イスラエルによるアパルトヘイト
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イスラエルに占領されたパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の都市ヘブロン/アル=ハリールで、「アパルトヘイト通り」として知られるアッ=シュハダ通りの通行止め用ブロックに座るパレスチナ人少年

イスラエルによるアパルトヘイトは、ヨルダン川西岸地区の大部分を実効支配するイスラエルが、パレスチナ人を支配下に置く全地域で実施してきた隔離、没収、排除など、アパルトヘイトの定義を満たす、あるいはアパルトヘイトの指摘がある施策を指す。

国際連合や各国政府、国際人権団体などにより、占領地のパレスチナ人に対する人権侵害は、アパルトヘイトとして人道に対する罪に相当すると認定されている[1][2][3][4]。一方、イスラエルと欧米の同盟国の一部はこの非難に反発しており、イスラエル外務省はアパルトヘイト認定を「虚偽で偏向した反ユダヤ主義」と主張した[5][6][7]
施策内容

分離政策は、ハフラダヘブライ語:?????, 英語:Hafrada、直訳は「分離」)という名称で施行されている。
構造的差別

イスラエルのパレスチナ市民は国籍を認められず、ユダヤ系イスラエル人との法的差別が出来上がっている[8][9]。西岸地区とガザ地区では、パレスチナ人は市民権を持たず、ほとんどの人が無国籍とみられ、領域内で暮らし働くにはイスラエル軍が発行するIDカードを必要とする。東エルサレムのパレスチナ人は、市民権の代わりに永住権を得たが、永住権とは名ばかりで、1967年以降、1万4千を超えるパレスチナ人が、内務省(英語版)の裁量で居住権を剥奪され、強制的に市外に移送されてきた。[10]
分離壁「ヨルダン川西岸地区の分離壁」も参照

2002年に建設が始まりパレスチナ自治区ヨルダン川西岸とイスラエルの境界に建つ壁は、「アパルトヘイト・ウォール」とも呼ばれ、パレスチナの市民が日々直面する屈辱と困難の象徴となった[11]。この壁はテロ抑制を理由に建てられたが、グリーンラインを無視したユダヤ人入植地の既成事実化や、パレスチナ人の生活の分断などから不当であるとして[12]国連総会での非難決議可決や国際司法裁判所による違法認定勧告がなされてきた[13]
土地没収と入植

イスラエルによる人種隔離政策の最大の柱は、パレスチナ人の不動産の没収と強制移住となっている。イスラエルは建国以来、大規模にパレスチナ人の土地を没収し、何十万ものパレスチナ人の住居や建物を取り崩してきた[14]。さらに、土地へのアクセスを制限することで、強制移住もさせてきた。人種差別的な土地の接収、あるいは土地の割り当て、開発計画、区画整理に関する数々の差別的法律により、イスラエルの国有地の80%は、事実上パレスチナ人が借りることができない[10]ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、パレスチナ人による独立国家設立の大望をイスラエルは「打ち砕く必要がある」と述べ、入植を推し進めようとしている[15]
不公平な刑法

イスラエルは、占領地においてイスラエル国防軍軍律を施行している。これは被占領民(パレスチナ人)のみに適用され、イスラエル人入植者は特別法を用いて一部の条項を除き、イスラエル国内法が適用されている(イスラエル人入植者の法制度詳細は、ユダヤ・サマリア入植地規制法(英語版)、ヨルダン川西岸地区入植地におけるイスラエル法(英語版)を参照)。

2007年、国連人種差別撤廃委員会は、占領地ではパレスチナ人とイスラエル人入植者は異なる刑法が適用されるため、同じ犯罪でもイスラエル人よりもパレスチナ人の方が拘束時間が長く、厳しい処罰を受けると報告した[16]。さらに、アムネスティ・インターナショナルの報告によると、ヨルダン川西岸地区では、不法な殺害を含むパレスチナ人に対する虐待を行ったイスラエル人入植者や兵士は処罰の「免罪符」を享受しており、訴追されることはほとんどないが、イスラエル治安部隊に拘束されたパレスチナ人は、長期に渡って投獄されることがあり、彼らが拷問やその他の不当な扱いを受けたとの報告も、本格的に調査されることはない[17][18][19]
水資源の利用制限

ヨルダン川西岸地区では、イスラエル政府がこの地域の主要な帯水層からパレスチナの水資源を奪い続けている[20][21]。軍律の命令92号[22]・命令158号[23]・命令291号[24]によって、イスラエル国防軍が水利権を独占し、占領以前のあらゆる水利・土地契約を無効として、雨水を含むあらゆる水資源の利用を采配できる仕組みになっている。

1995年のオスロ合意U(英語版)で、イスラエルはパレスチナの水利権を認め、水資源を共同管理するために共同水利委員会(英語版)が組織された。イスラエルはパレスチナ自治区に年間950万?を給水し、パレスチナ自治区は1920万?の水を東部帯水層から自給するものとされた。しかし、ヨルダン川表層水の水利権はパレスチナには全く認められず、共同水利委員会はイスラエルの利害を優先することが多かった。また、オスロ合意Uでイスラエル国防軍の完全支配が継続された「C地区_(ヨルダン川西岸)(英語版)」では、IDF及びイスラエル民政局(英語版)の水利権は手つかずで、共同水利委員会にIDF・民政局の決定を翻す権力は無かった[25]。C地区はヨルダン川西岸地区の6割以上を占めており、実質的に水利の共同管理は機能していない。

イスラエルの主要な水道会社であるメコロットは、イスラエル人入植者に優先的に給水し、パレスチナの村や町に法外な金額で売っている。水道管を敷くのも、井戸を掘るのも支配するイスラエルの許可が必要であり、雨水に頼るしかない住民もいる[26]。その雨水も、イスラエル国防軍が水利権を根拠に貯水槽を破壊することがしばしばである[20]。壁で閉鎖されているガザ地区ではより深刻で、ガザで供給される水の98%が飲用に適しておらず、ガザの病気の約4分の1は水質汚染が原因であるとされる[21]

2009年、世界銀行は、イスラエルが占領地の地下にある帯水層から利用可能水量の8割以上を奪い、イスラエル領内および入植地で消費し、これがパレスチナ人にとって「真の水不足」を生み出していると報告した[27]


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