アトピー
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アトピー性皮膚炎
概要
診療科皮膚科学
分類および外部参照情報
ICD-10L20
ICD-9-CM691.8
OMIM603165
MedlinePlus000853
eMedicineemerg/130
MeSHD003876
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アトピー性皮膚炎(アトピーせいひふえん、英語: atopic dermatitis)とは、アレルギー反応と関連があるもののうち皮膚炎症を伴う[1][2]もの。アトピー性湿疹(英語: atopic eczema)と呼ぶ方が適切である[3]。アトピーという医学用語は、主にタンパク質アレルゲンに強く反応する傾向のことであり、気管支喘息鼻炎などの他のアトピー性のアレルギー疾患にも冠されることがある[3]。アトピーである場合、典型的には皮膚炎、鼻炎、喘息の症状を示すことがあり、その内の皮膚炎(湿疹)のことである[3]

過半数は乳児期に、そして90%までが5歳までに発症する[4]
初出と意味

アトピーという名称の由来は、「特定されていない」「奇妙な」という意味のギリシャ語「アトポス」(atopos - a=否定、topos=由来)であり、1923年にアーサー・フェルナンデス・コカ(英語版) とロバート・アンダーソン・クック(英語版)によって命名された。アトピー性皮膚炎 (atopic dermatitis)という病名が医学用語として登場するのは1933年で、アメリカ人の皮膚科医マリオン・ザルツバーガー(英語版)らが、皮膚炎と結びつけて使用したことにはじまる。

コカはアトピーの名称を異常な過敏反応を指して使い、病原体や病因が不明で眼、鼻、気管支、皮膚など多彩に発現し、奇妙、不思議であるということである[5]。アトピー性の人の血中に、アレルゲンに反応するレアギンが検出されることが分かり、これは免疫グロブリンに属することが分かりγEと命名され、今日ではIgEと呼ばれている[5]

世界アレルギー機構(WAO)の定義するところでは、アトピーとは、主にタンパク質のアレルゲンに暴露されIgEを産生する傾向のことで、IgEに対する高反応だということである[3]。それは家族的な場合もあり、典型的な症状として喘息、鼻炎、湿疹を示すことがある[3]。そしてIgE検査でIgE感作が証明されるまではアトピーとは言えない[3]

世界アレルギー機構の定義では、広く皮膚の炎症を指す時に皮膚炎を使用し、アレルギー性喘息や鼻結膜炎があるというような共通の特徴があるアトピー性体質の者の場合には、アトピー性皮膚炎と呼ぶよりアトピー性湿疹の方が適切である[3]

アトピー性皮膚炎の罹患者224人平均年齢26.4歳にて、91人は気管支喘息であり、166人はアレルギー性鼻炎、138人は過去1年間持続的に皮膚症状を呈しており、65人(29%)が一般的な食物アレルギー(小麦粉、牛乳、卵、ピーナッツ、大豆)であった[6]
原因

日本皮膚科学会ガイドラインでは、アトピー性皮膚炎は表皮、なかでも角層の異常に起因する皮膚の乾燥とバリアー機能異常という皮膚の生理学的異常を伴い、多彩な非特異的刺激反応および特異的アレルギー反応が関与して生じる。
アトピー素因


家族歴・既往歴(気管支喘息アレルギー性鼻炎結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)

免疫グロブリンE(IgE)が高値

65%が1歳までに、90%が5歳までに発症する[4]

遺伝要因は約50%だと推定されているが、先進国では21世紀までに過去30年にわたり小児アトピー性疾患(喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻結膜炎)が増加してきており、そうした有病率の増加は遺伝要因からは説明しがたいし、実際にアトピー性疾患にかかる子供の大半は遺伝的にリスクの高いグループに属しているということもない[7]。またアレルギー性疾患とアトピー性疾患の関連は十分に証明されている[7]
遺伝的要因
遺伝子の解析により、マスト細胞好酸球にIgE抗体を結合させるレセプターや、サイトカインのうちアレルギーの炎症に関与するものの遺伝子が集中している遺伝子座がアレルギーと関連していることが明らかになっている[8]。日本人のアトピー性皮膚炎患者の約3割弱にフィラグリン遺伝子変異がみられる。フィラグリンは角層のバリア機能の形成や水分保持といった機能の蛋白である。フィラグリン遺伝子変異を有していると、2歳未満の若年発症が多い、より重症になりやすい、成長に伴い寛解しないといった傾向がみられる[9]。palmar hyperlinearity(手掌、特に拇指球にみられる皮膚紋理の増強)は、フィラグリン遺伝子変異に対する感度(ホモ接合体100%、ヘテロ接合体約75%)・特異度(約95%)がともに高い[10]

