アファーマティブアクション
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アファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置、肯定的措置)とは、民族人種性別などによる差別に苦しむ社会的弱者の不利な現状を、歴史的経緯や社会環境を鑑みた上で是正するための積極的な改善措置を表す。1960年代より主に欧米において行われてきたが、他の地域における施策も同様に呼称する。この語は1961年にジョン・F・ケネディ米大統領が大統領令において初めて使用した[1]
概要

アメリカ合衆国および欧州で使用される積極的差別是正措置の英語表現である。英語ではaffirmative action([??f?m?t?v ?ak.??n])、positive discrimination([?p?z??t?v d?sk??m??ne???n])、positive actionなどと呼ばれる。これらの用語は弱者集団の現状是正のための進学就職昇進における直接の優遇措置を指す。この場合の肯定(: positive)とは改善の意味である。

1961年にジョン・F・ケネディ大統領の大統領令10925で最初に導入され[2]、「人種、信条、肌の色、または出身国を理由に従業員または雇用申請者を差別してはならない」こと、および「申請者が雇用され、従業員が雇用中に扱われることを保証するために積極的な行動をとる」ことを定めた[3]。さらに1965年にリンドン・ジョンソンが大統領令11246でこれを更新し、「人種、肌の色、宗教、性別、出身国に関係なく、応募者が雇用され、従業員が雇用中に扱われることを保証するために肯定的な行動を取る」ことを要請した[4]

アファーマティブ・アクションは、「差別撤廃」や「積極的差別是正」の方策として受け入れられてきた[注 1]。構造的に内在する差別を解消するために、機会不平等の是正策として、特定の民族あるいは階級に対して優遇措置を制度上で採用し、例えば貧困層の階級出身の学生に対する生活援助や奨学金などの制度が各国で広く採用されている。このような制度を積極的に採用するアメリカ合衆国インドマレーシア南アフリカ共和国などの国々においては、政府機関の就職採用や公立教育機関(特に大学)への入学において、被差別人種とされる黒人ヒスパニック系の人種[注 2]、あるいは被差別の階層のために採用基準を下げたり、全採用人員のなかで最低の人数枠を制度上固定するなどの措置がとられている。ただし、同じマイノリティの中でもアジア人に対する扱いは例外であり、学業成績が優秀であったとしても評価基準の曖昧な「人物評価」において低い点数をつけられ、結果的に不合格になるケースが多く、優遇処置が取られているどころか実際はむしろ事実上の人種差別を受けているのではないかという疑念が呈されている[5][6]
日本

日本語では、affirmative action は一般に「積極的格差是正措置」と訳される。「ポジティブ・アクション (positive action)」ともいう[7][8]。「ポジティブ・ディスクリミネーション (positive discrimination、肯定的差別)」のように「差別」を用いた単語の使用は避けられる傾向にある。なお、アファーマティブ・アクションは優遇措置でなく差別環境の是正措置であり、例えば2002年(平成14年)4月19日の厚生労働省の発表では、日本における女性に対しての積極的改善措置に関して「単に女性だからという理由だけで女性を「優遇」するためのものではなく、これまでの慣行や固定的な性別の役割分担意識などが原因で、女性は男性よりも能力を発揮しにくい環境に置かれている場合に、こうした状況を「是正」するための取組なのです」といった注釈もなされている[9]
同和地区「同和地区」も参照

国や自治体は部落問題を解消するため、いわゆる「同和行政」として、同和地区の住民に対して各種の優遇措置を設けてきた。これも積極的格差是正措置の一種といえる[10]。具体的には、部落差別における同和対策事業特別措置法[注 3]などがこれに類すると考えられる。
性別
女性

女子学生を大学入試において差別する傾向が依然として残っており、例えば2018年には医学部入試での差別が発覚している。そうした背景を踏まえ、男女共同参画社会基本法の規定による男女共同参画基本計画により、「社会のあらゆる分野において,2020年までに,指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する」といった目標を定めており[11]、それに関連した取り組みが各分野で積極的に実行されている。具体例としては大学入試において女性優遇入試(女子特別枠)や雇用において女性優遇採用がなされている。
男性

千葉市は「男性保育士活躍推進プラン」を策定し、具体的数値を掲げて男性保育士の支援を表明しており、賛否の声が挙がっている[12]

このような性による優遇措置については、日本のみならず世界各国で反対の声が存在する。日本では「男女の平等は、社会の意識や慣習が変化し、女性が能力を十分に発揮できるようになれば自然に達成される」、アメリカでは「自由な競争を妨げ、社会や企業の活力を損なう恐れがある」などとして反対の声が出ている[13]
障害者

障害者については、「障害者雇用枠」が一般募集枠と別に存在し、障害者の雇用の促進等に関する法律に基づく義務雇用率が定められている[注 4]
その他

香川県善通寺市四国学院大学では、入試に同和地区出身者や沖縄県出身者、在日韓国・朝鮮人、アイヌ、奄美群島出身者、障碍者の特別推薦枠を設けている[14]。この制度について、沖縄キリスト教短期大学元学長の平良修は「歴史をきちんと見つめ、まじめな姿勢で取り組んでいると思う。」と高評価している[15]。また早稲田大学大学院教育学研究科教授である前田耕司は、オーストラリアにおける先住民族アボリジニに対する教育支援システムの充実との比較からも、四国学院大学の例や札幌大学のアイヌに対する給付金制度といった学校法人個別の支援だけでなく、国家レベルの高等教育支援の必要性を主張している[16]。一方で畑中敏之や奥山峰夫は批判的であり、沖縄人権協会事務局長で弁護士の永吉盛元は四国学院大学の被差別少数者枠について「あきれる。沖縄県民や朝鮮人も含め、誰もが教育を等しく受ける権利は、憲法で保障されている。大学側には『救済』の意図があるかもしれないが、その考えこそ差別的だ」と批判している[15]
アメリカ「アメリカ合衆国の教育」および「アメリカ合衆国の人種差別」も参照

@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}アメリカ合衆国では、アフリカ系アメリカ人(黒人)やラテン系の平均の学力が低いために進学率が低いことを是正するために、大学において一定枠の確保(理想としては黒人の全人口に対する割合と同一の合格確保)が行われている。差別が論拠とされるが、非白人(non-White Americans)で被差別民族であるはずのアジア系(東洋系およびインド系)の人種は、成績が全体として高いためにこの優遇措置を受けることができない。またアメリカの大学の入試においては課外活動での活躍が評価され、この分野では総じて白人が有利とされる。よって、成績が平均的に優秀であるアジア系が大学入学においての不利とされる。


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