アイゲウス (古希: Α?γε??, Aigeus, ラテン語: Aegius) は、ギリシア神話の登場人物。アテーナイの王[1]。パンディーオーンの息子[1]。トロイゼーン王ピッテウスの娘アイトラーとの間に英雄テーセウスをもうけた。テーセウスの父はポセイドーンともいわれる[2]。
神話ローラン・ド・ラ・イールの1635-1636年頃の絵画『岩を持ち上げるテーセウス』。ブダペスト国立西洋美術館所蔵。
アイゲウスは最初の妻メーター、二人目の妻カルキオペーのいずれとの間にも子供に恵まれなかったため、デルポイの神託所でその理由を問うた[3]。しかし、その神託の意図を理解できないまま、彼はアテーナイへの帰路についた[4][3]。
帰途で立ち寄ったトロイゼーンで王のピッテウスにこのことを相談すると、ピッテウスは神託の意味を直ちに理解し[4][5]、彼に酒を振舞って酔わせたうえで、娘のアイトラーを彼の寝所に送り込んだ[4][5]。この時、彼女はテーセウスを身籠った。テーセウスはポセイドーンの子であるとの伝承もあり、その場合は犠牲を捧げるために訪れたヒエラ、またはスパイリアにてポセイドーンと交わり、同じ日にアイゲウスとも交わったとされる[6]。このポセイドーンの神話は、娘の名誉を守るためにピッテウスが作ったのだとされることもある[6]。また、この神話において、アイゲウスをポセイドーンの分身とする見方もある[7]。
アイトラーの懐妊を知ったアイゲウスは、岩の下に剣とサンダルを隠し、「生まれた子が男の子であった場合、父親の名を教えてはならない。この岩を動かせるほどその子が強くなった時に父の名を教え、この剣とサンダルとを持たせてアテーナイへ送り出すように」と言い残してトロイゼーンを去った[4][5]。アイゲウスがアテーナイに帰って後、アイトラーはトロイゼーンに留まり、テーセウスを育てた。アイゲウスは彼の甥に当たる、パラースの息子たちを恐れて、テーセウスをアテーナイに呼ぼうとしなかったので、テーセウスはトロイゼーンに居住していた。
後にテーセウスが父である彼に会いにトロイゼーンから徒歩ではるばる来た際[8]、アイゲウスは、コリントスから逃れてきたメーデイアと結婚していた[7][9]。メーデイアはテーセウスが自分に不利益を与える人間だと見抜き、アイゲウスに対して「彼はアテーナイの王位を狙う不届きものである」と讒訴した[10]。彼はテーセウスを息子とは知らずに恐れ、マラトーンにイノシシ狩りに行かせたが、テーセウスはイノシシを殺し無事に帰還した[9][10]。メーデイアはアイゲウスをそそのかして、酒に毒を混入させ、帰ってきたテーセウスに飲ませようとした[10]。まさにその時、テーセウスは彼の息子である証拠の、トロイゼーンの岩の下に隠しておいた剣を彼に贈った[9]。これを見るやアイゲウスは毒薬をその手から叩き落とし[10]、メーデイアを追放した[9][注 1]。