Allen Telescope Array
運用組織SETI協会, 電波天文学研究所
アレン・テレスコープ・アレイ(Allen Telescope Array, ATA)は、SETI協会とカリフォルニア大学バークレー校電波天文学研究室が共同で運用する電波干渉計であり、天体観測と地球外知的生命体探査(SETI)の両方を行う施設である[1][2]。ATAはもともとその集光面積から1ヘクタール望遠鏡(1hT)と呼ばれていた。
ATAは、カリフォルニア州サンフランシスコ北東290マイルの所にあるハットクリーク電波天文台において建設中である。完成時には、パラボラアンテナが350台並ぶことになっている。42台のパラボラアンテナからなる第一段階(ATA-42)は2007年10月11日に完成し、すでに運用が始まっている。[3][4] SETI専門の巨大な観測施設を持つことは、SETIの第一人者であるフランク・ドレイクによって初めて構想され、SETI協会の悲願であった。2001年、ポール・G・アレン財団からの1150万ドルの寄付を受けてこの計画は実現に向けて動き始めた。3年間の研究開発を経て、SETI協会は2004年3月に3段階からなる建設計画を発表した。第一段階及び第二段階に対する援助としてポール・アレンからの1350万ドルの追加寄付を受けて建設は開始された。SETI協会はこれを記念して、望遠鏡の名前にアレンの名を冠した。 ATAは波長数センチメートルの電波を受信する電波望遠鏡である。同じ集光面積を得るには、単一の巨大なパラボラアンテナを作るのに比べて小口径のアンテナを多数並べた電波干渉計の方が安価に済ませることができる。しかし同一の感度を得るためには、すべてのアンテナで受信された信号をひとつに結合する必要がある。このためには高性能のエレクトロニクスが必要であり、これは現在でもたいへん高価である。しかし、ムーアの法則によればある性能のエレクトロニクスを調達するのに必要な金額は次第に下がっていくから、結果的にはATAに用いられる干渉計方式の方がコスト的には有利になる。 ATAはこれまでに建設された主要な電波望遠鏡と比べて以下の4つの点ですぐれている。それは、視野が極めて広い(波長21cmの電波で視野角2.45度)こと、一度に観測できる周波数が0.5?11.2GHzまで連続的にカバーされていること、複数の同時受信観測システムを持っていること、そして能動的に電波障害を緩和する機能を持っていること、である。一度に観測できる範囲は超大型干渉電波望遠鏡群VLAの17倍である。また一度に受信できる周波数範囲は4オクターブ以上に及ぶ。これはこれまでの電波天文学では成しえなかったほど広帯域であり、フィードホーンや増幅器、信号伝送系など電波望遠鏡の様々な構成要素を改良した結果である。さらに電波障害の緩和を能動的に行うことで、人工電波が多数存在する周波数領域でも宇宙からの電波を観測することを可能にしている。 ATAの観測プログラムでは全天を観測することが大変重要であるため、通常の電波天文学とSETIとを同時に行うことで、ATAの観測効率は上昇する。ATAでは受信した信号を2つに分けることでこの同時観測を可能にしている。望遠鏡がどの領域を観測していても、その広い視野の中にSETIでターゲットとする星が複数入っていることが多い。このため、ATAを運営する2者の取り決めにより、SETIと一般的な電波天文学観測とが同時に行えるような観測領域が設定されることになっている。 ATAは、最終的には口径6mのパラボラアンテナ350台からなる電波干渉計になる予定である。これにより、既存の施設では不可能であった大規模かつ高感度な電波観測が可能になる。望遠鏡の設計は、ハイドロフォーミング加工された鏡面、500MHzから11.2GHzまでを連続的に観測可能なフィードホーン、低雑音かつ高帯域で周波数によるゲイン変動が小さい増幅器など、新しく開発された技術が数多く使われている。観測された電波は、望遠鏡に搭載された増幅器で全周波数帯にわたって増幅されたのち、光ファイバーを用いて各アンテナからデータ処理室に伝送される。このため、将来的に電子部品を改良したり観測周波数帯を拡張する場合には、アンテナやフィードホーンは変更せず中央の処理装置だけを置き換えればよい。 ATAの観測装置はカリフォルニア大学バークレー校の電波天文学研究室(Radio Astronomy Laboratory: RAL)によって運用される。RALは、望遠鏡の設計や試作機の製作をSETI協会と協力して進めてきており、一般的な電波天文学観測の視点から望遠鏡や相関器の様々な設計を担当した。当初計画通りの構成で完成すれば、ATAは世界中で最も巨大で最も強力な望遠鏡になるはずである。 天文学の将来を議論するAstronomy and Astrophysics in the New Millennium委員会は、SETIへの取り組みを支持し、ATAがスクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometer Array, SKA)実現への重要な布石であると認めている。 ATAは未完成であるため総建設費が確定しているわけではないうえに望遠鏡の性能はひとつの尺度で測れるものではない(例えば、一般的な電波望遠鏡に搭載される受信機の雑音温度はATAより低いが、ATAはより大きな視野を持っているなど)が、ATAのような小さなアンテナをたくさん並べる方式は、巨大な集光面積を得るには最も安価である。例えば、ATAの第一段階であるATA-42の技術開発と建設にかかった費用は、ほぼ同じ集光面積を持つアメリカ航空宇宙局のディープスペースネットワークの ⇒口径34mアンテナを作る費用の約1/3である。
背景
概要