アンブッシュマーケティング
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ターゲット・フィールドに隣接するターゲット・センターの外壁に掲げられたサンフォードヘルス(英語版)のサイン。ターゲット・フィールドをホームとするミネソタ・ツインズ2010年のアメリカンリーグディビジョンシリーズに進出することをにらんで「待ち伏せた」広告掲出の例[1]

アンブッシュマーケティング (: Ambush marketing) または待ち伏せマーケティングとは、広告主がイベントを「待ち伏せ」(Ambush) して他の広告主との露出を競うマーケティング戦略。

イベントの公式スポンサーになることなく、そのイベント(の露出)に便乗して広告活動を行うというものであり、広告主はイベントに関連する特定の商標を用いずに広告対象を暗示させ、消費者に対してあたかも広告対象がイベントと深く関わっているように見せるというものである。

1980年代後半にアメリカン・エキスプレス (Amex)ビザ (Visa) との激しいキャンペーン合戦(後述)を繰り広げた後、Amexのグローバルマーケティング活動のマネージャーとして働いていたマーケティングストラテジストのジェリー・ウェルシュによって造られた造語である[2]

アンブッシュマーケティングは世界的なスポーツイベント(FIFAワールドカップオリンピックスーパーボウルなど)を対象に使用されることが一般的である。これは、イベント主催者がスポンサー・パートナーから協賛金等を受け入れる代わりにイベントでの独占的な広告権を与えているためである。また、主催者の知的財産権に対する使用料が高額に設定されている場合もある。

そのようなアンブッシュマーケティングの試みに対しては、イベント主催者が会場周辺に「クリーンゾーン」を導入して、広告を制限したり会場での非スポンサーへの言及を削除または不明瞭化させるなどの対抗措置が執られる。さらに、主催国に対してはクリーンゾーンを実施し、使用を制限する法的権利を付与するための法律の通過をホスト国に要求する場合もある。

一方で、アンブッシュマーケティングへの規制は、 言論の自由を制限するものであるとの論争も呼んでいる。
意図と手法

一般的に、アンブッシュマーケティングは、公式スポンサーと競合する分野の者が、イベント主催者に対して正規の報酬を払うことなく、イベントにあわせてその周辺でプロモーション活動を行うものである。

その手法は2つのカテゴリに分類できる。一つは「直接的手法」で、非公式スポンサーがイベントと関連づけた宣伝を行うことで、公式スポンサーの露出を希薄化させるものである。特に、非公式スポンサーの競合他社の製品の場合、アンブッシュマーケティングでは、イベントのことを直接言及せずに、イベントに関連した画像などを使用することで、イベントと関連づけさせる[3][4]

もう一つの方法は「略奪的手法」で、非公式スポンサーがあたかも公式スポンサーであるかのようにイベントの商標を使用するというものである[3]。広告主は、イベント内で会社に関連付けられた服装を出席者に身に着けさせるなど、自社ブランドに注目を集めるように会場内で立ち振る舞わせる[5]。公式スポンサーは、サイネージでの広告のみが許可されたブランド商品の配布など、イベントで当初許可されていたよりも広範なプロモーション活動を行う場合、特に、これらの活動が許可されている別のスポンサーの活動と競合する場合に直接関与できる。

そのほか、非公式スポンサーがイベントの参加者に便乗したマーケティングを行う場合がある。たとえば、スポーツ用品を製造する会社は、特定のアスリートまたはチームの公式サプライヤーであることを宣伝に利用する場合がある[3][4]。同様に、非公式スポンサーは、イベント自体ではなく、放送事業者によるイベントのテレビ放送のみをスポンサードすることもある[6]

間接的なアンブッシュマーケティングの多くでは、イベントや公式スポンサーのキャンペーンが肯定的または否定的に表現するものに類似した画像、テーマ、および価値観を利用し、イベント自体またはその商標への具体的な言及を行なわい。本質的に、広告主は、イベントとの関連を想起させるコンテンツを使用してそれ自体を販売し、その結果、イベントを知っている人々に遡及する[3][7]。広告主は、「ビッグゲーム」などと表現してイベントのことを商標を用いずに想起させ、自身の宣伝に使用する[8]
規制

待ち伏せマーケティングやその他の形態の商標侵害の脅威に対応して、主要なスポーツイベントの主催者は、ホスト国または都市に、標準的な商標法を超えて、マーケティング資料を広める広告主に規制と罰則を提供する特別な法律の実施を要求することがあり、特定の単語、概念、および記号を参照することにより、イベントとの無許可の関連付けを作成する[9][10]。主催者は、開催地内および周辺に「クリーンゾーン」を設置するよう都市に要求する場合もある。広告と商取引は、イベントの主催者、具体的にはイベント公式スポンサーによって承認されたものに制限される[11][12][13]

場合によっては、会場に命名権が付与されている場合、それを一時停止することが必要になる場合があり、スポンサー名等を指すすべての看板類は、隠されたり削除されたりする場合がある[14]。たとえば、 2010年バンクーバーオリンピックアイスホッケー会場である「ゼネラルモーターズプレイス」(後に「ロジャーズ・アリーナ」に改名)は、オリンピックの会期中は「カナダ・ホッケー・プレイス」に改名された[15]

また、放送局においても、当該イベントを放送するにあたり、イベント公式スポンサーからの広告枠に対する拒否権(競合他社の広告枠の差し替え)を求められる場合がある[3][16]UEFAチャンピオンズリーグなどでは、主催者自身がすべての広告時間を制御して割り当てる場合もある[7]

日本においては、様々な法解釈がなされている。電通所属の弁護士の中野裕仁は、公式スポンサー以外の者が競技団体の保有する商標などを直接的に使用した場合は商標法不正競争防止法著作権法に抵触する可能性を指摘している[17] 一方で、知的財産管理技能士の友利昴は、大会の商標を直接用いずに間接的に連想させる手法を用いた場合、また商標を用いる場合でも、商品やサービスの出所を示す態様でない限りは、原則として法律上の規制を受けず、商標法や不正競争防止法による規制の範囲外であると指摘している[18]。また、ニューヨーク州弁護士の足立勝は、独占禁止法景品表示法などの観点を含めても、日本にはアンブッシュマーケティングを規制するための基礎となる法は十分に存在しないと指摘している[19]

また、法的な経済性の保護や侵害以前に、スポーツイベントを社会が楽しむうえで、このことがどのような意味を持つのか、について社会学的な研究もなされている[20]
事例
クレジットカード戦争


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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