イギリスの勲章等(イギリスのくんしょうなど)では、イギリスの君主によって与えられる勲章について解説する。
勲章が国家に貢献した者に対して君主あるいは元首によって与えられる褒賞であることから、英国君主を共通の君主とする英連邦王国の国々では、国家への功労者に対してもイギリスの勲章が授与される。その一方で、各国の事情や受章者枠の関係から、イギリスの勲章に代わるもの、或はその国独自の章も制定されている。受章者枠の関係では、シッスル勲章や聖パトリック勲章の制定も、イングランドのガーター勲章に対してスコットランドとアイルランドの受章者枠を確保することが大きな理由の一つである。 イギリスの勲章は騎士団を形成するオーダー (Order) と形成しないデコレーション (Decoration) に分けられ、デコレーションにはクロス (Cross) やメダル (Medal) 、名称が“?Decoration”となっているものがある。オーダーの内、大英帝国勲章ナイト・コマンダー以上でメリット勲章とコンパニオンズ・オブ・オーナー勲章を除く勲章の受章者がナイト爵に叙される。 Orderには騎士団と勲位双方の意味があり、現在でも騎士団的な要素が強いため騎士団と訳す方が適当な場合もあるが、一般的にはこれらも勲章と訳されている。現在においても叙勲された人物を「(その騎士団名の)騎士」と呼んでいる(例えばガーター騎士Knights of the Garter。女性に対してはDameを使う)。以上のようにオーダーは騎士団員の証しであることから、オーダーが死後叙勲されることはない。 1993年に栄典制度の改正が行われた。主な改正点は、軍人用のデコレーション等の授与条件から階級が撤廃されたことであり、将校のみとされていた章が全階級に授与されるようになった。それに伴い、下士官・兵専用の章の多くが廃止された。
概要
現行の勲章
オーダー
ガーター勲章 Order of the Garter
イングランドの勲章であるとともに、連合王国で最高位の勲章である。大綬の色からブルーリボンとも呼ばれる。ガーター騎士団の創設時期には諸説あり、1344年或は1348年ともいわれている。騎士団の記章にガーターが取り入れられているのが特徴で、章はガーターの他に頸飾とその記章、星章及び大綬章から構成されており、星章と大綬章の記章にも青いガーターがかたどられている。騎士団の正装としてマントと帽子及びフードが定められている。外国人では原則としてキリスト教徒の君主のみが対象となっており、例外としてイギリスと特別な関係にある非キリスト教君主制国家の君主に対して贈られる。日本では明治天皇以降歴代天皇が受章しており、現在存命中の叙勲者で非キリスト教徒は明仁上皇のみである。
シッスル勲章 Order of the Thistle
スコットランドの勲章であり、連合王国においてはガーター勲章に次ぐ勲章である。大綬の色からグリーンリボンとも呼ばれる。頸飾とその記章、星章及び大綬章から構成されており、アザミがデザインされている。ガーター勲章と同様に騎士団の正装としてマントと帽子及びフードが定められている。ガーター勲章がイングランド人以外の連合王国民や外国元首にも贈られるのに対し、スコットランド人の血を引く者以外が授与されることはほとんどない。
バス勲章 Order of the bath
バス騎士団の創設は1399年であるが、勲章が制定されたのは1725年である。当初は単一等級であったが、1815年に3等級が設けられるとともに、文民用と軍人用に分けられ、デザインも異なるものとなった。綬の色からレッドリボンとも呼ばれている。軍人用は高級将校、文民用は高級官僚が主な授与対象であり、重要な役職を務めた功績に対して与えられる。外国人に対しては、共和国の大統領等政府首脳級の政治家に最上級勲章が贈られる。日本人では伊藤博文が最初に受章した。
メリット勲章 Order of Merit
1902年にエドワード7世がプロイセンのプール・ル・メリット勲章に倣って制定した。単一等級で、プール・ル・メリット勲章と同様に文民部門と軍人部門があり、文民部門は日本の文化勲章に相当する。一方、文民部門は政治家にも授与され、首相経験者がガーター勲章を受ける前に授与される勲章という位置付けでもあることがそれらの勲章と異なる点である。騎士団の定員は軍民合わせて24人であるが、軍人に授与されることは少なく、現在の団員は全員文民である。ガーター勲章やシッスル勲章は身分、バス勲章は地位や役職が授与基準になっているのに対し、この勲章は功績が基準とされている。そのため、王族の受章者は他のオーダーと比べて少ない。日本人では山縣有朋、大山巌、東郷平八郎が受章している。序列がバス勲章ナイト・グランドクロスと聖マイケル・聖ジョージ勲章ナイト・グランドクロスの間に位置するほど高いにもかかわらず、受章者がナイト爵に叙されないため、英連邦王国において爵位を認めていない国の中には最高勲章としている国もある。
