アグレッサー部隊(アグレッサーぶたい、英語: Aggressor squadron)とは、軍の演習・訓練において、敵部隊をシミュレートする役割を持った専門の飛行隊(squadron)のことである。
“アグレッサー(Aggressor)”とは英語で「侵略(国)側」を意味する単語である。なおアメリカ海軍ではアドバーサリー(Adversary、「敵」の意味)部隊と呼称される。
概要アメリカ空軍第65アグレッサー飛行隊所属のF-35A
戦闘機部隊は日々の任務に加えて資格取得の勉強に時間を取られているため、自軍に新たに導入された機材や諸外国の戦術変化に応じた戦闘技術を研究・開発する余裕はなく、また研究・開発を部隊ごとに個別に行うのは効率が悪い。アグレッサー部隊はこれを専門的に行い、生み出された成果を元に一般部隊を訓練することで軍全体のレベルを上げることが役割である。ただし、このような専門の部隊を保有するのはアメリカ空軍や海軍程度で、ほとんどの国では実戦部隊や訓練部隊の一部が兼任していることが多い。また、現在ではATACやドラケン・インターナショナルのように民間軍事会社が行うこともある。
教官役でもあり、自軍のセオリーとは異なった戦術を理解・把握するだけでなく、演習では仮想敵機として実演する必要があるため、優秀な人員が割り当てられ、エリート部隊となっている。また、アメリカ軍などにおいては、敵役をシミュレートするのみならず、鹵獲もしくは購入した仮想敵国の兵器を用いている場合がある。
各国のアグレッサー部隊
日本航空自衛隊飛行教導群所属機(2014年)
航空自衛隊
詳細は「飛行教導群」を参照航空自衛隊では同様の部隊として飛行教導群(旧飛行教導隊)を編成しており、当初はT-2を使用していた。F-15の導入開始とT-2の空中分解事故が発生したことにより、現在はF-15J/DJを利用して訓練に参加している。同部隊では敵の動きに対してどう動くかを理詰めで考えさせ「敵機が見えなかった」と言い訳ができないよう敢えて視認性が高い「識別塗装」[1]が施されている。
旧日本軍
詳細は「陸軍航空審査部」を参照旧日本軍では帝国陸軍の航空審査部飛行実験部(旧飛行実験部実験隊)が、他国と同様に不時着や占領地で入手ないし、同盟国などから購入(輸入)した機体を技術研究や戦技教育に利用していた。黒江保彦は、中国戦線で鹵獲したP-51を駆って、各地の飛行戦隊において模擬空中戦を行い対P-51の訓練を行っていた。
アメリカアメリカ空軍第64アグレッサー飛行隊、および第65アグレッサー飛行隊所属のF-15とF-16
アメリカ空軍
アメリカ空軍においては、ネバダ州ラスベガスネリス基地の第57航空団隷下の第64および第65アグレッサー飛行隊、アラスカ州アイルソン空軍基地の第354戦闘航空団隷下での第18アグレッサー飛行隊の3飛行隊が編成されている。第64,65両飛行隊は冷戦終結に伴い一度は活動を停止、代わって第414戦闘訓練飛行隊が編成されたが、その後第64アグレッサー飛行隊は2003年に第414戦闘訓練飛行隊のF-16を移管されて活動を再開し、また第65アグレッサー飛行隊も2005年に余剰となったF-15を受領して再編された。第414戦闘訓練飛行隊は現在ではレッドフラッグ演習の運営を担当している。第18アグレッサー飛行隊は前身の部隊はF-16ブロック40を装備する第18戦闘飛行隊であったが、2006年に当時アラスカ州周辺で行われていた大規模軍事演習コープ・サンダー(Cope Thunder)がレッド・フラッグ・アラスカ(Red Flag Alaska)へと名称が変更になることを受け、在韓米軍で同じくF-16を運用していた第35戦闘飛行隊および第80戦闘飛行隊からブロック30の機体を受領し、第18アグレッサー飛行隊として再編された。レッドフラッグ・アラスカでの敵軍模倣(アグレッサー任務)だけに限らず、飛行隊ごと移動して太平洋・アジア地域に展開する米軍部隊に対して教導任務を行っている。なお、かつて第4477試験評価飛行隊