アメリカ選挙人団
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2024年の大統領選挙における各州の選挙人団の票数2012年2016年2020年の大統領選挙における各州の選挙人団の票数

アメリカ選挙人団(アメリカせんきょにんだん、英語:United States electoral college)は、アメリカ合衆国大統領選挙の選挙人集会で大統領及び副大統領を選出する選挙人(英語:elector)の集合である。
概要2012年オハイオ州選挙人集会における選挙人就任宣誓[1]。議長席に立つのはジョン・ハステッド(英語版)州務長官、宣誓介添はモウリン・オコナー(英語版)州最高裁長官。2012年のメリーランド州投票結果証書。各選挙人の署名がある。

選挙人の数はごとに、連邦上下両院の合計議席と同数が割り当てられる(上院議席は各州に2人ずつ配当されているので、最小は3人)。ただしどの州にも属さない(連邦直轄地)コロンビア特別区(DC)にはもしDCが州であったとした場合の選挙人が割り当てられるが、この時最も少ない州の選挙人の数を越えてはいけないので、現在は3人。これらの選挙人割り当て総数は538となる。選挙人の選出方法は基本的には州に任されており、歴史上は州議会によって選出される州が多数であった時代もあったが、現在では全ての州とDCで、全国一律の一般投票の日(11月第1月曜日の翌日の火曜日)における州民による投票で選出される。

一般投票では、あらかじめ有権者登録を済ませた州民が、大統領・副大統領候補の名前ペアが記されている選択肢にチェックを入れて投票するが、これらの票はその大統領・副大統領候補のペアへの投票を誓約する選挙人候補団への投票となる。大多数の州・DCでは最大得票の選挙人候補団に全議席が配分される(勝者総取り方式)。例外としてメイン州ネブラスカ州では、上院議員議席分の2名の枠を州全体での最多得票の陣営に与え、残りの下院議員議席分の枠を、下院選挙区ごとに最多得票の陣営に1名ずつ与える。

当選した選挙人団は、「12月の第2水曜日の後の最初の月曜日」に州ごとに選挙人集会を開いて大統領候補と副大統領候補への投票をそれぞれ行う。投票の公開・非公開は州ごとに異なるが、その投票結果を記した証書に選挙人全員が署名して認証し、州知事の署名のある選挙人認定証書と共に副大統領に送付する。副大統領は、新議員が就任した直後の1月6日頃に連邦議会両院合同会議を開いてその場で選挙人票を集計させ、最終的に当選者を認証する。選挙人団による選挙によって大統領・副大統領に当選するには過半数(270票以上)を獲得する必要があり、いずれの候補も過半数に達しなかった場合は、上位候補の中から連邦議会議員の投票で選出が行われる。選挙人団が再度投票したり、選挙人票が議員票に加算されることはない。

選挙人団による選挙は間接選挙であるため、一般投票での得票率一位の候補が当選できるとは限らない(2000年ジョージ・W・ブッシュ2016年ドナルド・トランプ)。

選挙人について合衆国憲法は連邦議会議員や連邦政府の現職公職者であってはならないとだけ定めている。したがって、その政党の支持者であり左記の規定に抵触しなければ誰を選挙人に指名してもよい。実際にはその州の知事・議会議員・党幹部などが指名されることが多いが、2020年ニューヨーク州におけるビル・クリントン元大統領・ヒラリー・クリントン夫妻のように全国的な著名人が選挙人に指名されることもしばしばある。

なお、本選挙に先立つ予備選挙では、州ごとに代議員を選出し、党大会の代議員による投票によって各党の大統領・副大統領の指名候補を選出するが、この過程は選挙人団方式との共通点も多い。
選挙人制度の経緯

選挙人の制度は1787年9月17日発効のアメリカ合衆国憲法制定のときに導入された。

当時はラジオ放送テレビジョン放送などは無く、新聞と呼べるものがあった程度であるが、識字率も低く、有権者が大統領候補の政策や主張を知る機会が少なかった。さらに、領土の広大さに対して交通通信も未発達であり、全土で同時に直接選挙を行うことは物理的に難しかった。

また、当時は自由民男子の普通選挙を採用していたニューヨークを除くいずれの邦も制限選挙を採用しており、各州の憲法批准会議選挙に参加できたのは全国人口の1割程度であった[2]。有権者認定基準は州の権限とする考えが当時強かったため、直接選挙の前提となる全国共通の有権者資格の導入がそもそも困難であった。

そこで、いずれかの候補者の支持を表明する地元や地域の信頼に値する名士知識人を前もって複数の選挙人として指名しておき、選挙で候補者への支持を託す選挙人を選び、間接的に託された選挙人が大統領を選ぶという方法を採用した。選挙人が行う選挙によって国家主権を有するごとに大統領候補の中から一人だけを選択することとなる[3][4]

制憲会議では議会が政権運営を主導することが想定されており、大統領には政府が「多数派の専制」に陥らないようにするためのバランサーの役割が期待された。そのため、民意を反映する下院(直接選挙)に対し、上院議員(当初は州議会が選出)と大統領の選出に際しては民意をある程度遮断することが意図された[5]。大統領選挙人選出の具体的な方法は州に任され、当初は州議会が選挙人を選出する州が多かったが、徐々に各州は州民投票による選挙人選出を採用するようになっていった。

もう一つの理由としては、黒人を始めとする奴隷の存在があった。ジェイムズ・ウィルソンは、当初から直接選挙を主張したが、ジェームズ・マディソンは南部にとって容認できないと反対した。当時、奴隷に選挙権はなかったため、奴隷の多い南部諸州は選挙戦で不利になるからである。かといって、奴隷に選挙権を認めることはマディソンにとって論外であった。そこで彼が代案として出したのが、「奴隷は3/5人(のちに3/4人)とみなし、人口に計上した上で、選挙人の分配に反映する」という制度だった。奴隷の人口のみを利用し、選挙権は認めない便法だった[6][7][8]。この規定は、アメリカ合衆国憲法第1章第2条第3項及び第2章第1条第2項にあり、代議院(下院)定数もまた、同様の方法で決定していた[9]

1800年アメリカ合衆国大統領選挙で当選したトーマス・ジェファーソンは、実際には選挙権のない奴隷人口で水増しされた選挙人でアーロン・バーと同率1位になり、代議院(下院)の決選投票で大統領に選出された。このためジェファーソンは「黒人大統領」と揶揄された。

奴隷制度が廃止となって普通選挙が導入され、交通や通信技術が発達し、全国同時に選挙が行えるようになった後も、選挙人制度は廃止されることなく、現在に至っている。駐日アメリカ合衆国大使館の運営する「アメリカンセンターJAPAN」では、選挙人制度が現在も維持されている理由を以下のように解説している[10]
憲法に規定された制度であるため、修正が難しい。また、大半の米国民はこの制度を支持している。

二大政党制維持のため、共和党民主党のどちらも制度変更の動機がない。

同制度がある結果、大統領候補は選挙人の割り当てが少ない(=人口の少ない)州でも選挙運動を行う必要があり、その結果候補者は各地の有権者の関心事を知り、それに対処する必要性が出てくる。

しかし、各種調査によると、選挙人制度を廃止して直接選挙への移行を望む有権者も増えており[11]、特に民主党の支持層にその傾向が強い[12]
誓約について
誓約違反誓約違反投票に対する罰則がある州(赤)


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