イオン液体(イオンえきたい、英: Ionic liquid、IL)は、化学において、液体で存在する塩(えん)をいう。かつてはイオン性流体、低融点溶融塩などとも呼ばれた[1]。
「塩」(NaCl)に代表される無機塩は、小さなイオンから構成されており、イオン間の静電相互作用が非常に大きいため常温下では固体であり、これを液体化するには800℃以上に加熱する必要がある。しかし塩を構成する無機イオンよりも大きいある種の有機イオンに置換した場合、融点が低くなり、室温付近でも液体状態で存在するようになることがある[2]。
概要(CH3CH2NH3NO3)[3]に遡るが、当時はほとんど注目されなかった。
1950年代には存在が認知され研究が行われたが、安定性に優れる有機イオンの開発に至らず、一時お蔵入りとなっていた。1990年代に入ってから、電解質の新材料探索において俎上に乗ったこともあり再び技術開発が進んだ。近年では多様な用途に適応できる可能性が着目され、大学や企業などによる研究が活発化し、豊富なサンプル提供も行われている。量産化技術の確立も進み、「夢の新材料」としての評価が高まりつつある。
またイオン液体は、通常の液体が乱雑な分子位置に散らばっているのに対し、成分イオンが配列しているナノ構造体であるとの見解が指摘されており、構造分析の研究が進んでいる。 イオン液体であるとみなされるためには、ある程度融点が低くなければならない。具体的な融点の値は任意だが、100°C以下[4]、あるいは150°C以下[5]のものがイオン液体と呼ばれる。 特に室温・常圧で液体状態のものを指す場合は、常温イオン液体 (room temperature ionic liquid, RTIL) と呼ばれる[5]。融点が低い塩という意味で常温溶融塩(もしくは室温溶融塩、ambient temperature molten salt, room temperature molten salt)という呼称も一般的に用いられる。 日本語訳については従来はイオン性液体と呼ばれていたが、"ionic" の対訳を「イオン性」としている学術用語があまりないことや、定義上の整合性から、「イオン液体」と呼ばれるようになった。 基本的に、陽イオンの種類でピリジン系、脂環族アミン系、脂肪族アミン系の3つに大別される。これに組み合わせる陰イオンの種類を選択することで、多様な構造を合成できる。用いられる陽イオンには、イミダゾリウム塩類・ピリジニウム塩類などのアンモニウム系、ホスホニウム系イオン、無系イオンなど、陰イオンの採用例としては、臭化物イオンやトリフラートなどのハロゲン系、テトラフェニルボレートなどのホウ素系、ヘキサフルオロホスフェートなどのリン系などがある。 イオン液体の用途として最も期待されている分野は電解質である。コンデンサーやリチウムイオン電池などから、燃料電池や太陽電池などの開発を促進する素材として注目されている。スーパーコンピューター「京」を用いた第一原理分子動力学計算による解析の結果、ハイドレートメルトは全ての水分子がリチウムイオンに配位した状態で液体となる、一般的な水溶液では取り得ない溶液構造により比類なき高電圧耐性と優れたリチウムイオン輸送特性を備えるためリチウムイオン電池用の電解液として適用可能であることが示された[6]。
用語
種類
特徴
支持電解質を加えなくても電流を流すことができ、また電位窓も広い。イオン伝導率は一般的に10-5?10-2 S cm-1程度の値が報告されている。
一般に、-30℃以上?+300℃以下の温度域でも液体状を維持する。また、+400℃でも物性変化が少なく、耐熱性が高い。
蒸気圧は極めて低い。過去にはゼロであるとも言われた。減圧下での蒸留技術に関する開発も進められている。
一般に不揮発性であり、化学反応後の分離・再利用が容易。
ほとんど蒸気圧が無いため不燃性・難燃性のものが多い。(ただし、すべてのイオン液体が燃えないわけではない)
イオンにしては粘度が低い。
そのイオンの種類選択によって、溶解性にさまざまな特性を持たせることが出来る。ある種のイオン液体は水とも有機溶媒とも溶けあわず、これらと混合しても相分離を起こし、そのためイオン液体は水でもなく有機溶媒でもない「第3の液体」とも呼ばれることがある。また一方で、親水性の高いイオン液体も存在する。その一方では溶媒中の分散に難を抱えるカーボンナノチューブを良く分散させるイオン液体も提案されており、非常に広範な適応力を発揮している。
熱伝導の媒体として使用できる比熱容量を持つ。
用途
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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