イトグモ
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イトグモ
イトグモ
分類

:動物界 Animalia
:節足動物門 Arthropoda
亜門:鋏角亜門 Chelicerata
上綱:クモ上綱 Cryptopneustida
:クモ綱(蛛形綱) Arachnida
亜綱:クモ亜綱(書肺類) Pulmonata
:クモ目 Araneae
:イトグモ科 Sicariidae
:イトグモ属 Loxosceles
:イトグモ L. reclusa

学名
Loxosceles rufescens (Dufour, 1820)
和名
イトグモ

イトグモ Loxosceles rufescens はイトグモ科クモの1種。本科のものでは唯一の日本産の種であるが、移入によると思われる。家屋内の薄暗いところに生息する。近年有毒であることが判明した。
概説

細長い脚の、卵形の腹部を持つクモである。全身黄褐色系の色で、特に斑紋もない。日本では人家に多く見られ、物陰に生活している。不規則な見かけの網を張るが、夜間は網を離れて歩くこともあり、またそこで獲物を捕ることもある。

日本には明治以前に入った帰化動物と考えられている。原産地は地中海沿岸地域と推定されており、その地域では野外の地表の石の下や洞窟に生息している、しかし現在では日本を含め、世界の熱帯から暖帯域にかなり広汎に知られ、それらは人為的な拡散によると考えられる。そのような地域では人造的な建造物に生息している。

この類には有名な毒グモが含まれているが、本種の毒性は長らく知られてこなかった。しかし近年に本種の被害例が知られるようになり、日本でも被害例が出ている。噛まれると局所的な皮膚の壊死を生じることがある。
特徴

体長は雌で10mm、雄で8mmのほぼ中型のクモ[1]。全体に褐色を帯びたクモで、雌では背甲と歩脚は褐色から赤褐色、胸板は黄褐色、腹部は灰黄色から褐色をしており、雄では同様ながら全体に雌より色が濃い。頭胸部は背面に膨らむものの強く盛り上がってはいない。外形としては頭部がやや幅狭く、胸部が左右に膨らんでいる。背甲の上面には頭部との境界になる頸溝、中央にあるくぼみの中窩、それに中窩から側面淵に向かって走る放射溝はいずれも明瞭。は6個で、中央前方に2個、やや後方左右に2個がそれぞれ集まっており、全体の配置は三角形になっている。額は頭部の面の延長上にあり、その前の縁には長い毛が多数ある。上顎は平行になっており、その先端にある牙は短く、その内側先端に1本、爪状の歯がある。下顎は長くて湾曲しており、下唇を両側から囲んで先端で互いに接する。下唇は長い。

歩脚は細長く、第2脚が最も長い。第1脚、第4脚とそれに次ぎ、第2脚が一番短い。歩脚には全体に毛が多いが、刺毛などはない。腹部は長卵形で滑らか、斑紋等はない。糸疣では前疣が長く、その中間に長い間疣がある。中疣は後疣の間に並んでいる。
習性など

日本においては里山から市街地まで、建築物の中かその周囲で見られる[2]物置、縁の下、押し入れなどの薄暗い場所に見られる[3]。壁板の隙間など暗いところにボロ網を張る。他方、夜行性で、夜間には網を離れて歩き回ることも見られる[2]。網の形は不規則網とすることもあるが、捕虫はむしろ徘徊中に行われるとの声もある[3]

この種が作る網には特殊なリボン状の糸が張られており、これはその表面積を大きくするとともに強く静電気を帯び、それによって獲物を捕まえることができる[4]。これは多くのクモが使う粘液球のついたものとも、篩板類のクモが作る疏糸とも異なるものである。その性能は長持ちし、このことは後述するように本種が原産地では特に乾燥した環境で生活する点で重要な特徴である[5]

人為的環境で本種が狩る獲物としてはアリシロアリゴキブリシミ等があげられており、ブラジルにおける量的な研究では獲物のうち42%がアリを中心とするハチ目、24%が等脚類、15%がコウチュウ目およびその他の小型無脊椎動物であった[6]。また、本種には死んだ昆虫を自ら進んで食うというクモ類で他に例を見ないほど珍しい習性が報告されているが、Nentwig et al.(2017)はこれを実験室内で仕立て上げられたものに過ぎないとみている[6]

