アメリカ合衆国のメートル法化
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米国慣用単位」も参照アメリカ合衆国のシャンプーのラベル。切りの良い値のメートル法単位の表記が、米国慣用単位による非整数値の表記の後に書かれている。

アメリカ合衆国のメートル法化(アメリカがっしゅうこくのメートル法化、en:Metrication in the United States)とは、アメリカ合衆国内に国際単位系(SI)に代表されるメートル法を導入して、従来の単位(米国慣用単位)を置き換えるプロセス(メートル法化)である。

アメリカ合衆国のすべての慣用単位SIにより定義されている。日常的な目的には慣用単位が広く使用されているが、科学・医学・国際関係などの分野ではSIが使用されている。1994年以降の連邦法では、ほとんどの梱包された消費財には慣用単位とメートル法単位の両方を表示することが義務付けられている[1]。しかし、多くのアメリカ人は、日常生活の中でメートル法単位のサイズに慣れていないままである。

なお、合衆国がメートル法を採用していない3カ国の一つである(残りの2カ国は、ミャンマーリベリア)ということ[2]がしばしば語られるが、NIST(アメリカ国立標準技術研究所)はこれを誤解(misconception)ないし神話(myth)であるとして否定している[3][4][5]
歴史
19世紀

憲法は議会に計量の基準を決定する権限を与えているが、1832年まで慣用単位は正式化されていなかった[6]。19世紀初頭、政府の測量・地図作成機関であるアメリカ沿岸測地測量局(英語版)では、フランスからもたらされたメートルキログラムの標準を使用していた。南北戦争直後、アメリカ合衆国第39議会(英語版)は、1866年のメートル法化法(英語版)(Metric Act of 1866)[7] によって商業におけるメートル法の使用を保護し、各州にメートル法による一連の度量衡の標準を提供した。1875年にアメリカ合衆国は、メートル条約の最初の17の締約国の1つとなり、国際的に認知されているメートル法の開発に参加する意思を固めた。この国際条約では、その基準の正確さを改善することで、メートル法を改良するために、5年間ごとに会議を開催することが定められた。メートル条約により、国際的に使用される測定の基準を提供するために、フランスセーヴル国際度量衡局(BIPM)が設立された。

1893年のメンデンホール指令の下で、BIPMの後援で国際協力を経て開発されたメートル法の標準が、アメリカ合衆国の長さと質量の基本的標準として採用された。それ以降、フィートやポンドのような米国慣用単位の定義は、メートル法の単位に基づいている。

1895年のユタ州憲法(英語版)第10条第11節では、「メートル法は州の公立学校で教えられるべきである」と規定された。この節は、1987年7月1日に廃止された[8][9]
20世紀

国際度量衡総会(CGPM)はメートル法の統治機関であり、メートル条約の調印国で構成されている。国際度量衡総会では、1960年に国際単位系(SI)というメートル法の最新版が承認された。

1964年2月10日、国家標準局(現 国立標準技術研究所)は、明らかに有害な影響を及ぼす場合を除き、メートル法を使用するとの声明を発表した[10]

1968年、議会はアメリカ合衆国の計量制度の3年間の調査である米国計量調査(U.S. Metric Study)を認可し、メートル法化の実現可能性に重点を置いた。商務省が調査を行った。45名の諮問委員会が相談し、数百人の消費者・企業団体・労働組合・製造業者・州と地方の職員から証言を取った。この研究の最終報告では、アメリカ合衆国がメートル法の計量システムの使用において、最終的に世界の他の国々に加わることになると結論付けた[11][12]。この研究では、メートル法の単位はすでに多くの分野で使用されており、その使用が増えていることがわかった。研究参加者の大半は、特にアメリカ合衆国の対外貿易の重要性と技術の影響力の高さを考慮して、メートル法への転換がアメリカ合衆国にとって最善の利益であると考えていた。1980年ごろにアメリカ合衆国で製造販売された計量カップ。メートル法単位と米国慣用単位の両方で目盛りがつけられ、右利きの利用者にとって正面になる位置にはメートル法の目盛りが付けられている。

