わが青春に悔なし
監督黒澤明
脚本久板栄二郎
製作松崎啓次
出演者原節子
藤田進
大河内傳次郎
音楽服部正
撮影中井朝一
編集後藤敏男
『わが青春に悔なし』(わがせいしゅんにくいなし)は、1946年に公開された日本のドラマ映画である。監督は黒澤明、主演は原節子。モノクロ、スタンダードサイズ、110分。GHQ占領下に民間情報教育局が民主主義啓蒙を目的に推奨したアイデア映画の一つである[1]。京大事件の滝川幸辰とゾルゲ事件の尾崎秀実を題材とし、ファシズムの時代に弾圧された教授と学生たちの師弟関係と、そんな時代に自我に目覚める女性の姿を描く[2]。
ストーリー大河内傳次郎、原節子、藤田進杉村春子、原節子
日本が戦争へと歯車が狂い始めていた1933年(昭和8年)、京大教授の八木原夫妻とその娘・幸枝、父の教え子である糸川と野毛ら7人の前途有望な学生達は、吉田山でピクニックを楽しんでいた。全てに慎重で常識と立場を重んじる糸川と、正しいと信じた事は立場に関係なく主張する野毛の二人は幸枝に好意を持っていた。幸枝も好対照な二人それぞれに惹かれていた。しかし、大学では京大事件が発生し、自由主義者の八木原教授は罷免されてしまう。やがて大学を追われた八木原は弁護士、糸川は検事になり、野毛は左翼運動に身を投じていた。野毛に強く惹かれていた幸枝は上京して自活の道を選び、野毛の後を追った。1941年(昭和16年)、幸枝は野毛と結婚する。だが、野毛は戦争妨害を指揮したとして逮捕され、獄死してしまう。
キャスト
八木原幸枝:原節子
野毛隆吉:藤田進
八木原教授:大河内傳次郎
野毛の母:杉村春子(文学座)
八木原夫人:三好栄子
糸川:河野秋武
野毛の父:高堂国典
毒いちご:志村喬
文部大臣:深見泰三
筥崎教授:清水将夫
学生:田中春男
刑事:光一、岬洋二
糸川の母:原緋紗子
検事:武村新
小使:河崎堅男
老婆:藤間房子
令嬢:谷間小百合、河野糸子、中北千枝子
学生:千葉一郎、米倉勇、高木昇、佐野宏
講堂の学生の一人:荻昌弘(ノンクレジット)[3]
スタッフ
監督:黒澤明
脚本:久板栄二郎
製作:松崎啓次
撮影:中井朝一
美術:北川恵司
録音:鈴木勇
音楽:服部正
演出補佐:堀川弘通
照明:石井長四郎
音響効果:三縄一郎
編集:後藤敏男
製作責任:竹井諒
現像:東宝フィルムラボラトリー
製作撮影現場。主演の原節子
本作はプロデューサーの松崎啓次が企画を発案し、久板栄二郎が黒澤明とともに約20日間かけて第1稿を執筆した[4]。1946年4月、東宝撮影所では第1次東宝争議が終結し、それにより東宝従業員組合は企画審議会を設置し、映画製作に強い権限を持つようになった[5]。本作の第1稿も企画審議会に提出されたが、楠田清監督の『命ある限り』と題材が類似しているとして変更を余儀なくされた[5]。黒澤は2つの脚本からはまったく異なる作品が生まれると審議会で述べたが、受け入れられることはなかった[6]。『命ある限り』は組合幹部の山形雄策が脚本を書いていたため、この審議会の結論は初めから決定していた[5]。