使用が行われたため、NIDAは1995年に臨床研究へ発展させる試みを取りやめた。しかし個別・間接的な資金提供は継続しており、しばしばイボガインに関する論文の誌上発表に際し助成金の供出元としてNIDAが挙げられている。
加えて、何年にもわたる研究成果と基本的手法の数々の大幅な変更により、2006年8月17日に、幻覚剤研究学際協会(英語版) (MAPS) により資金提供を受けた研究チームが、カナダ治験審査委員会 (Canadian Institutional Review Board) から長期的観測による事例研究を遂行することの「無条件認可」を得た。その研究では、バンクーバーのイボガ・セラピー・ハウス (Iboga Therapy House) において、イボガインを用いたオピエート依存症からの脱却・治療を求める20人の被験者について物質使用による変化などの調査を行う。 ヒトにおいて低用量では、中程度の効果を持つ覚醒剤として作用する。高用量では幻覚や運動失調を伴う一時的症状が見られる。最も良く研究されている長期的な治療効果は、オピオイドの禁断症状を軽減し、オピオイドへの依存症を一部あるいは完全に停止させるのを助けるらしい、という点である。 さらに、オピオイドの依存症の治療のために用いるメサドンとは異なり、イボガインの場合は、エタノール、メタンフェタミン、ニコチンなど他の薬物への依存症の治療にも有効な可能性があり、薬物依存(化学的依存)ではなく心因性の依存に効果を有する事を示唆する研究結果も示されている。クラウディオ・ナランホ イボガインの薬理は非常に複雑であり、多数の異なる神経伝達物質系に同時に作用する事が知られている[13][14]。ただし、いずれの標的部位においても作用強度がかなり低いため、強い効果を期待しないならば、大抵は体重1 kg当たりイボガインを5 mg、複数の薬物依存に重度に陥っている場合には30 (mg/kg)の用量で使われる。それ以上の量をヒトに対して用いた場合は、治療上有用であるのか、医学上危険であるか、単に持続時間が延びるだけなのかについては、不明である。 イボガインの作用機序として、脳の腹側被蓋野 (VTA) でグリア細胞株由来神経栄養因子 (GDNF) を活性化するという経路が提唱されている。この説はエタノールを用いたラットでの前臨床的研究に主に基づいており、そこでは40 (mg/kg)のイボガインを投与すると、GDNFによるRNA発現量が増加し、エタノールの摂取量を減らしても神経毒性や細胞死が見られなかったとしている[15]。 イボガインはα3β4ニコチン性アセチルコリン受容体に対する非競合的な受容体拮抗薬であり、中程度の親和力で結合する。
生理作用
薬理学
作用機序と薬力学