2003年のアメリカ皮膚科学会による、小児アトピー性皮膚炎のコンセンサス会議では、アレルゲンへの暴露とアトピー性皮膚炎の発症の抑制との関連に焦点が当てられ、それは妊産婦の食物摂取までを含めたものでさらなる研究が必要とされ[11]、研究は進展してきた。

1940年代より乳児の食品の摂取状況とアレルギーの発症に関する報告があり、そうした先行する研究から、母乳の保護効果なのか、牛乳タンパク質の回避によるのかといった2通りの考え方が提起された[7]。アトピー性皮膚炎のリスク排除の第一手段として乳児の完全母乳が推奨されており、2010年のシステマティック・レビューでは、完全母乳を実施しない場合には18の研究はすべて、100%乳清タンパク質の分解乳を用いたほうが、牛乳タンパク質を原料とする調整粉よりも、アトピー性皮膚炎とアトピー性疾患の発症リスクを低下させていた[12]。あるいは、母乳哺育を行う生後4か月までの乳児の母親が、牛乳の摂取を制限することで、その子のアトピー性皮膚炎の発症率を下げる[13]。母乳中に主な食物アレルゲンであるα1カゼインが移行することは確認されている[14]。生後4か月までに4種類の固形食品を摂取した場合には、10歳までのアトピー性皮膚炎のリスクが2.9倍であった[15]
原因に関する仮説

下記の諸説があり解明されていない。
腸内・表皮・肺・口腔内等による細菌叢
表皮常在菌のバランスの乱れによる表皮の黄色ブドウ球菌異常増殖が原因となっている可能性が高い
[16]。一方、関西医科大学小児科らの研究チームは、腸内細菌叢とアレルギー症状の推移の間に明確な相関を認めなかったとしている[17]。表皮バリア破綻説がある。アトピー性皮膚炎では、皮膚の保湿に関わる成分であるセラミドの減少も原因である。なお、入浴すると表皮が柔らかくなり、セラミドが減少することにより、症状が改善されない場合がある。
食事要因
魚、ω-3脂肪酸、ナトリウム、抗酸化物質の不足などが言われている[7]。アトピー性皮膚炎患者に対してω-6脂肪酸(主としてリノール酸)の含有量の低い食事を与えたところアトピーに改善効果が認められた[18]
皮膚炎の症状

乳児湿疹と混同される場合もある。その炎症は頭部に始まり、次第に顔面に及ぶ。そして体幹、手足に下降状に広がる。

幼児期-学童期には、肘窩や膝窩などの関節の屈側に病変が生じ易く、耳介の下部が裂けるような症状(耳切れ)を呈する。

思春期以後は、広範囲にわたり乾いた慢性湿疹の症状を呈する。

眉毛の外側が薄くなる(ヘルトゲ兆候)。

発赤した皮膚をなぞると、しばらくしてなぞったあとが白くなる(白色皮膚描記)。

乾燥して表面が白い粉を吹いたようになり、強い痒みを伴う

頭皮にフケが生じやすい(不潔要因ではなく乾燥要因のため、過度な洗髪は逆効果)

傷や炎症軽快後は、長期の黒ずみ(色素沈着)が生じやすい

赤い湿疹、結節などができ、激しい痒みを伴う。痒疹を伴うこともある。

湿潤した局面から組織液が浸出することがある。

慢性化すると、鳥肌だったようにザラザラしたものができ、皮膚が次第に厚くなる。

しこりのあるイボ状の痒疹ができることがあり、この場合難治性である。イボになることもある。

思春期以降は、手指に症状が表れ易くなり、爪元から第二関節あたりが特に酷く荒れやすい


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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