米国計量調査はアメリカ合衆国に対し、10年以上にわたる慎重に計画された、主に使用する単位のメートル法への移行を実施することを勧告した。議会は、「アメリカ合衆国におけるメートル法の使用の増加を調整し計画する」ための、1975年のメートル法転換法(英語版)を通過させた。自主的な転換が開始され、計画・調整・公的教育のための米国メートル法委員会(USMB)が設立された。公的教育はメートル法への大衆の自覚をもたらしたが、大衆の反応は、抵抗や無関心、時には嘲笑が含まれるものだった[13]。1981年、USMBは議会に対し、国家的な転換をもたらすために必要な明確な議会の権限を欠いていると報告した。この無力さと、レーガン政権の尽力(特に、レーガン政権のホワイトハウス顧問リン・ノフジガー(英語版)の連邦政府の支出を減らすための尽力[14])により、USMBは1982年の秋に解散された。

USMBの解散により、メートル法化が本当に実施されることに疑問が持たれるようになった。国家間の競争力と世界規模の市場の需要が増加していても、公共部門と民間部門のメートル法化は減速した[15]

1973年に、米国経済の全ての分野におけるメートル法化活動の計画と調整のための非営利、非課税組織として、米国国家規格協会(ANSI)によって米国国家メートル法委員会(American National Metric Council, ANMC)が設立された。1976年に、ANMCは独立した組織になった。ANMCは、費用を最小限に抑え、利益を最大化し、加入者に情報・フォーラム・個別援助その他のサービスを提供する自主的かつ秩序のあるプロセスを維持することによって、米国のメートル法化を容易にすることを目的としていた。ANMCは、1975年のメートル法転換法で定められた方針の実施のみを試みたUSMBとは異なり、多くの産業部門のメートル法化の計画を調整しようとした。USMBの設立後、ANMCの委員会は化学部門と機器部門の転換計画を提出した。これらの部門の転換計画は、後にUSMBによって承認された。1975年から1987年まで、ANMCは盛大な年次会議を開催した。続いて、1989年から1993年まで、ANMC、米国メートル法化連合(英語版)(USMA)、商務省、国立標準技術研究所(NIST)が共催した全国計量会議が開催された[16]1980年代の旧式の制限速度標識。マイル毎時とキロメートル毎時の標識が併用されている。

1988年、議会は包括通商競争力法(英語版)を制定し、米国の産業育成のための新たな奨励を行った。この法律は、1975年のメートル法転換法を改正し、メートル法を「米国の貿易と商業のための優先制度とする」と定めた。この法律は、自主的にメートル法に転換するために、連邦政府が産業、特に中小企業を支援する責任を負っていると規定している。

この法律は、ほとんどの連邦政府機関に対し、1992年末までに調達・助成金・その他の事業関連活動においてメートル法を使用することを要求した。民間部門でのメートル法の使用を義務付けるものではないが、連邦政府は、国の貿易・産業・商業におけるメートル法への転換の触媒として役立つよう努めてきた。高速道路と建設業は例外とされた。運輸省は2000年までにメートル法への転換を要求する予定であったが、この計画は1998年の高速道路法案(英語版)(TEA21)によって取り消された。米軍は、他の国の軍隊と協力する必要があることから、一般にメートル法の使用率が高い[17]

議会の一部の議員は1992年と1993年に連邦高速道路でのメートル法の使用を禁止しようとした[18][19]。これらの法案は下院で支持が得られず、採決前に廃案になった。
火星探査機の喪失

異なる2つの単位系の使用は、1998年の火星探査機マーズ・クライメイト・オービターの喪失の原因となった。NASAは、契約の際にメートル法の使用を指示した。 NASAや他の組織では、作業においてメートル法の単位を適用したが、下請け業者の1つのであるロッキード・マーティンは、開発チームに対してスラスターの動作データをニュートン秒ではなくポンド重秒で提供した。探査機は高度約150キロで火星を周回することを意図していたが、間違ったデータにより高度約57キロメートルまで降下してしまい、火星の大気中で燃焼した[20]
21世紀"Toward a Metric America" (button)

国家のメートル法化への取り組みは、米国の産業・商業の生産性、数学・科学教育、世界市場における製品・サービスの競争力が、メートル法の採用によって強化されることを前提としている。米国メートル法化プログラムのディレクター、ジェラード・イナネッリ(Gerard Iannelli)は、両方の測定値が示されていないときに、慣用単位からメートル法の単位に「変換する」するのにかかる努力のために、アメリカ人は今のところメートル法化を行っていないという意見を述べた。また、公教育と意識向上のための効果のない試みであると指摘した[21]

2010年6月、NISTは、現在必要とされている米国慣用単位とメートル法単位の二重表示ではなく、自主的にメートル法単位のみの表示にできるよう、公正包装表示法(英語版)の改正を要求した。この改正の目標は、米国のメートル法のより大きな合意につながり、国内外の商取引の簡素化につながる、メートル法の表示を促進することである。NISTのメートル法化のコーディネーター・エリザベス・ジェントリー(Elizabeth Gentry)は、提案された改正が「米国の製造業者と消費者の要求に応えている」と述べ、特に「包装上のコンテンツの不動産の限られた正味量を管理したいと考えている」と付け加えた[22]

2012年12月31日に、ホワイトハウスへの請願に、ホワイトハウスが「帝国単位の代わりに米国で標準的なメートル法を使用するように」と嘆願した申立てが寄せられた。2013年1月10日、この申立ては2万5000件以上の署名を獲得し、オバマ政権に申立てに正式に対応するよう要求する閾値を超えた[23]。国立標準技術研究所の理事長・パトリック・D・ギャラガー(英語版)(Patrick D. Gallagher)は、慣用単位がメートル法により定義されており、測定システムに関して国家は「バイリンガル」になっていると公式に回答した[24]。ギャラガーはまた、メートル法の使用は個人によって行われる選択であると述べた[24]

2013年初め、ハワイ州議会議長・カール・ローズ(英語版)は、州内でメートル法を義務化する措置を講じることを求めた法案HB36をハワイ州下院(英語版)に提出した[25]。 「メートル法に関して」と呼ばれるこの法案は、法律が2018年1月1日に施行されることを規定していた。2014年6月までに、法案HB36は十分な支援を得ておらず、廃案になったと見なされた[26]。法案が可決成立した場合、ハワイ州は広範にメートル法を導入した最初の州になっていた。

2015年1月、オレゴン州上院議員Brian Boquistは、メートル法推進者David Pearlの要請により、オレゴン州上院に議案第166号を提出した。これはハワイ州の法案と同様のものである。それは、オレゴン州内の公的測定単位として国際単位系を確立することになる[27][28][29]
現在の使用
日常生活

ほとんどのアメリカ人は学校でメートル法の単位を学んでいる。長さ・重量・時間・容量などで遠い過去に作られた多くの慣用単位があるが、10の倍量・分量を表すSI接頭語はキロボルト、メガバイト、メガピクセル、また核爆発のTNT換算のメガトン・キロトンなどの最近の単位で使用される。

SI組立単位は、多くの分野で使用されている。住宅の電力計画はキロワット時を使用する[30]。電球から放射される光束は、ではなくルーメンで表される[31]

SI接頭語キロが小文字のkで始まるにもかかわらず、大文字のKが「千」を表すのに用いられている(例えばShe earns $80K.(彼女は$80K(8万ドル)稼ぐ)など)[32][33]。この使用法は、1960年代以前には一般に「千」の意味で使用されていた、"G"(grandの頭文字)や"M"(ローマ数字の千)を大きく置き換えた。そして、"M"はメガから「百万」を意味するようになった[34]
天気

テレビやラジオの天気予報は、気温や露点には摂氏度(°C)ではなく華氏度(°F)を、風速にはマイル毎時(mph)を、大気圧には水銀柱インチ(inHg)(ハリケーンなどの熱帯現象を報告する場合にのみミリバール(mb))を使用する。カナダと国境を接するいくつかの州では、放送地域内のカナダ人も受信できるため、気温は華氏と摂氏の両方で表される。
消費者と小売業最初にmL(ミリリットル)、次にfl oz(液量オンス)で表示されたシャンプーボトル

米国の消費者製品の中には、メートル法単位で切りの良い値になっている物がある。これは製造・流通・販売の国際化により増加している。多くの品目はメートル法単位で切りの良い値で製造されており、一部の製造業者はメートル法による値を最初にまたは目立つように表示している。

米国で最も一般的なメートル法の製品は、2リットルボトル(英語版)である。

一部のスーパーマーケットチェーンでは、プライベートブランドの清涼飲料を3リットルのサイズで販売している。 1リットルと0.5リットル(さらに最近では1.25リットルのボトル)のソフトドリンク容器は、時には12 fl oz(355 mL) 、16 fl oz(473 mL)、20 fl oz(591 mL)、24 fl oz(710 mL)のサイズで販売される。

0.5リットル(16.9液量オンス)の水のボトルは16オンスサイズにほぼ置き換えられている。700 mL(23.6 fl oz)と1リットルのサイズも一般的だが、自動販売機では20 fl oz、24 fl ozのサイズが一般的である。


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