アリエル_(衛星)
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この項目では、天王星を公転する天然の衛星について説明しています。イギリスの人工衛星については「アリエル計画」をご覧ください。

アリエル
Ariel

ボイジャー2号が 130,000 km の位置から撮影したアリエル
仮符号・別名Uranus I
見かけの等級 (mv)14.4[1]
分類天王星の衛星
発見
発見日1851年10月24日[2][3]
発見者ウィリアム・ラッセル
軌道要素と性質
軌道長半径 (a)190,900 km[4]
離心率 (e)0.0012[4]
公転周期 (P)2.520 日[4]
軌道傾斜角 (i)0.041°[4]
(天王星の赤道に対して)
天王星の衛星
物理的性質
三軸径1162.2×1155.8×1155.4 km[5]
平均半径578.9 ± 0.6 km[5]
(地球の0.0908倍)
表面積4,211,307.59 km2[6]
体積812,641,988 km3[6]
質量(1.353±0.120)×1021 kg[7]
平均密度1.592 ± 0.15 g/cm3[6]
表面重力0.269 m/s2
脱出速度0.559 km/s2
自転周期同期回転
アルベド(反射能)0.53 (幾何アルベド)
0.23[8] (ボンドアルベド)
表面温度

最低平均最高
~60 K84 ± 1 K

Template (ノート 解説) ■Project

アリエル[9][10] またはエアリエル[11] (Uranus I Ariel) は、天王星の第1衛星で、天王星の5大衛星の1つである。5大衛星の中では4番目に大きい。1851年ウィリアム・ラッセルによって発見された。
発見と命名

アリエルは1851年10月24日にウィリアム・ラッセルによって発見された。この時は同時にウンブリエルも発見されている。なお、1787年に天王星の衛星で最も大きいチタニアオベロンを発見したウィリアム・ハーシェルはさらに4つの衛星を発見したと主張したが[12]、これらはその後確認されず、ハーシェルによる発見は誤りであったと考えられている[13][14][15]

天王星の全ての衛星は、ウィリアム・シェイクスピアの作品、もしくはアレクサンダー・ポープの『髪盗人』にちなんで名付けられている。第1衛星から第4衛星まではウィリアム・ラッセルの依頼を受けたジョン・ハーシェルにより命名されており、アリエルは第2衛星のウンブリエルとともにポープの戯曲『髪盗人』に登場する精霊の名前にちなんで名付けられた[2]。(「アリエル」の名はシェイクスピアの戯曲『テンペスト』にも登場する)。

その他、Uranus I とも呼ばれる[2][16]
軌道

天王星の5大衛星のなかで、アリエルは天王星に2番目に近い軌道を公転している。軌道離心率は小さく、また天王星の赤道面に対する軌道傾斜角も非常に小さい。軌道周期はおよそ2.5日で、自転周期と同期している。そのため、地球と同様に常に同じ面を天王星に向けながら公転している。これは潮汐固定と呼ばれる状態である[17]

アリエルの軌道は天王星の磁気圏の完全に内部にある。アリエルのように大気を持たずに磁気圏内を公転する衛星では、公転の進行方向と逆向きの後行半球の表面は、惑星の自転と共回転する磁気圏のプラズマ粒子の衝突にさらされることになる[18]。これはオベロンを除く全ての天王星の衛星の後行半球で見られるような、暗い表面の原因になっていると考えられる[19]。またアリエルは磁気圏の荷電粒子を捕獲しており、これは1986年にボイジャー2号がアリエル近傍を通過した際に、検出されるエネルギー粒子の明確な減少という形で検出されている[20]

天王星と同様に横倒しの軌道で公転しているため、夏至の際には北半球が直接太陽の方向を向くことになり、逆に南半球は太陽とは反対方向を向くことになる。そのためアリエルは極端な季節変化を経験する。地球の場合は、極域が夏至や冬至の前後に白夜極夜を経験するが、その極端な状態と言える。このためアリエルの両極は、天王星における半年 (42年) の間ずっと昼か夜が続く[19]。ボイジャー2号が1986年にフライバイした際は南半球が夏至を迎えている最中であり、北半球は全体が夜であった。42年ごとに天王星が分点にさしかかり、赤道面が地球と交差する時に、天王星の衛星同士の掩蔽が観測可能になる。このような現象は2007年から2008年にかけて発生し、2007年8月19日にはウンブリエルによるアリエルの掩蔽が発生した[21]

