アドルフに告ぐ
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アドルフに告ぐ
ジャンル
ストーリー漫画歴史漫画サスペンス
漫画:アドルフに告ぐ
作者手塚治虫
出版社文藝春秋
掲載誌週刊文春
レーベル文春コミックス 他
発表号1983年1月6日号 - 1985年5月30日号
巻数文春コミックス全5巻 他
テンプレート - ノート
プロジェクト漫画
ポータル漫画

『アドルフに告ぐ』(アドルフにつぐ、ドイツ語: Aufruf an Adolf!)は、手塚治虫による日本歴史漫画作品。
概要

1983年1月6日から1985年5月30日まで、『週刊文春』(文藝春秋)に連載された。1986年(昭和61年)度、第10回講談社漫画賞一般部門受賞。

第二次世界大戦前後の時代、ドイツ日本を舞台に、「アドルフ」というファーストネームを持つ3人の男達(アドルフ・ヒトラー(本書での表記は「アドルフ・ヒットラー」)、アドルフ・カウフマン、アドルフ・カミルの3人)を主軸とし「ヒトラーがユダヤ人の血を引く」という機密文書を巡って、2人のアドルフ少年の友情が巨大な歴史の流れに翻弄されていく様と様々な人物の数奇な人生を描く[1]

作品の視点は主にカウフマンとカミル、狂言回しである日本人の峠草平の視点から描かれている。ヒトラーが登場する場面は、峠草平とカウフマンの目から見た描写と、終盤にとどまる。ストーリーが展開し、ベルリンオリンピックやゾルゲ事件、日本やドイツの敗戦、イスラエルの建国など、登場人物たちは様々な歴史的事件に関わる事になる。同時期に執筆された『陽だまりの樹』と並び非常に綿密な設定で作劇された手塚治虫の後期の代表作とされる。

生前の手塚が対談で語ったところによると、当初は空想的・超現実的傾向の強い作品を構想していたが、週刊文春側の要請で「フレデリック・フォーサイスタイプ」の作品になった[2]。また、途中の休載や単行本の総ページ数の制約により、中東紛争の歴史を背景にラストに至る必然性を描写したり、登場人物であるランプや米山刑事などの「その後」について予定していたドラマなどはすべてカットされることになった[3]
あらすじ

1983年イスラエル。1人の日本人男性がひっそりと墓地の一角に佇み、ある墓の前に花を供えた。彼の名は峠草平。40年前、3人の「アドルフ」に出会い、そしてその数奇な運命に立ち会うことになった彼は、全ての終わりを見届けた今、その記録を1冊の本として綴ろうとしていた。

1936年8月、ドイツは、ベルリンオリンピックに湧いていた。協合通信の特派員であった峠草平のもとに、ベルリン留学中の弟・勲から電話が入る。翌日、観戦している競技が長引き、約束の時間から大分遅れて勲のもとに駆けつけた草平だったが、部屋の中は何者かに荒らされていて勲の姿はなく、何気なく顔を出した窓の外に勲の惨殺死体を発見する。すぐさま警察が駆けつけるも、警察に収容されたはずの勲の遺体は行方不明となり、勲が住んでいた部屋は元から別人が住んでいたことになるなど不可解な出来事が重なり、勲の存在自体が抹消されてしまう。草平は、勲の遺したメモと彼の爪に残っていた白い粉を頼りに殺害犯の謎を追って奔走する。草平は勲の恋人を名乗るローザと出会い、真実を求めようとする。しかしこれは勲の隠した秘密を追うゲシュタポの罠であり、ローザはゲシュタポ極東主任・ランプの娘だった。

その頃、日本の兵庫県神戸市に2人のドイツ人少年が住んでいた。1人は日独混血のアドルフ・カウフマン、もう1人はユダヤ系ドイツ人のアドルフ・カミル。境遇が異なる2人は親友同士であったが、ドイツによるユダヤ人迫害は二人の関係にも影を落としつつあった。ある日カミルは「ヒトラーがユダヤ人である」ということを盗み聞きしてしまう。カミルの残した告解メモからこのことを知ったカウフマンは、父ヴォルフガングにそのことをうっかり訊ねてしまう。おりしもナチス最大の機密であるその情報を追って阪神大水害真っ只中の街中に出て体調を崩していたヴォルフガングは激昂し、肺炎を悪化させて病死してしまう。

ヴォルフガングの遺言でドイツに戻り、アドルフ・ヒトラー・シューレに入ったカウフマンは、反ユダヤ主義が国是となったドイツで成長していく。当初は反ユダヤ主義に対する違和感を感じていたカウフマンだったが、やがて優等生として反ユダヤ主義に染まっていき、不法入国者として逮捕されていたカミルの父を任務で射殺することとなったり、中国人スパイを捕まえてヒトラー直々に褒賞され秘書として側近く仕えるなど出世の道を歩んでいく。その一方でユダヤ人の少女・エリザに好意を抱き、ユダヤ人狩りから逃れさせるために、親友カミルが住む日本に亡命させている。

