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アフォーダンス(英: affordance)とは、アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンがafford(与える、もたらす)という動詞の名詞形として作った造語である[1]。アフォーダンスとは、環境が動物に対して与える意味や価値である。生態光学
、生態心理学の基底的概念であるが、近年では、生態心理学の文脈だけでなく、広く一般に用いられるようになってきている[1]。アフォーダンスは、動物(有機体)に対する刺激という従来の知覚心理学の概念とは異なり、環境に実在する動物(有機体)がその生活する環境を探索することによって獲得することができる意味/価値であると定義される。
アフォーダンスの概念の起源はゲシュタルト心理学者クルト・コフカの要求特性
(demand character)の概念、あるいは同じゲシュタルト心理学者クルト・レヴィンの誘発特性(invitation character)ないし誘発性(valence)の概念にあるとギブソンは自ら述べている[2]。アフォーダンスの概念と、これらの概念との決定的な違いは、アフォーダンスは知覚者の要求の変化により変化することはないということである[2]。アフォーダンスは知覚者の状態により変化せず、独立して存在するものである[2]。アフォーダンスの定義は、ギブソンの著書The theory of affordances(1977)とThe ecological approach to visual perception(1986)では少し異なっている[2]。前者では、アフォーダンスとは、動物と関連づけられた物質や表面の特性のある特定の組合せとなっているが、後者では、環境が動物に提供するものであり、良いものも悪いものも含まれ、用意したり備えたりするものとなっている[2]。
Warren(1984)による段上りのアフォーダンス知覚の研究は、ギブソンが考案したアフォーダンスという概念を定式化し、アフォーダンスが行為者(知覚者)との関係で測定されることを実証的に示した最初の研究である[3]。
アフォーダンスという語が心理学以外の分野でも広く知られるようになった理由の一つは、ドナルド・ノーマン(1988)が“The Psychology of Everyday Things”の中でこの用語を取り上げたからである[4]。ノーマンはこの中で、事物を操作するための手がかりを与えるものとして、アフォーダンスを紹介している[4]。しかし、アフォーダンスを何かの行為を行う際の知覚的な手がかりと考えるのは誤りである[4]。 今日ではアフォーダンスという語の用法が混乱しており、主に二つの異なる意味合いで用いられている。以下にその詳細について記す。 ギブソンの提唱した本来の意味でのアフォーダンスとは、動物と物の間に存在する行為についての関係性をあらわす言葉である。例えば人物Aと扉について語るのであれば、Aはその扉を引いて開けるという選択肢がある。この選択肢が存在するという関係を「この扉とAには引いて開けるというアフォーダンスが存在する」あるいは「このドアが引いて開けるという行為をアフォードする」と表現するのである。 要点は行為の選択肢そのものであるため、その扉が引いて開けられるのだと示すインターフェイスを持つか否か、ひいてはA自身がその扉を引いて開けることが可能だと認識しているか否かは全く関係がない。「トゲだらけのドアノブがついている」あるいは「ドアノブがついてない」ような状態であっても、Aに引いて開けるという行為が可能ならば、ドアはAに「引いて開ける」という行為の選択肢をアフォード(提供)しているのである。 これは逆にドアがアフォードしてるのは「引いて開ける」だけではないということも意味する。例えば「外す」「破壊する」「穴を開ける」といった行為も可能であるため、ドアはこれらも同時にアフォードしているといえる。このように、通常ある物体に存在するアフォーダンスは一つに限定されるものではない。 しかし特にデザイン領域において、「人と物との関係性(本来の意味でのアフォーダンス)をユーザに伝達する事」平たく言えば「人をある行為に誘導するためのヒントを示す事」というような意味で使用される事がかなり多い。「わかりやすいドアノブを取り付けることで、ドアが引いて開けるという動作をより強くアフォードする」等というニュアンスの記述もしばしば見られる。