イェルマ
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イェルマ
『イェルマ』に出演するマルガリータ・シルグとピラール・ムニョス。
脚本フェデリコ・ガルシーア・ロルカ
登場人物イェルマ

フアン
ビクトル
マリア
ドローレス
2人の義姉
老婆
6人の洗濯女
他、数名の男女
初演日1934
ジャンル悲劇

『イェルマ』 (スペイン語: Yerma)は、スペイン劇作家フェデリコ・ガルシーア・ロルカ戯曲である。1934年に書かれ、同年に初演された。「3幕6場の悲劇詩」 (Poema tragico en tres actos y seis cuadros) という副題がついている。タイトルのYermaとは「不毛の[1]」という意味であり、スペインの田舎に住む子供のない女性の物語である。ヒロインであるイェルマは、時代の潮流ゆえに子供を生むよう期待をかけられている。イェルマは母になることをあまりにも切望し、悲劇的な末路を迎える。
登場人物

イェルマ:あまりにも強く子供を欲しがっているため、まだできてもいない赤ん坊に話しかけたり、歌いかけたりしている若い女。名前のYermaはスペイン語で「不毛の」という意味である
[1]。愛のない結婚をしているため、子供さえいれば自分が絶望的なまでに求めている喜びが得られると信じている。子供がいないため空虚で満たされない気持ちで暮らしており、疎遠な夫フアンとはうまく子作りができてない。結婚のせいでどれほど不幸になろうとも、名誉と責任の観念が強すぎるせいで夫を捨てることはできない。

フアン:イェルマの夫で、「金をためるしか能のない小農業主[2]」である。子供のことはあまり期待しておらず、今見えるものや触れるものしか信じていない。土地を耕し作物を育むのが仕事だが、対照的に妻は「不毛の」という意味の名前で子供がいない。

ビクトル:イェルマとフアンの昔からの友人で、フアンの仕事仲間。劇中で何度か登場するが、ふつうはイェルマとだけ出てくる。2人の間に昔何かあったことが示唆されているが、イェルマの父はビクトルを選ばなかった。

マリア:イェルマの友人で新婚。マリアにはすぐに子供ができたため、イェルマは自分の境遇を比べて悲しく思っている。

ドローレス:不妊の女性を妊娠させる力があると言われている女性。

2人の義姉:フアンの姉妹で、第2幕でイェルマを見張るように呼ばれる。

老婆:第1幕及び第2幕におけるイェルマの理性の声。イェルマがフアンに食べ物を持って行く時に初めて現れる。老婆はイェルマに男を引き留めておくにはどうしたらよいか、女は何をすべきなのかを教える。2度結婚し、全部で14人子供を産んだ。第3幕ではイェルマに対して、自分には非常に役に立ちそうな息子がおり、イェルマを妊娠させられるかもしれないと言う。

6人の洗濯女:町の人々の声。住人のさまざまな考えを表している。子供がないことでイェルマを責める者、無関心な者、イェルマを擁護する者などがいる。

他、数名の男女

あらすじ
第1幕第1場

イェルマは結婚して2人になる。イェルマは自分を妊娠させられるよう、夫のフアンが精をつけてくれることを望んでいる。フアンはイェルマに家にいるよう言って、オリーヴの林に仕事に出かける。イェルマは自分の胎内に子供が宿ってほしいと願い、その架空の子に対して話しかけたり歌ったりする。新婚5ヶ月のマリアは既に妊娠しており、イェルマに赤ん坊のための縫い物を頼んでくる。イェルマは自分もすぐに妊娠しなければ自分の血が毒に変わるのではと怖れる。夫妻の友人ビクトルはイェルマが縫い物をしているのを見て妊娠かと思う。そうではないと知ったビクトルはもっと頑張れと忠告する。
第1幕第2場

イェルマは外にいるフアンに夕食を持って行ったところである。帰宅途中でイェルマは老婆に会うが、その老婆は情熱が妊娠の鍵だと言う。イェルマはフアンではなく、こっそりビクトルを想っていることを認める。それからイェルマは2人の若い女に会うが、その態度に驚く。ひとりは赤ん坊をほったらかしにしており、もうひとりは母親のドローレスから妊娠のためのハーブをもらっているにもかかわらず、子供がいないことに満足している。それからビクトルがやってきてイェルマと会話するが、2人の間には口にできない考えや欲望のせいで緊張が走る。フアンがやって来て、イェルマが外で話していると人が噂するかもしれないと心配する。フアンは一晩中仕事をするつもりだとイェルマに言う。イェルマはひとりで寝ることにする。
第2幕第1場

3年後、5人の洗濯女がイェルマとおぼしき女の噂をしている。その女にはまだ子供がおらず、夫以外の男を見つめていて、夫は妻を見張るために自分の姉妹を呼んだという。女たちは夫、性愛、赤ん坊について歌う。
第2幕第2場

