イタイイタイ病
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原因となったカドミウム閃亜鉛鉱。カドミウムを含む鉱石

イタイイタイ病(イタイイタイびょう)とは、岐阜県三井金属鉱業神岡事業所(神岡鉱山)による鉱山製錬に伴う未処理廃水により、神通川下流域の富山県富山市を中心に発生した公害病である。第二次大戦後の日本における高度経済成長期の負の側面である四大公害病の一つである。略してイ病ともいう[1]。日本語の音を写した 英語: “Itai-itai disease” として『オックスフォード英語辞典』など世界の多くの辞書に記載され、そのまま英語になっている。
概説

神通川下流域である富山県婦負郡婦中町(現・富山市)において、1910年代から1970年代前半にかけて多発した。

病名の由来は、患者がその痛みに「痛い、痛い!」と泣き叫ぶことしかできなかったから。1955年(昭和30年)に地元の開業医である萩野昇を地元『富山新聞』記者の八田清信が取材に訪れた際、看護婦が患者を「イタイイタイさん」と呼んでいると聞き、「そのままいただいて『いたいいたい病』としては?」と提案したことによる。1955年(昭和30年)8月4日の同紙社会面で初めて病名として報じられた。
被害
健康への被害

カドミウムによる多発性近位尿細管機能異常症と骨軟化症を主な特徴とし、長期の経過をたどる慢性疾患を発症する。カドミウム汚染地域に長年住んでいてこの地域で生産された野菜を摂取したり、カドミウムに汚染されたを飲用したりするなどの生活歴による[2]

初期は、多発性近位尿細管機能異常症を示す検査所見で、多尿・頻尿・口渇・多飲・便秘の自覚症状が現れる人もいる。多発性近位尿細管機能異常症が進行すると、リン酸、重炭酸再吸収低下による症状が出現し、骨量も次第に減少する。この頃から立ち上がれない、力が入らないなどの筋力低下が見られるようになる。さらに進行すると歩行時の下肢骨痛、呼吸時の肋骨痛、上肢・背部・腰部などに運動痛が出現する。最終的には骨の強度が極度に弱くなり、少しでも身体を動かしたり、くしゃみしたり、医師が脈を取るために腕を持ち上げたりするだけで骨折。その段階では身体を動かすことが出来ず、寝たきりとなる[2]

また、多発性近位尿細管機能異常症と同時に、腎機能も徐々に低下して、末期には腎機能は荒廃し、腎不全になる。貧血が顕著になり、皮膚は暗褐色になる。活性ビタミンD生産障害による腸管からのカルシウム吸収が低下する。その結果、血清カルシウムが低下し、著しい場合にはテタニーが起きる[2]

がもろくなり、ほんの少しの身体の動きでも骨折してしまう。被害者は主に、出産経験のある中高年の女性であるが、男性の被害者も見られた。ほぼ全員が稲作などの農作業に長期に渡って従事していた農家で、自分で生産したカドミウム米を食していた。このような症状を持つ病は世界にもほとんど例がなく、発見当初、原因は全く不明であった。風土病あるいは業病と呼ばれ、患者を含む婦中町の町民が差別されることもあったとされている[2]

骨軟化症は、ビタミンDの大量投与により、ある程度症状は和らぐとされるが、ビタミンD入りのビタミン剤を購入出来るだけの金銭的余裕のある患者は、当時は少なかった。また、この治療では多発性近位尿細管機能異常症は改善されないため、骨軟化症がしばしば再発する[2]
農地被害

神岡鉱山から排出されたカドミウムが神通川水系を通じて下流の水田土壌に流入・堆積して起きる。汚染実態を把握するため、富山県は1971年から1974年にかけ、「農用地汚染防止法」に基づいて、細密検査と補足検査を実施した。汚染面積は神通川左岸で1,480ha、右岸で1,648haの計3,128haで、そのうち1,500.6haが対策地域に指定された[3]

カドミウム汚染田は、神通川によって形成された扇状地にある。右岸は熊野川、左岸は井田川に囲まれる範囲で、八尾町(現:富山市八尾町)以外の地域は「イタイイタイ病指定地域」に含まれる。対策地域内の平均カドミウム濃度は表層土で1.12ppm、次層土で0.70ppmと、深くなるにつれて濃度は低下する。特に、上流部に分布する洪積扇状地では、平均2.0ppmと非常に濃度が高い[3]

土壌中のカドミウム濃度と玄米中カドミウム濃度の間には相関関係が認められず、土壌中のカドミウム含量が低くても高濃度の汚染米が出現しやすい。上記の調査では、食品衛生法の基準である玄米中のカドミウム汚染米が230地点の水田で検出されていることから、これらの水田では、三井金属鉱業の補償によって作付けが停止されてきた。また、カドミウム濃度が0.4ppm以上1.0ppm未満の米は、政府が「準汚染米」として全て買い上げている。買い上げ後は食用にしないで破砕し、ベンガラで着色し、工業用の原料として売却されていた[3]
原因

裁判の過程で、神通川上流の高原川三井金属鉱業神岡鉱山亜鉛精錬所から鉱廃水に含まれて排出されたカドミウム (Cd) が原因と断定された。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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