他方、本来の生息地と考えられる地域では当然ながら野外に生息している[7]。その環境はかなり多様で、地中海沿岸に見られる常緑低木林(maquis)からまばらな植生になっている半乾燥地帯のステップ風な地域にまでにわたり、ただし、典型的な砂漠にはいない。ある程度の山地には見られるが、高山にはいない。典型的な生息環境は石や岩の下、それに様々なタイプの洞窟である。自然な環境における生活史等についてはほとんど研究がない。

ところで、上記のように本種の生息環境は本来の生息域以外では人工的環境に限られている。ところがChomphuphuang et al.(2016)はタイにおいて本種が天然洞窟に生息しているのを発見した。彼らは6つの鍾乳洞を調べ、発見されたのはそのうちの1つだけだった。その洞窟にはコウモリが多く、底にはコウモリグアノが堆積していた。クモは少なくとも500個体以上が見られ、壁の隙間や底の石の下などで発見された。これは本来の生息域以外で本種が野外で生息していることが確認された最初の例となる。洞窟内は温度が平均27℃と外部より低く、湿度は80%以上あった[8]
分布

日本では本州から南の四国九州南西諸島に分布する[9]。世界的には世界中の温暖な地域から知られ、特に北アメリカアジアで広く知られている。ただし、これらのほとんどは人為分布であると思われ、原産地としては地中海沿岸から中近東ではないかと言われている。ちなみに小野編著(2009)では原産地が新大陸、との推定が記されている[10]。進入の経路については明治維新以前に長崎県から入ったと考えられ、それ以降も数回にわたって侵入したと推定されている。

本種の属するイトグモ属には人為分散によって世界に広がったとされる種が2種あるが、本種はその範囲が最も広いものである[11]。one of the most invasive spiders(最も侵略的なクモの1つ)という表現すらなされている[12]。本種を含むこの属のクモは餌も水もなしに3-5ヶ月も動かずに生き延びることが可能で、寿命も2-5年と同サイズの他のクモより遙かに長生きすることが知られており、これらは人間の荷物に紛れての分散には大きな利点となる[13]。このクモは全大陸と全島嶼に導入されたことがあるはず、との言葉まである[14]

2017年時点で本種の起源は多分北アフリカ、おそらくモロッコ付近であり、元来の分布域は西寄りの地中海沿岸地域であろうと考えられている[14]。5000年以上前にはそこから東地中海沿岸域に到達していたと考えられ、さらに遅れてアジアの西部域に入ったと思われる。この範囲は南はアフリカ、東はテンシャン、パミール、カラコルムなどの高い山脈までの範囲であり、バルカン半島ではクロアチアまでが自然分布ではないかと思われる。現在の本種の分布はこれよりかなり広く、大陸では多く報告があるのがアメリカ合衆国と中国で、これに対して中央アメリカ、南アメリカからは全く報告がない。大陸アフリカの諸国とオーストラリアからもわずかしか報告がない。既存の報告には誤同定も見受けられ、実際の正確な分布は把握しがたい。

また、分子系統による分析では北アフリカ地域のものは地域によってある程度まとまった群をなすが、それ以外の世界各地のものは様々な系統のものが地域に連携しない形で出現し、これは世界各地への分散が独立に何度も起こったことを示すと考えられる[15]
分類・類似種など

本種の属するイトグモ属には世界で100種以上が記載されている。本種の判別は雌雄ともに交接器によらねばならない[16]。種内には様々な変異が見られ、種の範囲については議論となるかもしれない点があることも指摘されている[15]

日本の場合、本科の種は本種のみである。むしろユウレイグモ科ヤマシログモ科に類似のものがある。イトグモ属はかつてヤマシログモ科に所属させたことがあり[17]、丸っこい身体に細長い歩脚を持つことや眼の配列など似た特徴が多い。ヤマシログモ科のものにも家屋内に見られるものがあるが、斑紋があり、また頭胸部が大きく盛り上がる点で本種と見分けられる[18]


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