アイシング_(治療)
[Wikipedia|▼Menu]

アイシングとは、や水などを用いて身体を局所的に冷却することを指す。アイシングは負傷・疾病に対する応急処置(RICEと呼ばれる、負傷時に行うべき4つの応急処置法の一つである)、運動時の負傷の防止や筋肉痛・疲労蓄積の軽減、止血などを目的として行われる。さらに運動時に筋肉の温度を運動に適した程度に保たせたり、適度な運動や温熱療法と組み合わせることで治療効果を得ることもできる(#クライオキネティックス#温熱療法との併用(コントラスト)を参照)。
生理的効果

アイシングの持つ生理的効果には以下のものがある。
血管を収縮させる
アイシングにより
血管は収縮し、冷却部周辺に流れる血液の量は減少する。そのことにより、患部から出血している場合の出血量を減少させることができる[1]
毛細血管の透過性と細胞の新陳代謝を減少・低下させ、内出血時の二次的低酸素障害の発生を防止する
細胞は血液を介して活動に必要な栄養・酸素を得ている。しかし 内出血を起こすと、損傷した細胞膜や毛細血管から流出した細胞液・血液が細胞内にたまって周囲の毛細血管を圧迫して血液の流れを阻害し、周辺の細胞組織への栄養・酸素の供給が断たれてしまう。周辺の細胞組織への栄養・酸素の供給が断たれる状態が続くとそれら細胞は死滅してしまう。これを二次的低酸素障害というが、アイシングは二次的低酸素障害の発生を防止する効果を持つ。アイシングをした箇所は局所的に毛細血管の透過性(細胞の内部で体液・細胞を通過させ、運ぶ働き)が減少する。それにより損傷した血管から流出する細胞液・血液の量が減少する。さらにアイシングをした箇所は局所的に細胞の新陳代謝のレベルが低下し、少ない酸素や栄養素で細胞が活動できる環境を作り出すことができる。それにより患部に流入し、損傷した細胞膜や毛細血管から流出する細胞液や血液の量を減少させることができる。このようにアイシングをすることで、内出血の際に流出した細胞液・血液が細胞内にたまることによって引き起こされる二次的低酸素障害を防止することができるのである[2][3]
痛感神経をマヒさせ、筋スパズムを軽減させる
アイシングには痛感神経をマヒさせ、患部に痛みがある場合の脳への痛みの伝達を弱めることができる。このことは、筋スパズムを軽減させることに繋がる。筋スパズムとは、特定の筋肉関節を痛めた際に患部から脳に痛みが伝わり、それを受けて脳から周辺組織に対して筋肉を硬直させるよう命令が出されることをいう。筋スパズムが起こると痛みが増し、そのことがさらなる筋スパズムを引き起こすという悪循環が生じる。アイシングによって痛感神経がマヒすると脳への痛みの伝達が弱まり、その結果筋スパズムの程度が軽減する[4][5]
アイシングの方法コールドパック

アイシングには氷、コールドパック(保冷剤が入った袋。)、冷湿布、コールドスプレーなどが用いられる。それらが手元にない場合には流水にさらすという方法もある。

このうち、患部の表面だけでなく深部まで冷却するという目的を達成するために最も優れているのは氷である。とりわけ摂氏0℃の氷は、質量あたりの冷却能力(周囲から熱を奪う能力)の高さ、すなわち冷却効率という点において最も優れている。これは摂氏0℃の氷1gが摂氏0℃の水になる際に要するエネルギー(融解熱)が摂氏0℃以下の氷1gの温度を1℃上昇させるのに必要なエネルギーよりもはるかに高いことによる(温度の上昇に要するエネルギーの大きさは周囲から熱を奪う能力の高さを意味する)[† 1](一般には温度の低い氷のほうが質量あたりの冷却能力が高いと誤解されがちである)[6]。氷を用いる場合は、氷嚢に氷を入れる方法、ビニール袋の中に氷を入れてから空気を抜いてアイスバッグ(アイスパックともいう)を作る方法、バケツの中に氷と水を入れる方法がある[7]。氷嚢やアイスバッグを作るのに十分な量の氷がない場合は、氷を直接患部に当てて動かす方法(アイスマッサージ)もある。アイスマッサージはアイスバッグを当てにくい場所のアイシングや局所的なアイシングに適しており、氷を動かすため凍傷を起こしにくいという利点がある[8]。氷嚢やアイスバッグを固定させたい場合には包帯や専用のサポーターを使用する。

