アツタ_(エンジン)
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国立航空宇宙博物館付属ウドヴァーヘイジー・センターに展示されているアツタ31型

アツタは、第二次世界大戦頃にドイツダイムラー・ベンツで開発・製造されたDB 600DB 601エンジンを、大日本帝国海軍(日本海軍)の指示で愛知航空機ライセンス生産した航空機液冷エンジンである。DB 600Gをライセンス生産したアツタ11型(海軍略符号:AE2A)、DB 601Aをライセンス生産したアツタ21型 (AE1A)、その性能向上型としてアツタ32型 (AE1P) などがある。艦上爆撃機彗星特殊攻撃機晴嵐に搭載された。なお、日本陸軍の指示で同じくDB 601を国産化したエンジンに川崎航空機ハ40がある。
生産に至るまで

1936年(昭和11年)に生産が始まったDB601Aの高性能は、やがて日本海軍の知るところとなり、日本海軍は1938年(昭和13年)に、その高性能を活かした高速艦上爆撃機として十三試艦上爆撃機(後の彗星)の開発に着手し、DB601Aの国産化に向けて製造権の取得交渉も開始した[1]。当初、日本海軍は、その国内生産を川崎航空機に行わせようとしていたが、やや遅れて日本陸軍もDB601Aの製造権取得・国産化に乗り出し、海軍の方は十三試艦上爆撃機の機体生産を担当する海軍系の愛知時計電機(後の愛知航空機)にエンジン生産も行わせるよう変更したためもあって、話がまとまらなくなり、陸海軍は別個に製造権取得を進めるに至った[1][2]。その結果、愛知時計電機が先行して1938年(昭和13年)に、川崎航空機はやや遅れて1939年(昭和14年)1月に、それぞれ別個にライセンス生産契約を締結し、ライセンス料もそれぞれ50万円ずつを支払った[1][2]

航空史の調査・研究・執筆を行っている渡辺洋二は、その著書において、当時の製造権取得の方法として、製造権を日本政府が購入する方式をとれば、ライセンス料は50万円の1件ですむところを、別個に交渉したためにライセンス料も別々に負担する結果を招いたと指摘し、日本陸海軍間の強いセクショナリズムの典型としている[1][2]。「三式戦闘機#エンジン」も参照
国産化の特徴アツタ21型の側面アツタ21型の胴体側アツタ31型の側面アツタ31型の胴体側

アツタと言えば、ダイムラー・ベンツ DB 601ライセンス品であるアツタ21型や32型が有名だが、一般的に海軍の指示でライセンス生産権を獲得したと言えば、DB 601のことを指すことが多い。ただし、これ以前に海軍の命でDB 600のライセンス権を購入しており、少数だが実際に生産されていた。

原型のDB 601Aエンジンは戦闘機Bf 109にも搭載された液冷エンジンで、ボッシュ直接燃料噴射装置流体継手による無段階変速過給機スーパーチャージャー)を備えた世界最先端の高性能エンジンではあったが、クランク軸に嵌入するコンロッドの大端部にローラーベアリングを採用するなど、極めて精緻な構造となっていた。国産化に当たっては、優秀な技術者がいても、精緻なパーツを生産する最新の工作機械および原材料資源を十分に確保することが出来なかったため、ドイツ本国の設計図通りに精緻な部品を量産することが出来なかった。それゆえ工作機械を用いた大量生産に向けては、日本の国内事情に合わせた独自の改変を行わざるを得なかった。

陸軍のハ40同様、戦略物資の使用制限からニッケルの使用量が制限された。但しその制約はハ40の場合よりもやや緩く、当初の生産型であるアツタ21型ではクランクシャフトにニッケルマンガンクロム鋼が使用されている。32型ではニッケルの入手性の悪化からシリコンマンガンクロム鋼に切り替えており、これが焼入れ性の悪化等を招いた。愛知では対応策としてクランク軸の熱処理を長時間化して強度を確保することとし、名古屋市都市ガスの半分以上を使用して2週間にも及ぶ炉内焼入れ作業を行った。それでも完成品の歩留まりは低く、加工工程で研削割れ、更に出力増大も影響してクランクピン部分の剥離、ローラー軸受のフレーキング等が多発した[3]。この焼入れ工程は生産上の隘路となり、ある意味、これが品質管理を機能させた面もあるが、それは結果論であり、当時は生産量の増大ができないことを問題視しており、後述の32型の本格生産立ち上がり遅れの原因や空冷エンジンへ換装した型式の彗星三三型が登場する要因となった。

完成品のアツタは全体的にハ40より程度がよく、整備さえ行き届いていれば空冷エンジンと変わらなかったが、多くの整備兵が液冷エンジンに慣れていないことから、稼働率は空冷エンジンと比較して低くなりがちであった。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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