アップライトピアノ(英: Upright piano)は、ピアノの形態の一種で、フレームや弦、響板を鉛直方向に配置した打弦鍵盤楽器の一種である。グランドピアノと多くの共通要素を有する。
アップライトピアノは、フレームや弦、響板を鉛直方向に配し、上下に延びるように作られている。弦が短いためインハーモニシティの影響を受けやすく音はグランドピアノより劣るとされるが、グランドピアノよりも場所を取らないため、グランドピアノを設置する場所の取れない家庭や、学校の教室、小規模の演奏会場などに広く設置されている。
ドイツ語を含む多くの言語ではイタリア語で「小さなピアノ」を意味する「pianino」(ピアニーノ)と呼ばれる。英語では「upright piano」(直立ピアノ)または「vertical piano」(縦型〔垂直〕ピアノ)、フランス語では「piano droit」(直角ピアノ)または「piano vertical」と呼ばれる。
歴史ヴィルヘルム・オルブリヒ(ポーランド語版)(1913年没)によるアップライトピアノの内部構造
鉛直方向に延びた弦の基本的な構造原理は16世紀にはクラヴィツィテリウム(英語版)とガイゲンベルク(英語版)に既に適用されていた。1811年から、ロバート・ワーナム(英語版)が「コテジピアノ(Cottage piano)」を生産し、これは1826年までに「ピッコロピアノ(Piccolo Piano)」へと発展した[1]。今日のアップライトピアノの別の先駆者が1815年にイグナツ・プライエルによってパリで考案され、1840年頃に発表された[2]。これはより壮大なリラフリューゲル(ドイツ語版)を単純にしたものであった。グランドピアノやスクエア・ピアノと比べて小さな設置面積しか必要としないため、アップライトピアノは家庭で使用されるピアノとしてはこれらをほぼ完全に置き換えてしまった。アップライトピアノの設計は欧州では既に1850年頃、米国では1900年頃にスクエア・ピアノに取って代わった。
技術ロバート・ワーナムによるミュート機構、1842年。
アップライトピアノの場合、響板、鋳鉄フレーム、弦、およびハンマー機構(英語版)は床に対して垂直に配置されているため、壁を背にして設置でき空間を節約することができる。
より古いアップライトピアノ(1910年頃まで)は部分的にいわゆる「アッパーダンパー機構」を有している(ハンマーより上にダンパーが位置する)。今日のアップライトピアノでは、ダンパーは通常ハンマーより下で弦と同じ側にある(アンダーダンパー機構)。
アップライトピアノは大抵7 ?オクターブ(A-c5)の音域を有する。しかしながら、より低い音域を持つ設計も存在する。「ヨットピアノ」と呼ばれる特殊なアップライトピアノもある。これは非常にコンパクトで、多くの場合は音域が6 ?オクターブしかなく、稀に格納式の鍵盤を持つ。高さが1メートル未満のこういった楽器は、名前がほのめかすように、鍵盤の下部に機構を有する。主な欠点は、従来型デザインのアップライトピアノに比べて機構の除去や入れ替えに長い時間がかかるため、メンテナンスに多大な時間を必要とする点である。
大きさと重さアウグスト・フェルスターのアップライトピアノ
典型的なアップライトピアノのサイズ以下の通りである。
幅: 140-155 cm
奥行き: 50-60 cm
高さ: 「小型アップライトピアノ」は110 cmまで、「コンサートアップライトピアノ」は約130 cmから。アップライトピアノの古典的な高さは約130 cmである。より高い楽器はより大きな響板面積とより長い低音弦を有し、これらはどちらもより良い音質をもたらす[3]。
重さ: 175-300 kg
ある著者らは、高さと高さに対応するために必要なアクションの修正に応じて現代ピアノを分類する[4]。
スタジオピアノはおよそ107から114 cmの高さである。これは鍵盤より上に原寸のアクションを収容することができる最も低いキャビネットである。
コンソールピアノはコンパクトなアクション(より短いハンマー)を持ち、スタジオモデルよりも数インチ低い。厳密にはアクションが鍵盤の上に直に乗っているタイプを言う。
スピネットモデルの上端は鍵盤より上にほとんど出ていない。アクションは下部に位置し、鍵の裏に接続された鉛直方向のワイヤーによって操作される。