コールドスプレーは氷よりもアイシング効果は低いが、一時的に痛みを緩和させるのに役立つ。コールドパックも冷却能力は氷より劣る[9][10]。一般に冷湿布は皮膚の表面温度を約2℃下げる効果を持ち(深部を冷却する能力には欠ける)、効果は2-4時間持続する[9][11]
活用
場面に応じた活用
負傷・疾病に対するアイシング

身体を負傷した場合、炎症を抑え痛みを軽減させるための応急処置としてアイシングが行われる。また歯痛や風邪の初期症状としての喉の痛みといった疾病に対する処置としても行われる。これらはあくまでも医師による診断及び治療が行われるまでの応急処置である[12][13]
スポーツにおけるアイシング

スポーツにおいては負傷に対する応急処置以外にも、運動後の疲労蓄積・筋肉痛を軽減させ、前述の二次的低酸素障害を防止する目的で行われる。アイシングは前述のように、冷却した部位の細胞の新陳代謝レベルを低下させる。運動後は筋肉の温度が上昇することでエネルギー消費が大きくなっており、そのことが疲労の蓄積に繋がる。したがってアイシングを行うことでエネルギー消費を抑え、疲労の蓄積を抑えることが可能になる。また筋肉が損傷し痛みを覚える場合には痛感神経をマヒさせることで筋肉痛を和らげ、筋スパズムを軽減させることが可能となる。さらに筋肉が微細な損傷を負ったことによる炎症を抑え、損傷が周囲に拡大すること(二次的低酸素障害)を防止することができる[14]

スポーツ選手にとってフィジカルトレーニングや競技の後のアイシングは常識であるとされる[15]。またスポーツ選手は身体に慢性的な痛みや故障を抱えていることが多いため、痛みの緩和や故障の悪化の防止のためにも行われる[16][17][18]

さらにスポーツの分野では、パフォーマンスを向上させる目的でアイシングを行うことがある。筋肉にはパフォーマンスを発揮するのに適した温度があるが、競技中は筋肉の温度が過度に上昇する。そこで身体に水をかけることで過度に上昇した筋肉の温度を下げ、パフォーマンスが発揮しやすい状況を作り出す。多くのマラソン選手は競技中に給水所で受け取った水を腕や足にかけている。サッカーにおいても、夏期の試合では同様の目的で足に水をかける選手が多い。[19]

ウォーミングアップの前にアイシングを行うと、2つの効果を得ることができる。1つは冷却した部位の血流量を消費エネルギーを抑えつつ短時間で増加させ、筋肉の温度(筋温)を運動に適した温度に高めることである。ある部位を局所的に冷却すると、その部位の温度を元に戻そうとする作用が働く。それに合わせて運動を行いさらに血流量の増加を促すことで短時間で血流量を増加させ、筋温を高めるために消費するエネルギーの量を節約することができるのである[20]。2つめの効果は、特定の部位に痛みを抱えている場合に、筋スパズムが発生することを防止することでパフォーマンスの低下を抑える効果である[21]
リハビリテーションにおけるアイシング

アイシングは、リハビリテーションの場面でも活用される。手術後は傷口が痛むため、そのままでは術後の数日間はリハビリテーションを行うことができず、さらに筋スパズムの発生により身体を動かすことが困難になる。これに対し専用の装置を用いてアイシングを行いながら他動運動(機械の動きに身を任せて身体を動かすこと)を行うことで、手術の直後からリハビリテーションを行うことが可能となる[5]
症状に応じた活用
スポーツ時に多い症状に対して
熱中症
軽度の場合、運動を中断して後頭部をアイシングする。同時に水分補給を行う。中度の場合、涼しい場所へ移動させて楽な姿勢で安静にさせ、太い血管のある部位(首、脇の下、太ももの付け根)をアイシングする[22][23]
脱臼
患部全体をアイシングする。目的は痛みの緩和と、脱臼を起こした部位の周辺の筋肉が筋スパズムを起こし、骨を元の位置に戻すことが困難になることを防止することである[5]。アイシング開始後はなるべく患部を動かさないようにして直ちに病院へ行くことが望ましい[24]
突き指
突き指した指と手全体を覆うようにアイスバッグで冷やす。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:57 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef