アデノウイルス
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アデノウイルス科
マスタデノウイルスの電子顕微鏡像
分類

レルム:ウァリドナウィリア Varidnaviria
:バンフォルドウイルス界 Bamfordvirae
:プレプラズミウイルス門 Preplasmiviricota
:テクティリウイルス綱 Tectiliviricetes
:ロワウイルス目 Rowavirales
:アデノウイルス科 Adenoviridae




Atadenovirus

Aviadenovirus

Ichtadenovirus

Mastadenovirus

Siadenovirus

アデノウイルスの構造。正20面体の頂点に位置する12個のペントンカプソマー(スパイク,1)と、各面に配置された総数240個のヘキソンカプソマー(2)とで構成されたカプシド、およびそれに覆われたウイルス核酸(線状二本鎖DNA, 3)からなる

アデノウイルス科(Adenoviridae)は、二重鎖直鎖状DNAウイルスで、カプシドは直径約80nmの正20面体の球形粒子をしており、エンベロープは持たない。アデノウイルスは感染性胃腸炎を引き起こす。また、ライノウイルス等とともに、「風邪症候群」を起こす主要病原ウイルスの一つである。

アデノウイルスには51種類の血清型および52型以降の遺伝型があり、A - Gの7種に分類される[1]
ゲノム

アデノウイルスのゲノムは、単一の二重鎖直鎖状DNAからなる。DNA両側の5'末端にTPタンパク質が共有結合しており、これがDNA複製の際にプライマーとして機能する点が特徴的である。標準的には長さ26-46 kbpで23-46のタンパク質コード遺伝子を含んでおり、[2]基本的な構造や機能は全てのアデノウイルスに共通している。ここではヒトアデノウイルスEを例として説明する。
転写単位ヒトアデノウイルスEの転写単位(緑)と、タンパク質(赤)およびその他(青)の遺伝子

ヒトアデノウイルスEには転写単位が17個あり、それぞれが1から8個のタンパク質遺伝子を含んでいる[3]。またそれぞれの転写単位から選択的スプライシングによって複数の異なったmRNAが生じる場合もある。

E1A, E1B, E2A, E2B, E3, E4の6つの転写単位はウイルスの増殖サイクルの初期に順次転写される。ここに存在する遺伝子から翻訳されたタンパク質は、主にウイルスゲノムの複製や転写の制御と、宿主の感染応答の抑制に関与する[4]

転写単位L1-L5は増殖サイクルの後期になって転写され、主にウイルスのカプシド形成に関わる。これらは単一のプロモーター領域で制御されており[5]、ひとつの転写開始点から転写を開始し、下流にある5つの転写終結点のいずれかでランダムに転写終結して5種類のmRNA前駆体を生じ、さらに選択的スプライシングによって様々なタンパク質をコードするmRNAになる。
タンパク質

以下の表にヒトアデノウイルスEのタンパク質コード遺伝子38を示す。[6][7]

名前RefSeq ID転写単位開始位置終了位置鎖アミノ酸数
control protein E1AYP_068018.1E1A5761441+257
control protein E1B 19KYP_068019.1E1B16002115+171
control protein E1B 55KYP_068020.1E1B19053356+483
capsid protein IXYP_068021.1IX34413869+142
encapsidation protein IVa2YP_068022.1IVa239305554-448
DNA polymeraseYP_068023.1E2B503313773-1193
protein 13.6KYP_001661328.1L178149476+139
terminal protein precursor pTPYP_068024.1E2B840413773-642
encapsidation protein 52KYP_068025.1L11076511937+390
capsid protein precursor pIIIaYP_068026.1L11196113736+591
penton base (capsid protein III)YP_068027.1L21381515422+535
core protein precursor pVIIYP_068028.1L21542616007+193
core protein VYP_068029.1L21605517080+341
core protein precursor pXYP_068030.1L21710317336+77
capsid protein precursor pVIYP_068031.1L31741318141+242
hexon (capsid protein II)YP_068032.1L31824821058+936
proteaseYP_068033.1L32108221702+206
single-stranded DNA-binding proteinYP_068034.1E2A-L2177423312-512
hexon assembly protein 100KYP_068035.1L42334125716+791
protein 33KYP_068036.1L42543926252+214
encapsidation protein 22KYP_068037.1L42543925978+179
capsid protein precursor pVIIIYP_068038.1L42632127004+227
control protein E3 12.5KYP_068039.1E32700527325+106
membrane glycoprotein E3 CR1-alphaYP_068040.1E32727927911+210
membrane glycoprotein E3 gp19KYP_068041.1E32789328417+174
membrane glycoprotein E3 CR1-betaYP_068042.1E32844929111+220
membrane glycoprotein E3 CR1-deltaYP_068043.1E32944030264+274
membrane protein E3 RID-alphaYP_068044.1E33027330548+91
membrane protein E3 RID-betaYP_068045.1E33055430994+146
control protein E3 14.7KYP_068046.1E33098731388+133
protein UYP_068047.1U3148131632-50
fiber (capsid protein IV)YP_068048.1L53164932926+425
control protein E4orf6/7YP_068049.1E43302234169-141
control protein E4 34KYP_068050.1E43327034169-299
control protein E4orf4YP_068051.1E43407234440-122
control protein E4orf3YP_068052.1E43444934802-117
control protein E4orf2YP_068053.1E43479935188-129
control protein E4orf1YP_068054.1E43523635610-124

それぞれの機能の概略は以下の通りである:[5]

protein II, III, IIIa, IV, VI, VIII, IX(カプシド)、V, VII, X(コア)、末端タンパク質TPは構造タンパク質である

IVa2, 52K, L1, 100Kはカプシド形成に関わる

L3プロテアーゼは前駆体タンパク質pTP, pVI, pVII, pVIII, pIIIaを切断し成熟させる

E1Aは転写活性化因子

E1B 19Kは宿主のBcl-2タンパク質をミミックしてアポトーシスを抑制する。

E1B 55Kは宿主の転写制御因子p53に結合して機能を抑制し、アポトーシスを抑制する。

E2AおよびE2B転写単位にコードされる3つのタンパク質はいずれもウイルスDNAの複製に関与する。RNAではなくDNA末端に結合しているTPタンパク質をプライマーとして複製を開始する。

E3 RIDαおよびβは膜タンパク質で、アポトーシス抑制に寄与している[8]

CR1βは糖鎖修飾膜タンパク質で、宿主の免疫応答を調節する。[9]

E3 gp19Kは宿主細胞膜へのMHCクラスIタンパク質挿入を阻害し、T細胞により認識されないようにしている[10]

E3 14.7Kは宿主の抗ウイルス応答からウイルスを守る[11]

E4転写単位のタンパク質群はウイルスDNAからの転写調節に関与している[12]

ウイルスの増殖

B種以外のアデノウイルスは免疫グロブリンスーパーファミリーに属するCARタンパク質をレセプターとして宿主細胞内に取り込まれる。そしてE1Aの転写をきっかけとして各種の初期遺伝子が活性化され、ウイルスのDNAポリメラーゼやDNA結合タンパク質、感染細胞のアポトーシスを抑制する物質が合成される。さらにE1AはウイルスのDNA複製に都合のよいS期に誘導する。その後、ウイルスDNAの複製が始まると後期遺伝子が発現され、カプシドなどが合成され成熟したウイルスとなる。
アデノウイルス感染症透過型電子顕微鏡による撮影像

人に感染するアデノウイルスは2016年現在、51型までの血清型と52型以降の全塩基配列による遺伝子型が知られており、A?Gの7種に分類されている。種によって、どのような病気を起こすのか、ある程度判明している。多くのアデノウイルスは、潜伏期は5?7日で、感染経路は便、飛沫、直接接触による。感染した場合、アデノウイルスは扁桃腺やリンパ節の中で増殖する(アデノとは扁桃腺やリンパ節を意味する言葉)。
肺炎・脳炎

主として3・7型による。

特に7型は重症の肺炎を起こす。乳幼児がかかることが多く、髄膜炎脳炎[13]心筋炎などを併発することもある。だらだらと長引く発熱、咳、呼吸障害など重症になることがあり、時に致命的なことがある[14]
咽頭結膜熱(プール熱)詳細は「咽頭結膜熱」を参照

主として3・4型による。

1日の間に39?40度の高熱と、37?38度前後の微熱の間を、上がったり下がったりが4?5日ほど続き、扁桃腺が腫れ、のどの痛みを伴う。その間、頭痛、腹痛や下痢を伴い、耳介前部および頸部のリンパ節が腫れることがある。両目または片目が真っ赤に充血し、目やにが出る。夏にプールを介して流行することがあるため、プール熱とも呼ばれることもあるが、プールに入らなくても飛沫や糞便を通して感染する。うがい、手洗い、プールの塩素消毒などで、ある程度予防できる。症状がインフルエンザに似ているため、「夏のインフルエンザ」と呼ばれることもある。

学校保健安全法上の学校感染症の一つであり、主要症状がなくなった後、2日間登校禁止となる。
流行性角結膜炎(EKC)

主として8、19、37型によるとされてきたが、近年の日本においては53、54および56型によるEKCが多発するようになった。


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