アルマゲスト
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アルマゲスト(トラペヅンティウスによるラテン語版、1451年頃)

『アルマゲスト』(: Almagest)は、ローマ帝国時代にエジプト・アレクサンドリアの天文学者クラウディオス・プトレマイオスによって書かれた、天文学の専門書である[1]。本書で展開された天動説と円運動に基づく天体の運行の理論は、1000年以上にわたって数理天文学の基礎として、中東およびヨーロッパで受け入れられた。本書は天体の運行の幾何学的なモデルを中心に、観測や天体の位置の計算、必要とされる数学や簡単な宇宙論まで、天文学を運用するのに必要な知識を広く網羅し、体系的に解説している。

プトレマイオス自身の手による原典は失われている[2]が、ギリシア語写本の題名として古代ギリシア語: Μαθηματικ? Σ?νταξι?(Math?matik? Syntaxis、マテーマティケー・スュンタクスィス『数学的な論文』)、あるいは 古代ギリシア語: ? Μεγ?λη Σ?νταξι? τ?? ?στρονομ?α?(h? Megal? Syntaxis tes Astronomi?s、ヘー・メガレー・スュンタクスィス・テース・アストロノミアース『天文学の大論文』)といった題名が見られる。これが後にアラビア語に翻訳された際に ???? ???????(kit?b al-majis??) と呼ばれた。なお、アラビア語に "mijisti"(あるいは "majisti")といった語彙は存在せず、ギリシア語の "μεγ?στη"(megist?、メギステー(「大きい」を意味する形容詞 μ?γα?(megas、メガス)の最上級)を音訳したものであると考えられている。これがさらにラテン語に翻訳されて ラテン語: Almagestum(アルマゲストゥム)あるいは ラテン語: Almagesti(アルマゲスティー)と音訳された。: Almagest はその現代語形(英語・ドイツ語)の名前に変わった。

『アルマゲスト』は現代の我々にとって、古代ギリシアの天文学史、数学史の重要な史料でもある。プトレマイオス以前のヒッパルコスペルガのアポロニウスの天文学研究及び、三角法の萌芽である「弦の表」については、本書の言及が今のところ最も豊富な情報を与えてくれている。ただし、両者の間の多大な時間の経過から、その信頼性については、一定の留保がつけられている。
成立年代

『アルマゲスト』が執筆された年代については近年の研究によって正確に確定している。プトレマイオスは紀元147年 - 148年にエジプトのカノープス (エジプト)(英語版)に自らの天文学理論を記した碑を建立した。1980年代に N・ T・ ハミルトンは、このカノープスの碑文に書かれているプトレマイオスの理論は『アルマゲスト』に書かれているものよりも以前の形式であることを発見した。従って『アルマゲスト』が完成したのは、プトレマイオスが天体観測を始めてから25年後の紀元150年頃より後ということになる[3]
構成

『アルマゲスト』は13巻からなる。各巻の内容は以下の通りである。

1巻:宇宙論の概要、
(chord)の長さの表、黄道傾斜の測定(機器および方法)、球面三角法の導入

2巻:天体の出没、昼の長さなど、天体の日周運動に関連する問題

3巻:太陽の運動、一年の長さ

4、5巻:の運動、月の視差地球に対する太陽と月の大きさ、距離、どのような月の観測が必要か、アーミラリ天球儀

6巻:日食月食

7、8巻:恒星の運動、分点歳差星表。この星表では最も明るい星は1(m = 1)、肉眼で見ることができる最も暗い星は6等(m = 6)と記されている。それぞれの等級は1段階暗い等級よりも2倍明るいと考えられていた。この等級の仕組みはヒッパルコスによって発明されたと考えられている。

9巻:太陽、月、5惑星の配列の順序について、5惑星のモデルを構築する際の一般的問題、水星の運動

10巻:金星火星の運動

11巻:木星土星の運動

12巻:留と逆行(惑星が背景の黄道十二宮に対してしばらく停止し、その後逆方向へ移動する運動)。プトレマイオスは外惑星だけでなく水星と金星に対してもこれらの用語を用いるべきであるとした。

13巻:黄緯方向の運動(惑星の黄道からのずれ)

『アルマゲスト』の宇宙論
宇宙論の枠組み(第1巻3-8)

『アルマゲスト』の宇宙論は、大枠においてアリストテレスの宇宙論を継承している。ただし、議論の進め方は、より経験からの帰納を重視する。以下の5つの要点を含む。
大地をくるむようにとりまいて天界は存在し、天は球形で、天体の日周運動や年周運動は、天球の回転で説明される。

大地は球形である(地球球体説)。

地球は宇宙の中心に位置する。

地球の大きさは恒星までの距離に比べて極めて小さく、数学的な点として扱うべきである。

地球は動かない。

上記の1では、古代ギリシアの様々な日周運動の理論(天体が無限に遠ざかる、天体の火が灯ったり消えたりする)を経験的な論拠で論破し、天球の回転による説明を擁護する。また、上記の4で恒星までの距離を非常に遠方としている根拠は、地球のどの場所でも見える方向が変わらない(視差がない)からである。

地球球体説の証明では、
南北で見える恒星が違い、天体の高度も違う。よって、大地は南北方向に曲がっている。

東西で天に見える現象の時間がずれる。よって、大地は東西方向に曲がっている。

月食の際、地球の影が月に映るが、それは円形をしている。

を論拠とする。上記の1と3は、アリストテレス『天体論』第二巻でも論じられているが、2の指摘はない。また、アリストテレスは、自然学的な原理からの演繹も証拠に含めているが、プトレマイオスはそういった議論は含めていない。

地球の不動の証明は、二段階にわかれる。まず、公転など、位置を変えることがありえないことを「地球は宇宙の中心」という先に示した命題と、自然学的な議論で示す。次に、上空の雲や鳥が背後に取り残されるなどの効果が観測されないことから、自転を否定している。一方、アリストテレス『天体論』では、もっぱら理論的な演繹によって地球の運動を否定している。
天体の配置(第9巻1)ペトルス・アピアヌスの Cosmographia(1539年)に描かれている天球図(プトレマイオスの体系と正確に同一ではない)


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