アナボリック・ステロイド
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糖質コルチコイド成分のステロイド「副腎皮質ホルモン」とは異なります。

Anabolic?androgenic steroids
Drug class
天然AASであるテストステロン (androst-4-en-17β-ol-3-one).
クラス識別子
略称Anabolic steroids; Androgens
効用Various
ATC codeA14A
生物学的ターゲットアンドロゲン受容体
Chemical classステロイド; アンドロスタン; エストラン
臨床データ
Drugs.comDrug Classes
External links
MeSHD045165
In Wikidata
瓶詰めにされた多種の注射用アナボリックステロイド

アナボリックステロイド(anabolic steroid)(anabolic androgenic steroid, AAS)は、生体の化学反応によって外界より摂取した物質から蛋白質を作り出す作用、すなわち蛋白同化作用を有するステロイドホルモンの総称。多くは男性ホルモン作用も持っている。

テストステロンなどの天然アンドロゲンと、それに構造的に類似してテストステロンと同様の効果を持つ合成アンドロゲンが含まれる。「アナボリック」の語源は「構築する」を意味するギリシャ語の "anabolein で、一般的にはこれが単に「ステロイド」と呼ばれるが[1]、糖質コルチコイド成分の「ステロイド」(副腎皮質ホルモンなど)とは異なる。

アナボリックステロイドは筋肉増強剤として使用されることが主で、ドーピング薬物として知られる[2]。短期間での劇的な筋肉増強を実現するとともに、常態で得ることのできる水準をはるかに超えた筋肉成長を促す作用[3] から、運動選手らの間で長年にわたり使用されてきた[4]複数の専門家による危険性の相対性を数値化したグラフ[5]

健康被害から輸入規制が検討される[6]、ラット実験ではラットが躁または鬱状態に陥る、死亡する等の結果から危険なドラッグの一種であるという認識が一般的である[7]
歴史

1935年に発見された物質テストステロンは経口摂取できず、注射により体内に投与しても速やかに肝臓で代謝によって活性を失う――すなわち作用時間が短いという性質を有していた。そこで、この物質の代替物としての、多種の調整を加えたテストステロンアナログの開発が望まれた[4]

やがて東西冷戦の激化に伴いオリンピックイデオロギーの戦場と化す流れのなかで、数多の東欧東側諸国が、自国の運動選手らに対するドーピングを組織的に行い始める。するとそれに対抗するかたちで、多くの国々がテストステロンの代替物としての合成薬の研究に着手。そして1955年米国重量挙げ選手団の専属医によって、ついに望まれていたかたちの「筋肉増強剤」が開発されるに至った[8]。それはテストステロンの類似物質、あるいは体内に取り込まれたのちにテストステロンに変換されるという物質であり、これがすなわちアナボリックステロイドであった[4]

かくして誕生するに至ったアナボリックステロイドは、耐久性の運動競技や有酸素運動における能力の向上をもたらすものとして、1960年代の初めごろから重量挙げの選手やボディビルダーらの間で注目を集めはじめた[4]

1975年になると、国際オリンピック委員会によって、オリンピックにおける使用禁止物質の一覧に新たにアナボリックステロイドが加えられた[4]。そしてその翌1976年に開催された1976年モントリオールオリンピックにおいて、ようやく確立されるに至った検出技術を用いたうえで、オリンピック史上初となるアナボリックステロイドの使用検査が行われることとなった[9]

やがて1980年代も後半に差し掛かると、1988年に開催された1988年ソウルオリンピックにおいて、100メートル競走優勝者のベン・ジョンソンによるスタノゾロール[10] の使用が発覚したことで、アナボリックステロイドはスポーツ界を超えた一般社会からのドーピング一般に対する関心を惹起することとなった[9]
効果と適応男性ホルモン作用(アンドロゲン作用)については「男性ホルモン」を参照

そもそも生体から分泌される男性ホルモンの代表であるテストステロンの効力を改善するために合成されたことから[11]、そのテストステロンに類似した物質であり[3]、「蛋白同化ステロイド」[3] や「蛋白質同化性ステロイド」[4] あるいは「蛋白同化剤」[12] や「タンパク質同化ホルモン」[13] との訳語に明らかであるように、蛋白同化作用を強める働きを持つ。蛋白同化とはすなわち、摂取したタンパクを細胞内組織に変える働き(おもに筋肉において)のことである。アナボリックステロイドの原型であるテストステロンの化学構造

アナボリックステロイドには「アナボリック・アンドロジェニックステロイド」(anabolic-androgenic steroid - AAS)――「男性ホルモン作用蛋白同化ステロイド」という異称がある[14]

米国スポーツ医学会は、数名の個体において、アナボリックステロイドが適切な食事摂取のもとで脂肪を付けることなく体重を増加させることに寄与し、また、強度の運動と適切な食事のもとで達せられる筋力増加がその使用によってより促進されることを認めている[15]

アナボリックステロイドは医療用に処方されることがある。その蛋白同化作用を用いて、骨粗鬆症や慢性の腎疾患の治療、あるいは怪我火傷による体力の消耗状態の改善などを目的に用いられている[16]日本において医療用に処方されるアナボリックステロイドには、メスタノロン(英語版)製剤とメテノロン製剤という2種類がある[17]。前者は骨粗鬆症下垂体性小人症慢性腎疾患悪性腫瘍外傷/熱傷による著しい消耗状態などの治療に用いられ[18]ヘモグロビン量や赤血球数の増加などの造血作用をも示す後者は、これらに加えて再生不良性貧血による骨髄の消耗状態の治療に用いられている[19]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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