アンフェタミン
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アンフェタミン
IUPAC命名法による物質名
IUPAC名

(±)-1-フェニルプロパン-2-アミン

臨床データ
胎児危険度分類

C(アメリカ)

法的規制

DEA スケジュールII(アメリカ)
クラスB(イギリス)
スケジュールIII(カナダ)

投与経路経口、静脈内投与、気化、吸入、坐剤
薬物動態データ
生物学的利用能4 L/kg; low binding to plasma proteins (20%)
代謝肝臓
半減期10–13時間
排泄腎臓; significant portion unaltered
識別
CAS番号
300-62-9
ATCコードN06BA01 (WHO)
PubChemCID: 3007
DrugBankAPRD00480
KEGGD07445
化学的データ
化学式C9H13N
分子量135.2084
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左の白色粉末がアンフェタミン。右二つの容器に入っているのは1-フェニル-2-ニトロ-1-プロペン。

アンフェタミン(英語: amphetamine, alpha-methylphenethylamine)とは、間接型アドレナリン受容体刺激薬として、メタンフェタミンと同様の中枢興奮作用を持つ[1]アメリカ合衆国では商品名Adderallで販売され、適応は注意欠陥・多動性障害 (ADHD) 及びナルコレプシーである。強い中枢興奮作用と精神依存性薬剤耐性がある[1]向精神薬に関する条約の付表II、日本の覚醒剤取締法ではフェニルアミノプロパンの名で覚醒剤に指定されている。日本で薬物乱用されている覚醒剤は、本剤ではなくメタンフェタミンである[2]

密造と薬物乱用ヨーロッパで横行し、主にフェニルプロパノールアミンから合成した硫酸アンフェタミンの形で出回っている。さらに、アメリカ合衆国イギリスオーストラリアカナダなどの国々では、ナルコレプシーやADHDの治療に用いられるため、処方されたアンフェタミンが横流しされ、高等学校大学で最も頻繁に乱用される薬剤のひとつとなっている。
化学

1887年(明治20年)、ルーマニアの化学者ラザル・エデレアーヌ(: Laz?r Edeleanu)がベルリン大学で初めて合成した。アンフェタミンは光学異性体を持ち、レボアンフェタミン(L体)とデキストロアンフェタミン(D体)に光学分割することができる。アンフェタミンは多くの向精神薬の母体骨格であり、MDMA(エクスタシー)やメタンフェタミン(N-メチル誘導体)などを含む化合物群を構成する。アンフェタミン自体は、フェネチルアミンの誘導体である。

古くは硫酸 rac-アンフェタミン(rac- はラセミ体であることを示す)として合成されていた。アメリカ合衆国では rac-アンフェタミンを主成分とする製剤はもはや製造されていない。今日では大部分が硫酸デキストロアンフェタミンの形で用いられている。注意欠陥障害にはアデラル(英語版) (Adderall)、デキセドリン (Dexedrine) もしくは後発医薬品がしばしば用いられ、これには rac-アンフェタミンと D-アンフェタミンが硫酸塩とサッカラートの形で、D体とL体が 3:1 の比になるように含まれている。

効果は主に D-アンフェタミンによってもたらされ、L-アンフェタミンはこれらの作用が失われたあとに、吐き気などの副作用を現す。
作用機序

ユートマー(英語版)(eutomer、活性の高い方の光学異性体を指す)であるデキストロアンフェタミンは、血液脳関門を易々と突破し、モノアミン神経伝達物質のノルアドレナリンおよびドーパミンの放出促進と再取り込み阻害によって、中枢神経に作用する。セロトニンには影響しない。放出促進の過程では、小胞モノアミン輸送体VMAT2に対する活性の発現が、特に重要な役割を果たす[3]
適応

アメリカ合衆国での適応は、注意欠陥・多動性障害 (ADHD)、ナルコレプシーおよび外因性肥満であるが、後述の通りナルコレプシーと肥満に対して処方されることは稀である。

軍隊においてはパイロットに対して疲労抑制剤として、また警戒態勢や注意力の持続が要求される任務につく際に与えられることが多い。
医療用途

メチルフェニデート(リタリン、コンサータなど)と共に、注意欠陥障害 (ADHD) の標準的な治療薬として用いられている。日本では流通管理委員会が設置され、流通が厳格に管理されており、登録された病院、薬局でしか処方、薬の引き渡しができない。

有益な効果として、衝動の抑制力や集中力の増加、感覚器への過剰刺激や被刺激性の減少などが挙げられる。これらの効果は、特に幼い子供に対しては時として劇的である。ADHDの治療薬・アデラルは4種のアンフェタミン塩からなり、アデラルXRは同じ塩の徐放性製剤版である。適切な用法・用量を守って使えば、食欲減退などの副作用は時間と共に軽くなっていく。しかしながらメチルフェニデートよりも体内に残留する時間が長く、食欲や睡眠に関する副作用は重い傾向がある。

また、ナルコレプシーなどの睡眠障害の治療薬として使われてきたが、21世紀ではモダフィニルといった新しい薬剤も選択できる。一般的に、習慣性や身体依存を生じさせることなく、長期間にわたって効果を得ることができる。さらに、難治性の抗うつ治療に用いられることがある。

薬理学的に類薬であるマジンドール肥満の減量用途での利用があり、日本ではサノレックスが認可されている。
20世紀中ごろまで

実験医療には、1920年代(大正時代)から使用され始めた。

アンフェタミンは、1935年ごろから欧米で商品名ベンゼドリンとして本格的に導入された[4]。アメリカ合衆国では、1937年に副作用のない素晴らしい薬として導入され、驚異の薬 (wonder drug) と呼ばれた[5]。日本では1941年ごろ(第二次世界大戦中)からゼドリン(武田薬品工業)、アゴチン(富山化学工業)として導入された[4]。アンフェタミンやメタンフェタミンといった覚醒剤には「疲労感防止、睡気除去、気力昂揚」といった効能が書かれ、兵役に使われ日本でも仕事の能率向上を精神科医が宣伝した[6]。こうした覚醒剤は日本でも夜戦の兵士や、軍需工場の工員に能率向上として使われた[7]

一方で、副作用として1938年にはヤングがアンフェタミンに誘発された妄想状態を報告、1958年にはコンネルが42例のアンフェタミン精神病を報告し、覚醒アミン精神病という臨床単位を確立していった[8][9]

日本で1945年に終戦すると、軍部の保有した覚醒剤の医薬品が民間に放出され、非行少年や売春婦に乱用されていった[10]。乱用者が増えると中毒者の入院も増加し、効能表示は取り消され製造中止し段階的に取り扱いは厳しくなったが、密造品も出回り、アゴチン、ヒロポン(メタンフェタミンの商品名)といったラベルまで貼られた[6]


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