聖マイケル・聖ジョージ勲章 Order of St Michael and St George
1818年にジョージ4世によって制定された。3等級があり、自国とイギリスに駐在する他国の外交官及びイギリス連邦諸国の行政官が主な対象となっている。日本人では松方正義が最初に受章している。
ロイヤル・ヴィクトリア頸飾 Royal Victorian Chain
ロイヤル・ヴィクトリア勲章の等級外の別格な勲章として1902年、エドワード7世により制定された。ロイヤル・ヴィクトリア勲章の上位とされているため、受章者は主に王族である。君主と血縁関係にある外国の王族にも贈られる。別格な勲章であるため、最高勲章であるはずのガーター勲章を受章した後に授与される場合もある。外国人に対しては、即位して日が浅いキリスト教徒の君主や非キリスト教徒の君主に対して贈られる。特別な関係の国に対しては君主以外の王族にも贈られる場合があり、日本でも高松宮宣仁親王と秩父宮雍仁親王が皇弟の身分で授与されている。
ロイヤル・ヴィクトリア勲章 Royal Victorian Order
1869年にヴィクトリア女王によって制定された。5等級があり、等級外として1等級の上に頸飾、5等の下にメダルがある。君主個人への貢献が授与基準である。ロイヤル・ヴィクトリア頸飾が制定されるまでは即位して日が浅いキリスト教徒の君主や非キリスト教徒の君主に対して1等級が贈られていた。日本人では昭和天皇と明仁上皇が皇太子時代に授与されており、その他にも東郷平八郎らが受章している。
大英帝国勲章 Order of the British Empire
5等級があり、等級外として下位に同名のメダルがある。叙勲対象や授与基準は幅広く、現在最も多く授与される勲章である。外国人への叙勲は、イギリスに対して貢献があった者に対して外務大臣の推薦により行われる。そのため、イギリスに工場を作った日本企業の経営者も数多く受章している。
コンパニオンズ・オブ・オーナー勲章 Order of the Companions of Honour
授与対象等の性格がメリット勲章と似ており、メリット勲章の下に位置する勲章とされている。メリット勲章受章者の多くはそれ以前にこの勲章を受章している。序列は大英帝国勲章ナイト・グランドクロスとバス勲章ナイト・コマンダーの間に位置するが、受章者はナイト爵に叙されない。
殊功勲章 Distinguished Service Order
殊勲勲章と訳されることもあるが、ディスティンギッシュト・サービス・メダルが殊勲勲章と訳されている場合もある。抜群の戦果を挙げたイギリス及びイギリス連邦諸国の全軍の将校、或は戦時に海軍へ徴用された商船の士官へ授与される。ミリタリー・クロスやディスティンギッシュト・サービス・クロス等が前線での武勲に対して贈られるのに対し、殊功勲章の場合、授与条件である“戦果”には寄与の形態に関する条件がなく、あらゆる任務に対して贈られる。そのため、優れた指揮官が多く受章している。1993年の栄典制度改正により、“将校”の条件は撤廃され、下士官・兵も受章できるようになったが、功績の条件が「敵前における優れたリーダーシップ」となったため、実際の受章者はほとんどが上級将校である。一方、従来この章が授与されていたケースで、“リーダーシップ”の条件に該当しない功績に対応するために、コンスピキュアス・ギャラントリー・クロスが制定された。
メリット勲章(文民用)
聖マイケル・聖ジョージ勲章頸飾
ロイヤル・ヴィクトリア勲章グランドクロス星章
ロイヤル・ヴィクトリア勲章Lieutenant章
大英帝国勲章ナイト・グランドクロス星章
大英帝国勲章メンバー章
コンパニオンズ・オブ・オーナー勲章
殊功勲章
デコレーションヴィクトリア十字章受章者ガイ・ギブソンのメダルバー。左端(最上位)にヴィクトリア十字章、次いで殊功勲章、ディスティンギッシュト・フライング・クロス、2個の戦線従軍章、最後尾に第二次世界大戦の従軍記章が並ぶ。ジョージ・クロスを受章したオーストラリア海軍下士官(元イギリス海軍兵士)のメダルバー。ジョージ・クロスの次に第二次世界大戦中のイギリス海軍時代に受章したディスティンギッシュト・サービス・メダルと3個の戦線従軍章、第二次世界大戦の従軍記章、オーストラリア海軍所属となった後に従軍した2個の朝鮮戦争に関する従軍記章、最後尾に永年勤続章が並ぶ。
ヴィクトリア十字章 Victoria Cross
“敵前において勇気を示した”兵士にのみ与えられる、最も受章が難しい勲章の一つとされる。