アーバスキュラー菌根
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1. ミヤコグサマメ科)のアーバスキュラー菌根(に外見的な変化はないが、菌根菌の細い菌糸と褐色の大きな胞子が見える)

アーバスキュラー菌根(アーバスキュラーきんこん; : arbuscular mycorrhiza[注 1], AM)は、菌類共生した構造である菌根の1型であり、維管束植物の80%に存在し(図1)、根を欠くシダ植物配偶体(前葉体)やコケ植物にも同様な構造がしばしば見られる。共生者となる菌根菌(アーバスキュラー菌根菌; arbuscular mycorrhizal fungi, AMF, AM菌)はグロムス類とよばれる菌群であり、植物の細胞内に侵入して栄養交換用の細かく分枝した樹枝状体(arbuscule)を形成する。また、しばしば栄養貯蔵用の嚢状体(vesicle)を形成するため、かつてはVA菌根(vesicular-arbuscular mycorrhiza, VAM)とよばれていたが[2]、嚢状体を形成しないこともあるため、2023年現在ではアーバスキュラー菌根とよばれることが多い[3]。アーバスキュラー菌根は19世紀中頃から認識されるようになり、20世紀中頃にはこの共生が植物に利益を与えるものであることが明らかとなった[4]

アーバスキュラー菌根では、菌根菌が土壌中から吸収した水や無機栄養分、特にリン植物に供給し、一方で植物は光合成でつくられた有機物を菌根菌に供給している。菌根にはいくつかのタイプが知られているが、アーバスキュラー菌根は進化的に最も初期に生まれた菌根であり、また現在最も普遍的に見られる菌根である。アーバスキュラー菌根は、陸上生態系のほとんどの生産者に存在し、その土壌栄養分の効率的な利用に重要な役割を果たしているため、陸上生態系の炭素および無機栄養分循環に大きな影響を与える。アーバスキュラー菌根は農業生産にも大きな影響を与えるため、アーバスキュラー菌根菌は微生物資材としても利用されている。
構造

アーバスキュラー菌根では、菌根菌(アーバスキュラー菌根菌)がの内部に侵入する[5][6][7][8][9]。根から菌糸が伸びているが、根の外部形態には大きな変化は見られない(上図1, 下図2a)。菌糸は根の細胞内(細胞壁細胞膜の間)に侵入し、細かく分枝して樹枝状体(アーバスキュル、アーバスキュール; arbuscule)を形成する[5][6][7][8][9](下図2)。樹枝状体では、宿主植物と菌根菌の間で栄養交換がおこなわれる(下記参照)。また菌根菌の菌糸は、しばしば植物細胞間や細胞内で球形に膨潤し、栄養貯蔵用(中性脂質が多い)の嚢状体(ベシクル; vesicle)を形成する[5][6][8][9][10](下図2a, c)。19世紀末に嚢状体が、20世紀初頭に樹枝状体がそれぞれ命名された[4]。また根から根外へ伸びた菌糸(根外菌糸、外生菌糸、外菌糸)は直径2?10マイクロメートル (μm)と細く、高度に分枝しており、根から25センチメートル離れた場所まで伸びることもある[4][7][9](上図1, 下図2a)。また、ときに菌根菌糸が異なる植物に菌根を形成したり、異なる植物の菌根菌糸が互いに吻合して菌根菌ネットワークを形成し、異なる植物の間で無機養分有機物が転送されている[7][11][12]。.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}2a. アーバスキュラー菌根の横断面模式図: 付着器[4] (菌足[13] appressorium)、樹枝状体 (arbuscule)、厚壁胞子 (chlamydospore)、多核菌糸 (coenocytic hypha)、菌糸コイル (hyphal coil)、嚢状体 (vesicle)、緑色は植物細胞を示す。2b. 樹枝状体2c. アーバスキュラー菌根菌(青く染色されている)の形成した樹枝状体(左上)と嚢状体(右下)

アーバスキュラー菌根は、植物内での菌糸の伸長様式などに基づいて、アラム型(Arum-type)とパリス型(Paris-type)の2つのタイプに分けられている[14][4][15][9][16][注 2]。アラム型では、皮層の細胞間に菌糸を伸ばしつつ、あちこちの細胞に分枝した菌糸を侵入させて樹枝状体を形成する(下図3左)。そのため比較的短期間で広い範囲に広がることができる。これに対し、パリス型では皮層の細胞間に菌糸を伸ばすことはせず、侵入した細胞内でコイル、ときに樹枝状体(樹枝状体コイル)を形成しつつ、細胞から細胞へと侵入しながら広がる(下図3右)。このタイプでは菌糸が細胞を貫いて伸びるため、発達は遅い。ただし、アラム型とパリス型の差異は連続的であり、両型の特徴を併せもつ中間的なものも存在する[4][12]拡大
Clip3. アラム型(左)とパリス型(右)のアーバスキュラー菌根: Ar - 樹枝状体、Hy - 菌糸、Iz - 細胞間隙、Rz - 皮層細胞、Sp - 胞子、Ve - 嚢状体

アラム型は日当たりが良い環境に生育する草本に多く、パリス型は林床植物に多い[4][15]。また、植物の科によっても概ね決まっており、アラム型はクスノキ科アケビ科マメ科カタバミ科トウダイグサ科ミカン科ブドウ科キツネノマゴ科シソ科クマツヅラ科オオバコ科キク科に、パリス型はユリ科サルトリイバラ科アヤメ科マンサク科スミレ科クワ科ニレ科ムクロジ科フウロソウ科アジサイ科サクラソウ科ヤブコウジ科アカネ科リンドウ科モチノキ科ウコギ科に見られる[15]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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