アカンプロサート
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アカンプロサート
IUPAC命名法による物質名
IUPAC名

3-Acetamidopropane-1-sulfonic acid

臨床データ
胎児危険度分類

C[1] (US) B2 (AU)

法的規制

UK: 処方箋のみ (POM)

US: ?-only

投与経路経口 (333mg tablets of acamprosate calcium)[1]
薬物動態データ
生物学的利用能11%[1]
血漿タンパク結合無視できる[1]
代謝代謝されない[1]
半減期20 から 33 時間[1]
排泄[1]
識別
CAS番号
77337-76-9 
ATCコードN07BB03 (WHO)
PubChemCID: 155434
DrugBankDB00659 
ChemSpider136929 
UNIIN4K14YGM3J 
KEGGD07058  
ChEBICHEBI:51042 
ChEMBLCHEMBL1201293 
化学的データ
化学式C5H11NO4S
分子量181.211 g/mol
SMILES

[Ca+2].O=C(NCCCS(=O)(=O)[O-])C.[O-]S(=O)(=O)CCCNC(=O)C

InChI

InChI=1S/2C5H11NO4S.Ca/c2*1-5(7)6-3-2-4-11(8,9)10;/h2*2-4H2,1H3,(H,6,7)(H,8,9,10);/q;;+2/p-2 

Key:BUVGWDNTAWHSKI-UHFFFAOYSA-L 

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アカンプロサート(Acamprosate、N-アセチルホモタウリン)[2]は日本国内では2013年から日本新薬株式会社よりレグテクトの商標名で発売され、海外ではCampral、の商標名で販売されているアルコール依存症の治療薬である[3]。中枢神経系に作用して、飲酒欲求を抑える作用を持つ。

アカンプロサートは飲酒欲求を抑える薬であり、急性期の解毒薬ではない。アルコール依存症で乱された脳の化学的なバランスを安定化させる薬物であると考えられている。作用機序はグルタミン酸受容体の一種であるNMDA受容体を阻害し、GABA受容体の一種であるGABAA受容体を刺激することによる[4]。アカンプロサートは断酒会などの自助グループに参加し断酒を実行できて初めて効果を示すと報告されている[5][6]。WHOガイドラインではアルコール依存症の再発予防薬とされている[3]

重篤な副作用として下痢、アレルギー反応、不整脈、血圧の変化などが判明している。他の副作用としては頭痛、不眠、インポテンスが知られている[7]。アカンプロサートは、本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者、および高度の腎障害のある患者(排泄遅延により、高い血中濃度が持続するおそれがある)には投与してはならない[8]

アカンプロサートは日本ではアルコール依存症・断酒補助剤レグテクト錠の商標名で、日本新薬株式会社によって生産販売されている。アメリカ合衆国ではCampralの商標名でForest Laboratoriesによって生産販売されている。アメリカ以外ではMerck KGaAが販売している。アカンプロサートカルシウム塩として333mgを含有する白色無臭の錠剤として販売されており、一錠にはアカンプロサートとして300mg相当が含まれる[1]
薬理学的な作用アカンプロサートカルシウム
GABAA受容体に対する作用

エタノールは、GABAA受容体に結合して抑制性の神経伝達物質であるGABAの作用を増強することによって中枢神経系に作用する(つまり、エタノールはGABAA受容体に対して正のアロステリックモジュレーターとして働く)。 慢性的なアルコール依存状態では、GABAA受容体がダウンレギュレーションを受ける(つまり、GABA伝達系の抑制作用に対して感受性が低下した状態になる)ことが耐性獲得の機序の一つになっていると考えられている。アルコールを飲んでいない状態では、これらのダウンレギュレートされたGABAA受容体は通常の神経伝達で放出される濃度のGABAには反応しなくなり、通常起こるはずのGABAに対する反応が起きなくなる。この状態では通常のGABAの作用である、活動電位の発生を抑制する作用が発揮できなくなるため、交感神経の興奮がGABA性の神経伝達によって抑制されなくなってしまう。アカンプロサートの作用として考えられていることの少なくとも一部はGABA受容体に対してアゴニストとして働くことによるものと考えられている。
NMDA型グルタミン酸受容体に対する作用

エタノールの中枢神経系に対する他の作用として、NMDA受容体の抑制作用が挙げられる。慢性的にアルコールを乱用するとNMDA受容体が過剰に作られ(アップレギュレーション)てしまう。このため、突然断酒すると正常脳より過多となっているNMDA受容体の活性化が起こることで、振戦譫妄(しんせんせんもう)や興奮性神経細胞死などを起こす原因となっていると考えられている[9]。アルコールの離脱がグルタミン酸のような興奮性神経伝達物質の放出を急激に高め、結果としてNMDA受容体を活性化することになる[10]。アカンプロサートはこのグルタミン酸の急激な上昇を抑制する[11]in vitroの実験系の結果ではあるが、アカンプロサートはエタノール離脱によって引き起こされる神経細胞死からも神経細胞を保護する効果を示す[12]。エタノール離脱と組み合わせたグルタミン酸の神経毒性に対しても保護効果を示した[13]

Cedars-Sinai Medical Centerにある、脳研究所から発表されたある研究によれば、アカンプロサートにはヒトでニコチン依存の治療を行う際にも有用性がありそうだと思われる[14]
神経保護作用の可能性

患者達が断酒を継続するのを助ける明らかな効果に加えて、アカンプロサートには神経保護作用があるらしいと報告されている(つまり、アカンプロサートはアルコール離脱またはその他の侵害刺激によって引き起こされる神経細胞障害と神経細胞死とから神経細胞を保護する作用を持つ)[2][11]例えば、培養神経細胞を用いた研究からアカンプロサートは虚血(血流が不足する病的な状態)によって引き起こされる障害から神経細胞を保護する作用を持つことが報告されている[15]。また別の研究では、アカンプロサートは、イボテン酸(グルタミン酸受容体を有害なレベルまで過剰興奮させる興奮毒性を持つ毒物)の注入によって実験的に引き起こされる脳障害からハムスターの乳児を保護する作用を示した[16]

ブラジルで行われたある研究によれば、アカンプロサートは耳鳴(聴力喪失後の長期間持続する耳鳴)の治療に効果を持つ可能性がある[17]
承認

米国のFDAは2004年7月に本剤を認可したが、ヨーロッパでは1989年以来合法的に用いられてきた。認可の後、FDAは次のような声明を発表した。

Campralの作用機序は完全には理解されていないが、Campralはアルコール乱用に関係する脳の経路に作用すると考えられている。Campral は、既に断酒に成功した者を含むアルコール依存症の患者も対象とした複数のプラセボ対照臨床試験の結果安全かつ効果的であると証明されている。Campralはプラセボと比較して断酒期間を維持する効果が優れており、治療期間全体に渡り断酒できた患者の割合がアカンプロサート-治療群で高かったことでもその効果が示されていた。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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