アミロイドーシス
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小腸に沈着したアミロイドの顕微鏡写真。ヘマトキシリン・エオシン染色されているコンゴーレッドで染色された小腸に沈着したアミロイドの顕微鏡写真

アミロイドーシス(Amyloidosis)とは「アミロイド」と呼ばれる蛋白が全身の臓器の細胞外に沈着する疾患。日本では特定疾患(難病)に指定されている。
アミロイドの定義

アミロイド(Amyloid)はヘマトキシリン・エオジン染色でみるとエオジンで淡いピンク色に染まる無構造の細胞外沈着物である。コンゴーレッド染色で赤橙色に染まり偏光顕微鏡で緑色偏光を呈し、電顕では8?15nmの繊維構造を呈する物質として定義される。ドイツの病理学者であるウィルヒョウはこの物質の本体を澱粉様物質と考えアミロイド(類澱粉質)と命名したが、その後、この物質の本体は蛋白質であることが判明した。生体に存在する様々な蛋白がアミロイドになることが知られており、それぞれの蛋白に対応したアミロイドタンパクの名称が付けられる。アミロイドが由来する蛋白すなわちアミロイド前駆蛋白は多様であり、一定のアミノ酸配列や構造を有していることはない。蛋白の違いにかかわらず共通したアミロイドの病理学的性状を呈する。アミロイド形成過程では前駆蛋白あるいは前駆蛋白が蛋白分解を受けた断片が立体構造を変化させβシート構造に富む蛋白(断片)が重合・凝集し最終的にアミロイド線維が形成される。形成されたアミロイド線維は不溶性であり、組織、臓器に沈着する。沈着部位や沈着量により臓器の機能不全が生じる。ただしアルツハイマー型認知症の脳にみられるアミロイドβ蛋白(Aβ)の重合・凝集過程では最終的に形成されるアミロイド線維よりもオリゴマーやプロトフィブリルとよばれる中間的な凝集体のほうがより強い神経毒性をもつ。なおレビー小体や神経原線維変化は細胞内のアミロイド類似の線維性構造物であるが細胞外沈着物であるアミロイドとは定義上区別される。
アミロイドーシスの分類

アミロイドーシスは繊維構造をもつ不溶性蛋白であるアミロイドが、臓器に沈着し機能障害をおこす疾患の総称(疾患群)として定義される。全身諸臓器にアミロイドが沈着して衰弱、貧血、心アミロイド沈着による心症状、消化器障害、腎症状(ネフローゼなど)、手足のしびれなど注目する症状を起こす[1]全身性アミロイドーシスと、ある臓器に限局した沈着をしめす限局性アミロイドーシスに大別され、さらにアミロイド前駆蛋白に対応する臨床病型に分類される。アミロイド前駆蛋白が特定組織に限局すると限局性アミロイドーシスとなり、血液中に存在すると全身に分布するため全身性アミロイドーシスとなる。全身性アミロイドーシスもアミロイドの組織親和性により様々な沈着パターンを呈する。
全身性アミロイドーシス
ALアミロイドーシス

ALアミロイドーシスは異常形質細胞によって産出されるモノクローナル免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖(L鎖)由来のアミロイドALが全身諸臓器(心臓、腎臓、消化管、肝臓、末梢神経など)に沈着する。ALにはλ鎖由来のAλとκ鎖由来のAκがありAλの方がAκよりも多い。まれに重鎖(H鎖)由来のアミロイドAHが沈着するAHアミロイドーシスがみられる。ALアミロイドーシスとAHアミロイドーシスを免疫グロブリン性アミロイドーシスとよぶ。多発性骨髄腫原発性マクログロブリン血症などの基礎疾患を伴わない場合は原発性ALアミロイドーシスとよぶ。原発性ALアミロイドーシスはMGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)に随伴したものと考えられているがMGUS随伴例と骨髄腫随伴例か鑑別困難な例もある。

2004年の日本の統計では免疫グロブリン性アミロイドーシスおよび老人性TTRアミロイドーシスを含めた有病率は人口100万人あたり6.1人と推定されている。いわゆるアミロイドーシスの約70%が免疫グロブリン性アミロイドーシスと考えられている。アミロイドの沈着は心臓、肝臓、腎臓、消化器、末梢神経など多臓器にわたる。初期には全身倦怠感、体重減少、浮腫、貧血などの非特異的症状があり、経過中に鬱血性心不全、蛋白尿、吸収不良症候群、末梢神経障害、起立性低血圧、手根管症候群、肝腫大、巨舌、皮下出血などを呈する。巨舌は特徴的であり約20%に認められる。血管への沈着が著明であれば出血傾向を呈し、紫斑や皮下出血、粘膜下出血を認める。眼窩周囲に紫斑が認められる場合、アライグマの眼サインと呼ばれる。末梢神経障害として知覚障害、無感覚、筋力低下を認める。感覚障害は通常左右対称性で下肢に多く、ときに痛みを伴う。手根管症候群は他の症状より1年以上先行して見られることが多い。診断は厚生省特定疾患調査研究班による免疫グロブリン性アミロイドーシス(AL型)の診断基準と第10回国際アミロイド・アミロイドーシス会議コンセンサス・オピニオンによる診断基準がある。組織診が重視されるが腹壁の脂肪吸引生検は安全かつ診断率が高い。

ALアミロイドーシスの予後は不良であり無治療例での診断からの生存期間中央値はおよそ13ヶ月である。特に心病変を有する例は予後不良である。遊離軽鎖(FLC)も予後因子である。治療の目標はアミロイド蛋白の原因となっているモノクローナルなFLCの産生を速やかに抑制し臓器機能を温存することにある。第10回国際アミロイド・アミロイドーシス会議コンセンサス・オピニオンでは原発性アミロイドーシスの治療判定基準がある。最も有効な治療は65歳未満ならば造血幹細胞移植の自家末梢血幹細胞移植であるが治療関連毒性が多発性骨髄腫の場合と異なり高いため適応は慎重に検討する必要がある。自己末梢血幹細胞移植の適応がない場合はメルファランデキサメタゾンの併用療法が行われる。多発性骨髄腫で行うVAD療法はALアミロイドーシスでは実施する意義が乏しいと考えられている。

年齢や臓器障害の程度、全身状態などから適応ありと判断される症例では、自家末梢血幹細胞移植併用大量メルファラン療法を行い、適応が無い場合は、メルファラン-デキサメタゾン併用(MD)療法を行う[2]


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