スタジオピアノよりも高いモデルが「アップライト」と呼ばれる。スタジオ/コンソールおよびスピネットピアノはアップライトと区別して「バーティカル」ピアノと呼ばれることもある[5]。 イングランド式(イギリス式)と呼ばれる消音機構が現在製造されている楽器で用いられている機構である。 ハンマー機構のてこは鍵(12)を押すことによって作動する。この動きがパイロット(13)に伝わる。次にウィペン(14)に連結されたジャック(17)がハンマーバット(8)を弦(5)の方向へそらす。ウィペン(14)が動いている間に、ダンパー(11)はダンパーレバー(7)と接触しており、その後に消音ブロックが弦から離れる。ウィペンのさらなる動きによってジャック・トウ(15)とレギュレチングボタン(16)との接触が起こり、ジャック(17)はハンマーバット(8)の下側から出ていく。次に、ハンマー(21)が弦(5)を打ち、ハンマーバット(8)は元に戻る動きに入る。戻る動きの途中で、ハンマーバット(8)のキャッチャー(19)がウィペン(14)のバックチェック(18)によって捕まる。ウィペン(14)が下がり始めるとすぐに、ジャック(17)はハンマーバットの下に戻り、ダンパーヘッド(6)が弦を押さえて、消音機構は次のサイクルへの準備が整う。 ウィーン式と呼ばれるアッパーダンパー機構は既に歴史的な構造である。19世紀と20世紀の変り目に出てきた。 ハンマー機構のてこは鍵(9)を押すことで作動し、この動きがパイロット(10)に伝わる。次に、ウィペン(8)に連結されたジャック(14)がハンマーバット(6)を弦(5)に向かって傾ける。ウィペン(8)が動いている間、ダンパー・ブッシャー・バレル(11)に支えられている時に、ダンパーレバー(20)の前方部が動き、ダンパーヘッド(4)が弦から離れる。ウィペンのさらなる動きによってジャック・トウ(12)とレギュレチングボタン(13)との接触が起こり、ジャック(14)はハンマーバット(6)の下側から出ていく。次にハンマー(19)が弦を打ち、ハンマーバット(6)は元に戻る動きに入る。ハンマーが戻る動きの途中で、ハンマーバット(6)のキャッチャー(14)がウィペン(8)のバックチェック(15)によって捕まる。ウィペン(8)が下がり始めるとすぐに、ジャック(14)はハンマーバットの下に戻り、ダンパーヘッド(6)が弦を押さえて、消音機構は次にサイクルへの準備が整う。ウィペン(8)の前方が下がると、ダンパーレバー(20)の前方部が下がり、ダンパーヘッド(4)が弦の方へ動く。ダンパーヘッド(4)はダンパーレバー(20)の重さにより弦に押し付けられ、それによって弦の振動を抑える。 グランドピアノでは、ハンマーが反動と重力によって自然な動きで下に落ちるのに対し、アップライトで一般的な前後に動くハンマーでは、反応のよいピアノ・アクションを製造することは難しい。これはハンマーの戻りをバネに依存せざるをえず、経年劣化するためである。またレペティションレバーという、ジャックをハンマーの下に引き戻す機構が、ほとんどのアップライトピアノには備わっていないため、連打性能に関しては決定的に劣る。グランドピアノは1秒間に13-14回の連打が可能であるが、アップライトピアノは通常その半分程度である。 グランドピアノと同様の「ダブル・エスケープメント」機構を備えたアップライトピアノはこれまで製造されているが、製造コストが高く、出来上がった製品も上手く機能しなかったため、普及していない。
アップライトアクションの種類イングランド式ダンパー機構の図解ダンパー機構
イングランド式ダンパー機構
イングランド式機構の図解
積層ピン板
チューニングピン
アグラフ
アクションボルト
弦
ダンパーヘッド
ダンパーレバー
ハンマーバット
センターレール
ダンパーペダルレバー
ダンパースプーン
鍵
キャプスタンスクリュー(パイロット)
ウィペン
ジャック・トウ
レギュレチングボタン
ジャック
バックチェック
キャッチャー
ハンマーレール
ハンマー
作動原理
アッパーダンパー機構(ウィーン式)アッパーダンパー機構(ウィーン式)の図解アッパーダンパー機構
ウィーン式機構の図解
積層ピン板
チューニングピン
アグラフ
ダンパーヘッド
弦
ハンマーバット
センターレール
ウィペン
鍵
キャプスタンスクリュー(パイロット)
ダンパー・ブッシャー・バレル
ジャック・トウ
レギュレチングボタン
ジャック
バックチェック
キャッチャー
ハンマーレール
ハンマー
ダンパー・プッシャー・ロッド
ダンパーレバー
構造梁部材
作動原理
グランドピアノとの比較
連続同音打弦性能
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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