フアンの2人の姉妹がイェルマを見張っている。イェルマは家にとどまるのを拒み、人々の噂になっている。子供がいないため、イェルマは自宅を監獄のように感じており、結婚生活は暗礁に乗り上げている。マリアがやってくるが、赤ん坊を見るといつもイェルマが泣いてしまうのであまり乗り気ではない。第1場に出てきた子供のいない若い女が、母のドローレスがイェルマが来るのを待っていると告げる。ヴィクタトールが別れを告げにくる。イェルマは驚き、ヴィクタトールが出て行くという知らせに少し悲しくなる。なぜ行ってしまうのか訪ねると、ヴィクタトールは状況の変化を口にする。フアンが入って来るが、フアンがヴィクタトールの羊を買い取っていたことがわかる。ヴィクタトールがいなくなる理由のひとつはフアンであると示唆される。イェルマは怒り、フアンがビクトルと出て行くと、イェルマはドローレスに会いに出かける。1934年、マドリードで一堂に会するロルカ、プラ・マオルトゥア、ラモン・デル・バリェ=インクラン
第3幕第1場

イェルマがドローレスの家にいる。ドローレスと老婆は一晩中墓場でイェルマのため祈っていた。フアンはイェルマが自分を騙したと責め、イェルマは自分の血、体、父親を呪う。
第3幕第2場

山の上に隠遁所があり、イェルマをはじめとする多くの不妊の女が巡礼をする場所となっている。若い男たちがおり、夫から離れている女たちといい仲になったり、子供を作ったりしたいとたくらんでいる。老婆はイェルマにフアンを捨てて血気盛んな自分の息子と一緒になるようすすめるが、イェルマは名誉にこだわってこの提案を受け入れない。盗み聞きをしたフアンはイェルマに子供を持つことはあきらめて今の状態で満足しろと言う。フアンは子供を欲しがったことがなく、これからも欲しがらないと気付いたイェルマは夫の首を絞め、子供を持つ唯一の希望のよすがを殺してしまう。イェルマは最後に「あたしは自分の子を殺してしまった[3]」と叫ぶ。
執筆背景

ロルカが生まれたグラナダの近くにある巡礼地モクリンは子授けの御利益がある巡礼地として有名で、これが不妊の女性の巡礼をプロットの一部に含む本作執筆のヒントとなったと考えられている[1]。また、ロルカの父の最初の妻であるマティルデ・パラシオスには子供がいなかったので、これもヒントになった可能性がある[4]。1933年の5月頃には既にロルカは『イェルマ』の構想を周囲に話しており、翌年3月にはブエノスアイレスで第1幕の朗読を行っている[5]。1933年の7月頃に完成したと考えられる[6]
上演史
初演

1934年12月29日、シプリアーノ・リバス・チェリフの演出により、マルガリータ・シルグをイェルマ役に配してマドリードのエスパニョール劇場で初演が行われた[6][7]。初演は大入りであったが、ロルカもシルグも共和派であったため、公演中に反対派からの野次が激しくなる場面もあった[8]。当時としてはショッキングな内容を扱っていたことと、ロルカたちが政治的に左派であったため、公演は賛否両論であった[9]。しかしながら好評も多かったため上演は数ヶ月間続き、1935年2月2日に同劇場で『イェルマ』が上演された際には、ロルカ自身が演劇についてのスピーチを行った[10]。5月にはシルグの劇団がバルセロナでも本作を上演した[10]
スペイン語での上演

フランコ政権下のスペインではロルカの芝居を上演するのは困難であり、1947年に『イェルマ』がバルセロナで極めて小規模に上演されたが、マドリードでは上演できなかった[11]スペイン内戦後にマドリードで初めて行われた主要な『イェルマ』のプロダクションとしては、1961年にエスラバ劇場でルイス・エスコバル演出があげられる[12]。自然主義的な演出であったが、批判も受けた[13]
ヌリア・エスペル劇団

1971年、ビクトル・ガルシア演出、ヌリア・エスペル劇団によるトランポリン幕を用いた『イェルマ』が上演され、ヌリア・エスペルがヒロインを演じた[14]。このプロダクションはイギリスや日本を含む世界中で長きにわたり上演され、その後の演出に大きな影響を与えることとなった[15][14]。当初はロルカの作品だというだけで検閲にあい、上演の許可がおりなかったという[16]。布張りの舞台は「ロルカのテキストにある鼓動[17]」を表現するというコンセプトで作られた。この上演は極めて評価が高く、「スペインの演劇上演史上に残る作品[18]」と言われている。
日本語での上演

1958年に俳優座劇場にて、会田由翻訳、田中千禾夫演出で『血の花』として上演が行われ、大塚道子がイェルマを、市原悦子がマリアを、菅井きんがドローレスを、平幹二朗がビクトルを演じた[19]


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