一方でドイツから帰国した草平は、弟の恩師である小城から連絡を受ける。勲が死の直前に小城に送った文書は「ヒトラーがユダヤ人の血を引く」ということの明確な証拠だった。しかし特別高等警察に監視されていた小城と接触したことで、草平は特高の赤羽警部に追われることとなってしまう。そのさなか、カウフマンの母・由季江は草平と出会い、思いを寄せるようになる。文書を狙って来日したランプをかわした草平は、文書を小城の仲介を通して由紀江の友人である本多大佐の息子芳男に託した。しかしゾルゲ事件に関与していた芳男は、それを知った父の手によって殺害される。

第二次世界大戦末期の1944年7月、カウフマンはヒトラー暗殺未遂事件に関与したとされるエルヴィン・ロンメル元帥をかばったことから失脚し、ユダヤ人の強制移送に従事することとなる。カウフマンに目をつけたランプは、機密文書奪回のためにカウフマンをドイツ海軍潜水艦で日本に向かわせる。日本に戻ったカウフマンは、エリザがカミルと婚約していたこと、母・由季江が草平と結婚していたことを知る。激しい怒りに捕らわれたカウフマンはエリザを犯し、カミルと決裂してしまう。1945年に入りいよいよ激しくなる戦火の中、カウフマンは文書の捜索を続けるが、3月の神戸大空襲によって由季江は妊娠したまま植物状態となる。ようやく文書を発見したカウフマンだったが、その日はヒトラーの自殺が日本で報道された日であった。

戦後、パレスチナに逃亡したカウフマンはパレスチナゲリラのもとに匿われ、家族を持つ。しかしその家族はイスラエル軍の「アドルフ・カミル」率いる部隊によって殺害される。激怒したカウフマンは街中にカミルへの通告を貼り付ける…。
登場人物
主人公
峠 草平(とうげ そうへい)
本作の主人公の1人で
狂言回し[4]。協合通信のドイツ特派記者。1911年茨城県新治郡土浦町(現在の土浦市)出身。W大[5]陸上部の元花形選手。スポーツマンらしい正々堂々とした、一本気でおおらかかつタフな性格の持ち主。弟の復讐としてローザを強姦し自殺に追い込むなど冷酷な一面を見せることもあるが、硬派な言動から多くの女性に想いを寄せられている。ドイツに留学している弟の勲がおり、ベルリンオリンピックに湧くドイツで取材中、勲から掛かってきた一本の電話が彼の人生を大きく変える事になる。勲を殺された挙句、文書を巡って特別高等警察拷問され、協合通信を辞めさせられ、どん底の生活に追い込まれる。それでも弟の無念を晴らすために奔走するも、結局無駄に終わった。カウフマンの母親である由季江と、とあることで知り合い彼女の店でボーイを務め、やがて再婚相手となる。相思相愛の夫婦関係を築くが、カウフマンの歪みを深める一因を作った。神戸大空襲で爆発に巻き込まれた後遺症で失聴し、終戦直後に由季江との間に娘が産まれるも、間もなく由季江と死別した。終戦後、ベルリンオリンピック時に知り合った新聞記者に「君しかいないんだ!」と乞われて復帰。その記者の勤め先に入社し、作家記者となった。1983年、パレスチナに移住していた神戸在住時代に面識のあったアドルフ・カミル一家を訪ねて、カミルの息子との対面や、カミルの妻となっていたエリザとの再会を果たした後、亡くなったカミルの墓に花を供えたところで物語は幕を引く。弟から委ねられたヒトラーの出生に関わる文書をカウフマンによる拷問から発見されるまでひたすら守り抜いた。しかし、公表すればナチスの動向にも影響を与えた文書を、ナチスドイツや同盟国日本による権力の握り潰しを怖れて、影響を受けない強固な敵対勢力を通じての公表を探り続けるうちに、結局終戦まで公表される事はなかったため紙屑同然となり、守り続けた意味を失っている。
アドルフ・カウフマン
本作の主人公の1人。ドイツ人外交官にして熱心なナチス党員のヴォルフガングを父に、日本人の由季江を母に持つハーフの少年。1928年生まれ。元々は大人しく繊細な性質で、日独混血である事にコンプレックスを抱きながら育った。神戸キリスト教学校へ通い、神戸の山本通りで裕福な暮らしを送る一方、下町のユダヤ人のパン屋の息子で同名のカミルとは親友であった。しかし、父親の強い要望によりアドルフ・ヒトラー・シューレ(AHS)への入学が進められ、抵抗を試みるも、ある秘密からカミルを守った結果、ドイツ本国へと送られてしまう。カミルとの強い友情と、再会を胸に日本を発つが、AHSでの教育は徐々に自身をナチズムに染めていく。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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