これらはギブソンが本来の意図していたアフォーダンスとはまったく異なる概念である。 この用法を結果的に世に広めてしまったドナルド・ノーマン自身も後年にそれを認めており、以降はシグニファイアという言葉を用いてこの概念を説明している。 現状では特に注釈なくこれら二つが入り交じって使用されている(むしろ後者の用法がより広く浸透している傾向がある)ため、十分な注意が必要である。 ウィリアム・ガーバー[5]は、アフォーダンスを知覚可能、非表示、および偽の、3つのカテゴリに分類した。 偽のアフォーダンスは、実際の機能を持たない見せかけのアフォーダンスである。つまり、行動を起こす者は、存在しない行動の可能性を認識する[6]。偽のアフォーダンスの良い例は、プラセボボタン 非表示のアフォーダンスは、行動の可能性があることを示してはいるが、これらは行動を起こす者によって認識されていない場合である。例えば、靴を見て、ワインボトルを開けるのに使用できるかどうかはわからない。アフォーダンスを認識できるようにするために、行動を起こす者が認識し、既存のアフォーダンスに基づいて行動できるような情報が必要である。 知覚可能なアフォーダンスの場合、それらは知覚と行動の間に直接的なリンクを提供し、アフォーダンスが隠されている。(非表示)か、誤っている(偽)場合、それらは間違いや誤解につながる可能性があることを意味する。 ロボット工学の問題[8]は、アフォーダンスが心理学からの理論的概念だけではないことを示している。オブジェクトの把握と操作では、ロボットは環境内のオブジェクトのアフォーダンスを学習する必要がある。つまり、視覚と経験から、(a)オブジェクトを操作できるかどうか、(b)オブジェクトを把握する方法、および(c )特定の目標を達成するためにオブジェクトを操作する方法を学ぶ。一例として、ハンマーは、原則として、多くの、手の使い方と使用方法で把握できるが、目的を達成するための有効な接触点とそれに関連する最適な握りの組み合わせは限られている。 コンピューターソフトウェアデザインにおいてアフォーダンスは1995年のアラン・クーパーの著作[9]で「イディオムとアフォーダンス」としてドナルド・ノーマンの1990年の著作「The Psychology of Everyday Things」(日本語訳 野島久雄訳「誰のためのデザイン?」新曜社 1990)が「アフォーダンスという素晴らしい用語を提示した」と紹介し、その定義を「物事の知覚された実際の特性、主に、それがどのように使用され得るのかを決定する基本的な特性」と日本語訳されている。アラン・クーパーはノーマン定義から「実際の」を省略し観念的な言葉とし、「実際のものではなく、その事物がなし得ると我々が思うもの」を指す用語としてソフトウェアデザインの用語として再定義した。これにより、クーパーは「玄関脇のプッシュボタンは100%間違いなく呼び鈴であるが自動車のボンネットなど通常ありえないところにあるならその目的は見当がつかない。しかしそれが指で押すものだという見当はつく。指先と同じくらいの大きさで、指の届くところにある物をみると、それを押したくなる動物なのである。長く丸いものを見ると我々は指をそれに巻きつけ、ハンドルのようにそれをつかむ。これがノーマンがアフォーダンスという言葉で言い表したかったことではないかと思う」とし、そのノーマンのアフォーダンスと区別するために「マニュアルアフォーダンス」という用語で「ものが我々の手でいかに操作され得るかを本能的に理解すること」を表した。そのうえで、このマニュアルアフォーダンスが、多くの場合、ビジュアルユーザーインターフェースデザインの基礎となるとした。アラン・クーパーはカリフォルニア、サンフランシスコのマリン大学で建築学を専攻し、マイクロコンピュータ用のソフトウェア会社から経歴を始め、ソフトウェア設計者、プログラマ、起業家であり、かつ「Visual Basicの父」として広く認知され、ビル・ゲイツから表彰された人物である。
用法
本来のアフォーダンス
シグニファイア
偽のアフォーダンス
ロボット工学のアフォーダンス
デジタルユーザーインターフェースにおけるアフォーダンス
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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