アイリッシュマン
The Irishman
監督マーティン・スコセッシ
脚本スティーヴン・ザイリアン
原作チャールズ・ブラント
『アイリッシュマン』(原題:The Irishman)は2019年に公開されたアメリカ合衆国の伝記映画。監督はマーティン・スコセッシ、主演はロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ。本作はチャールズ・ブラントが2004年に発表した同名のノンフィクション作品を原作としている。
2019年11月1日にアメリカ合衆国内で限定的に劇場公開されたのち、2019年11月27日にNetflixで配信された[5]。 物語は、今は老人ホームで過ごす車椅子の老人フランク・シーランが、マフィアのヒットマンとして自身が関わっていた1950年代から80年代のアメリカの裏社会について、1975年の出来事を度々挿入しながら回想するという形で進む。 1950年代、第二次世界大戦をイタリア戦線で過ごし、復員したシーランはフィラデルフィアにて食肉配達のトラック運転手として生計を立てていた[注 1]。ある日、シーランは地元マフィアに積荷の横流しを行う。すぐに発覚し、会社から訴えられてしまうが卸し先や共犯者の名は決して明かさず、組合の弁護士ビル・バファリーノ
あらすじ
一方、プライベートにおいてシーランは妻メアリーと離婚し、ラッセルの紹介で知り合った若いアイリーンと再婚する。先妻と合わせ4人の娘に恵まれ、ラッセルとも家族ぐるみの付き合いをするシーランであったが、娘であるペギーは何故かラッセルに懐かず、父シーランに対しても何でも過剰な暴力で解決しようとすることから恐れを抱き、心を閉ざすようになっていた。
ある日、シーランはラッセルから当時誰も知らぬ者はおらず、大統領に次ぐ権力者と評されたIBTの委員長ジミー・ホッファを紹介される。ライバル組合の対処などに苦慮していたホッファは、手際よく問題を「解決」するシーランを気に入り、シーランは彼のチーフ・ボディガードとして重用される。さらにシーランとホッファは家族ぐるみの付き合いを始め、ペギーはホッファにかなり懐く。
1960年、ジョン・F・ケネディが大統領となる。ホッファは予てよりリチャード・ニクソンを支持していたことで、ケネディ政権から睨まれてしまう。一方、ラッセルらマフィア達はキューバ革命で失った同地の利権を回復するため、ケネディを応援していた(しかし史実の通りケネディの対キューバ政策はすべて失敗する。またその後マフィア対策を始める)。ホッファは連日、司法長官ロバート・ケネディから巨額年金の行方やマフィアとの繋がりについて激しい追及を受ける。ケネディが暗殺されても追及の手は緩むことはなく、最終的に1967年に刑務所に収監されてしまう。しかし、ホッファは前もって側近のフィッツシモンズを次期委員長に仕立て権力維持を狙っていた。
凡庸なフィッツシモンズはマフィアの言いなりになり、彼らに無利子の融資を始めるなどかなりの額の年金を使い込み始める。しかし、それゆえにマフィア達から気に入られ、ホッファの影響力が減退していく。また、恐喝罪で同じく収監されてきた組合の政敵トニー・プロの頼みを無碍に断ったことで2人の関係は完全に破綻する。
1971年、ニクソン政権の恩赦で出所したホッファは、組合の委員長に復帰しようとするが、心変わりし、マフィア達の支持も得ていたフィッツシモンズに拒否される。トニー・プロの支持も得ようとしたがプライドが邪魔をし、会談は決裂する。委員長に復帰するためなりふり構わないホッファは、フィッツシモンズとマフィアの癒着を持ち出して彼を批判し始め、ニューヨーク五大ファミリーのジェノヴェーゼ・ファミリーのボスであるトニー・サレルノから危惧され始める。ラッセルは旧友のホッファを守るためサレルノを宥め、ホッファを諭そうするが失敗に終わり、シーランもまた親友であるホッファを守るため、説得しようとするがすべて無駄に終わる。むしろ、ホッファは搦め手を使ってマフィアへの融資を強制的に停止させた上に、 裏社会との癒着の証拠やマフィアの事業への融資の強制回収などをほのめかし、マフィアらを逆に脅迫し始める。