現在のアリエルは他の天王星の衛星といかなる軌道共鳴も起こしていない。しかし過去には、ミランダと 5:3 の共鳴を起こしており[22]、これは過去の内部加熱に部分的に寄与していたと考えられている[23]。またチタニアとは 4:1 の共鳴を起こしていたが、後に共鳴を脱出したと考えられる[24]。天王星の扁平率が小さいため、木星土星の衛星と比べると、天王星の衛星が平均運動共鳴から脱出するのは比較的容易である[24]。38億年ほど前に起こったと思われるこの軌道共鳴は、アリエルの軌道離心率を上昇させ、天王星の潮汐力による衛星内部での潮汐摩擦を引き起こした。この潮汐摩擦により、衛星内部の温度は 20 K 程度加熱されたと予想される[24]
組成と内部構造地球とアリエルの比較。

アリエルは天王星の衛星の中で4番目に大きく、質量では3番目になる。密度は 1.66 g/cm3 であり[7]、水氷と高密度の氷でない成分がおおむね同じ割合で含まれる組成であることが示唆される[25]。氷でない成分は岩石と炭素質の物質からなると考えられ、後者はソリンのような重い有機化合物を含んでいる[17]。水の氷が存在することは赤外線の分光観測から明らかになっており、観測では表面に結晶質の氷が存在することが判明している。この氷は空隙が多いため、太陽放射による熱を下の層にあまり透過させない[3][19]。氷による吸収の特徴は、後行半球よりも公転の先行半球で強い[19]。この非対称性の原因は明らかになっていないが、天王星の磁気圏からの荷電粒子の衝突と関係していると考えられる。磁気圏内の荷電粒子は天王星の自転とほぼ同じ角速度で動いているためアリエルの軌道ではアリエルの公転速度よりも速く、そのため後行半球に後方から追突する形で衝突する。エネルギー粒子は水の氷のスパッタリングを起こす傾向があり、クラスレートハイドレートの形で氷の中にとらわれているメタンを分解して有機物を暗くし、炭素が豊富な暗い残余物が生成される[19]

水以外にアリエルの表面に赤外線分光観測で発見されている化合物は二酸化炭素のみであり、主に後行半球に濃集している。アリエルは他のどの天王星の衛星よりも強い二酸化炭素の特徴がスペクトル中に見られており、また二酸化炭素が検出された初めての天王星の衛星でもある[19]。この二酸化炭素の起源は明らかになっていない。天王星の磁気圏からやってくる高エネルギーの荷電粒子や太陽からの紫外線の影響で、炭素化合物や有機物から局所的に生成されている可能性がある。この仮説は二酸化炭素の濃集の非対称性を説明することができる。これは、後行半球では先行半球よりも磁気圏からの粒子の影響が強いからである。その他の可能性としては、アリエル内部の氷に昔から捕獲されている二酸化炭素の脱ガスによるという仮説も存在する。この場合、内部からの二酸化炭素の流出は過去の地質学的な活動と関連している可能性がある[19]

アリエルのサイズ、岩石と氷の組成の割合、水の融点を下げるアンモニアや塩化物が存在する可能性を考慮すると、アリエルの内部は中心部の岩石の核と、それを取り囲む氷のマントルに分化している可能性がある[25]。これが正しかった場合、核の半径は 372 km と推定される。これはアリエルの半径の 64% に相当し、核の質量は衛星全体の質量の 56% と推定される。中心核での圧力は 0.3 GPa になる。氷マントルの現在の状態は不明であり、内部海の存在については肯定的な意見[25] と否定的な意見[26] の両方が存在する。
表面の特徴ボイジャー2号によるアリエルの最も高解像度のカラー画像。底が滑らかな平面で覆われた峡谷が右下に見える。左下の明るいクレーターは Laica である。
アルベドと色

アリエルは天王星の衛星の中で最も高いアルベドを持つ[8]。表面は衝効果を示す。位相角が 0° の位置から見た場合の反射率は 53% だが (幾何アルベド)、位相角が 1° では 35% にまで減少する。またボンドアルベドは 0.23 であり、天王星の衛星の中では最も高い[8]

アリエルの表面の色は、全体的には中間的である[27]。先行半球と後行半球で非対称性があり、後行半球は先行半球よりも 2% ほど赤い色を示す[28]。アリエルの表面は一般に、アルベドと地形、色の間に相関関係を示さない。例えば、峡谷の部分はクレーターの多い平原と同じ色を示す。しかしいくつかの新しいクレーターの周囲に堆積した明るい物質は、わずかに青っぽい色を示す[27][28]。その他にはいくつかのわずかに青い斑点が見られるものの、他のいかなる表面の特徴とも対応していない[28]
主な地形「アリエルの地形一覧」も参照アリエルの明暗境界線の画像。

観測されているアリエルの表面は、3つの領域に分割できる。クレーターの多い地域、山脈、そして平原である[29]。表面に見られる主要な特徴としては、クレーター峡谷断層崖トラフが挙げられる。


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