この項目では、スイスの児童文学作品について説明しています。ズイヨー映像製作のテレビアニメについては「アルプスの少女ハイジ (アニメ)」をご覧ください。
アルプスの少女ハイジ
著者ヨハンナ・シュピリ
装幀Rudolf Munger
発行日1880年、1881年
ジャンル児童文学
国スイス
言語スイスドイツ語
形態ハードカバー、ペーパーバック
次作Heidi Grows Up(1938) 『それからのハイジ』
『アルプスの少女ハイジ』(アルプスのしょうじょハイジ、Heidi)は、スイスの作家ヨハンナ・シュピリ(またはスピリ)の児童文学作品である。1880年から1881年に執筆された。原題は『Heidis Lehr- und Wanderjahre』(ハイジの修行時代と遍歴時代、1880年出版)および『Heidi kann brauchen, was es gelernt hat』(ハイジは習ったことを使うことができる、1881年出版)である。
ドイツの文豪ゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』および続編の『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』からその着想を採られたもので、教養小説(成長小説)としての色彩を持ったものである。キリスト教信仰に基づく描写が多く見られる。作者も属するドイツ語圏スイスのデルフリ村(マイエンフェルト付近の架空の村。イェニンス村がモデル)が舞台となっており、中盤にはゲーテの生地でもあるフランクフルトに舞台が移る。
あらすじ
『Heidis Lehr- und Wanderjahre』(ハイジの修行時代と遍歴時代、1880年出版)フランクフルトからデルフリ村に戻ったハイジが祖父と再会し、ハイジの説得で祖父が永年拒んできた日曜礼拝に参加するまでを描く。
『Heidi kann brauchen, was es gelernt hat』(ハイジは習ったことを使うことができる、1881年出版)
スイス最東部にあるデルフリ村(スイスドイツ語で「小さな村」、イェニンス村(英語版)といわれる[1])に二人の兄弟が住んでいた。兄は酒とギャンブルで一家の財産を浪費し、弟はナポリでイタリア軍に従軍するために家出した。息子トビアスを連れて戻ってきた彼は、村人たちから疎まれ、ナポリでの生活にまつわる噂を立てられる。彼はアルム山(架空の山)で隠遁生活を送り、「アルムじいさん」と呼ばれるようになる。二人の村娘、デーテとアーデルハイト姉妹がトビアスと親しくなる。2人が成長すると、デテはグリソン地方のマイエンフェルトの町でホテルのメイドとして働くようになる。アーデルハイトとトビアスは結婚し、彼は大工として働く。二人の間には娘が生まれ、名前はアーデルハイトだが、愛称は「ハイジ」(ハイディ、Heidi)だった。やがてトビアスは仕事中の事故で亡くなり、母アーデルハイトもショック死する。アルムおじさんはこのことで神を恨む。
ハイジは当初、マイエンフェルトで母方の祖母とデーテに育てられる。祖母の死後まもなく、デーテは大都会でのメイドとして良い仕事を紹介されたので、5歳のハイジをデルフリからアルム山を登ったところにある父方の祖父「アルムじいさん」の家に連れて行く。祖父は長年、村人たちと対立し、神を恨み、アルム山で隠遁生活を送っていた。彼はハイジがやって来たことに一時は腹を立てるが、彼女の明らかな知性と陽気でありながら淡々とした態度に、控えめながらもすぐに本物の愛情を抱くようになる。ハイジは新しい隣人たち、若いヤギ飼いのペーター、その母ブリギット、盲目の母方の祖母とも熱心に親しくなる。季節が過ぎるごとに、山頂の住人たち、特にペーターと祖母はハイジへの愛着を深め、ハイジもまた彼らに愛情を注ぐようになる。しかし、祖父はハイジが学校に通うことを拒み、それを勧めようとする地元の牧師や校長と喧嘩し、その結果ハイジは文盲になってしまう。