1975年、ビルの娘の結婚式に出るため、ラッセルとシーランはそれぞれの妻を連れ車で数日かけて長距離を移動している。結婚式がホッファとマフィアらの最後の交渉の場であったが、移動中のシーランに対し、デトロイトにいるホッファは出席しない旨を伝える。ラッセルは焦るシーランに、ホッファの粛清と、その実行犯にシーランが決まったことを伝える。絶望するシーランは飛行機でデトロイトに向かい、ギャングのサリーやホッファの養子チャッキーと合流して、トニー・プロと会う予定であったホッファに会う。ホッファはシーランがいれば大丈夫だと安心し、2人は会談場所として指定された家の中に入る。シーランはホッファの後頭部に2発銃弾を撃ち込み、すぐに飛行機で戻る。そしてラッセルと予定通り結婚式に出席する。シーランは、ホッファの遺体は火葬され、隠滅されたと聞いたと回想する。
その後、行方不明となったホッファを巡ってシーランも関係者として事情聴取を受けるが黙秘を通す。しかし、ペギーには勘付かれており、以降、彼女はシーランを拒絶し、一口も言葉をかわさなくなる。やがてシーランやラッセル、またサレルノは、それぞれ別件の容疑で逮捕され同じ刑務所に収監される。晩年のラッセルは教会で神に祈るようになっており、それを疑問に思ったシーランに対し、ラッセルはそのうちわかると答え、間もなく亡くなる。
出所したシーランはすぐに妻に先立たれ、娘たちは寄り付かず孤独な生活を送る。特にシーランはペギーに対し、どうにかして会話して謝罪したいと願うがまったくできなかった。老人ホームに入ったシーランは、カトリックの司祭と交流し始め、最後に自室で罪を告解し、司祭は赦しを与える。司祭が部屋から出ようとするとシーランはホッファの習慣であったドアを少し開けておくことをお願いする。
登場人物・キャスト
主要人物
フランク・シーラン
演 - ロバート・デ・ニーロ、日本語吹替 - 沢木郁也ペンシルバニア州生まれのアイルランド系アメリカ人。通称アイリッシュマン(The Irishman)。第2次世界大戦をイタリア戦線にて過ごし、戦後に食肉配達のトラック運転手となる。とある縁で知り合ったバファリーノから、マフィアに積荷を横流しした件で助けられる。以降、彼の仕事を請け負うようになり、ある一件から暗殺も担うようになる。イタリア系でなければ信頼されないマフィア社会において、アイルランド系だがバファリーノから高く信頼される。また、彼から紹介されたホッファの右腕としても活動を始める。
ジミー・ホッファ
演 - アル・パチーノ、日本語吹替 - 山路和弘全米トラック運転手組合の委員長。作中の現代においてはその限りでないものの50-60年代のアメリカにおいて誰も知らぬ者はおらず、大統領に次ぐ権力者とまで評された人物。バファリーノから紹介されたシーランを重用して、暗殺も伴う対立者の妨害を行い、また彼を親友としても扱う。ケネディが大統領となると彼から目の敵にされ追い込まれていく。マフィア相手でも物怖じせず、10分以上遅刻する者を自分を軽視しているとして嫌う。また、自分のいる部屋の扉を少し開けておくという習慣がある。
ラッセル・バファリーノ
演 - ジョー・ペシ、日本語吹替 - 樋浦勉ペンシルベニア北東部のマフィアであるバファリーノ・ファミリーのボス。およそ裏社会の大物には見えない腰の低い紳士然とした人物。とある縁で知り合ったシーランを気に入り、目をかけるようになる。多様な人脈を持ち、ホッファとも旧知の仲で彼にシーランを紹介する。