3年後、デーテはハイジをフランクフルトに連れて行き、クララ・ゼーゼマンという裕福な家の少女のお抱え女友達になる。クララはハイジの素朴な人懐っこさとアルム山での生活の描写に魅了され、ハイジのナイーブさと都会生活の経験のなさがもたらすおかしな災難の数々に大喜びする。しかし、ゼーゼマン家の厳格な家政婦ロッテンマイヤー女史は、家庭の乱れを無分別な悪行とみなし、自由奔放なハイジをますます束縛し、アルプスの話をすることも、故郷を思って泣くことも禁じた。やがてハイジはアルムへのホームシックがひどくなり、驚くほど青白く痩せていく。そんなハイジの唯一の気晴らしは、クララの祖母ゼーゼマン夫人が、ハイジに信頼と愛情を示し、神を信じ、祈ることを勧めて『聖書』の物語集を使って読み書きを習うことだった。後にゼーゼマン夫人はハイジに様々な本を贈る。
ハイジは難治性のホームシックにかかり、階下に降りて玄関のドアを開ける夢遊病の症状を起こす。彼女は友人へのプレゼントとゼーゼマンからの本を抱えて山に戻るが、彼女の最大の楽しみのひとつは、もはや自分では歌えないペーターの盲目の祖母に「讃美歌」を歌ってあげることだと気づく。彼女の神への信仰は、アルムおじさんの中にある何かに語りかける。ある日ハイジは、ゼーゼマン夫人からもらった本から「放蕩息子」を読み聞かせる。その夜、おじさんは久しぶりに祈りを捧げる。おじさんはハイジを教会に連れて行き、冬にはハイジが学校に通えるように村に宿をとる。
ハイジとクララは連絡を取り合い、手紙を交換し続ける。ハイジを訪れた医師は、クララにハイジを訪ねることを熱心に勧め、山の環境と健全な交友関係がクララに良い結果をもたらすと確信する。翌シーズン、クララはハイジと素晴らしい夏を過ごし、ヤギ乳と新鮮な山の空気で強くなる。しかし、ハイジとクララの友情に嫉妬を募らせたペーターは、彼女の空の車椅子を山に突き落として破壊してしまう。車椅子がなければ、クララは歩くしかない。彼女はあまり力がなく、ハイジや祖父に頼って倒れずに立っていることが多かったが、孤独な引きこもりの病人としての生活に終止符が打たれた。祖母と父は、クララが再び歩けるようになったことに驚き、喜びに打ち震える。ゼーゼマン一家は、祖父がハイジを保護できなくなる時が来たとしても、ハイジを永久に保護者となることを約束する。 日本語訳の版本は過去様々なタイトルで100種類以上出版された。以下はその一部(抄訳も含む)。
日本語訳
『ハイヂ』 (野上彌生子 訳。英語版(Everyman's Library 431 ”Heidi”)からの重訳[2]。) 家庭読物刊行会 1920年
『楓物語』(山本憲美
『アルプスの山の娘(ハイヂ)』 (野上彌生子 訳。英語版(Everyman's Library 431 ”Heidi”)からの重訳[2]。) 岩波文庫 1934年、復刊1991年ほか
『アルプスの山の少女』 (水島あやめ 訳、高井貞二 画) 文化書院 1947年
『ハイジ』 上・下(竹山道雄 訳) 岩波少年文庫 1952年(旧版)、改版1986年上下巻計で25万部を発行[5]。
『アルプスの少女ハイジ』 (関泰祐、阿部賀隆 訳) 角川文庫、1952年、改版2006年ほか
『アルプスの少女』 (中村一雄 訳、石垣好晴 画) 日本書房 1954年
『ハイジ』 (矢川澄子 訳、パウル・ハイ 画) 福音館書店〈福音館古典童話シリーズ〉 1974年
『ハイジ』 第1部・第2部(国松孝二、鈴木武樹 訳、小谷智子 画) 偕成社文庫 1977年、のち改版
『アルプスの少女』 (関楠生 訳、ナタリー・フォーシル 画) 童心社〈フォア文庫〉 1988年
『アルプスの少女ハイジ』高瀬直子 てんとう虫コミックス、1990年、漫画作品