ばね
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最も広く使用されている種類のばねである圧縮コイルばね

ばねとは、が加わると変形して力を取り除くと元に戻るという、物体の弾性という性質を利用する機械要素である[1]。広義には、弾性の利用を主な目的とするものの総称ともいえる[2]。英語名は spring で、日本語でもスプリングという名でよく呼ばれる[3]。発条(はつじょう)ともいう[4]。ばねの形状や材質は様々で、日用品から車両、電気電子機器、構造物に至るまで、非常に多岐にわたって使用される。

ばねの種類の中ではコイルばねがよく知られ、特に圧縮コイルばねが広く用いられている。他には、板ばね渦巻ばねトーションバー皿ばねなどがある。ばねの材料には金属、特に鉄鋼が広く用いられているが、用途に応じてゴムプラスチックセラミックスといった非金属材料も用いられている。空気を復元力を生み出す材料とする空気ばねなどもある。ばねの荷重とたわみの関係も、荷重とたわみが比例する線形のものから、比例しない非線形のものまで存在する。ばねばかりのように荷重を変形量で示させたり、自動車の懸架装置のように振動衝撃を緩和したり、ぜんまい仕掛けのおもちゃのように弾性エネルギーの貯蔵と放出を行わせたりなど、色々な用途のためにばねが用いられる。

人類におけるばねの使用の歴史は太古に遡り、原始時代から利用されてきたはばねそのものである。カタパルトクロスボウ機械式時計馬車懸架装置といった様々な機械や器具で利用され、ばねは発展を遂げていった。1678年にはイギリスのロバート・フックが、ばねにおいて非常に重要な物理法則となるフックの法則を発表した。産業革命後には、他の工業と同じくばねも大きな発展を遂げ、理論的な設計手法も確立していった。今日では、ばねの製造は機械化された大量生産が主だが、一方で特殊なばねに対しては手作業による製造も行われる。現在のばねへの要求は多様化し、その実現に高度な技術も求められるようになっている。
定義と特性

物体には弾性と呼ばれる、が加わって変形しても元に戻ろうとする性質がある[5]。ばねの広い意味での定義は、この弾性という性質の利用を主な目的とするものの総称といえる[2]。ばねが持っている、あるいはばねに求められる特性としては、大きく分けて

復元力を持つ

エネルギーの蓄積と放出ができる

固有の振動数を持つ

という3つの特性が挙げられ、これらは「ばねの3大特性」とも呼ばれる[6]。ばねと呼ばれる部品や物以外にもこれら3つの特性は備わっているが、これらの特性を特に上手く利用しているのがばねともいえる[7]。他にもばねの基本的な性質や働きの分け方はあるが[注釈 1]、ここではこの3つの大別に沿って、ばねの基本的特性について説明する。
復元力弾性変形(上)と塑性変形(下)の例

ばねは、力を加えられると変形し、力を取り除くと元の形に戻るという性質を持っている[7]。このように力が加わって変形しても元に戻ろうとする性質を持つことが、ばねの基本的性質であり、必要条件である[8]。元の形に戻ろうとする力は「復元力」と呼ばれ、復元力の存在がばねの主要な特性の1つ目に挙げられる[9]

復元力は物質の「弾性」という性質に起因し、力を取り除くと元の形に戻る変形は「弾性変形」と呼ばれる[10]。しかし、力(正確には応力)が材料の限界を超えて加わると、力を除いても変形(正確にはひずみ)が残るようになる[11]。この性質は「塑性」と呼ばれ、塑性という性質によって元に戻らない変形のことを「塑性変形」と呼ぶ[12]。変形が弾性変形に留まる最大の応力は「弾性限度」と呼ばれる[13]。ばねは元に戻ることを前提として使われるものであるため、塑性変形が起こることは好ましくなく、一般にばねに加わる力が弾性限度を超えない範囲で使用される[14]

ばねの変形のことや変形量のことを「たわみ」と呼ぶ[15]。たわみの物理単位には、変位(長さの変化)と回転角(ねじり角や曲げ角の変化)の2種類がある[16]。長さが変化することを利用する圧縮コイルばねでは、たわみの単位は変位で表される[17]。棒のねじり角度が変化することを利用するトーションバーでは、たわみの単位は回転角(ねじり角)である[16]。たわみの物理量に対応して、たわみを起こす負荷にもいくつかの種類が考えられる。変位であれば荷重(純粋な)であり、ねじり角であればねじりモーメントが考えられる[18]。実際のばねでは、変位や回転変形が組み合わさった複雑なたわみを起こすものもある[19]線形特性ばねでは、たわみは荷重に比例する。荷重-たわみ線図の例。青の左の線が線形特性、緑の右の曲線が非線形特性、黄色の真ん中の曲線がヒステリシス有りの非線形特性を示している。

このような荷重とたわみがある一定関係を持っていることが、ばねが持つ基本的性質や機能の一つともいえる[5]。ばねが示す荷重とたわみの関係のことを「ばね特性」「荷重-たわみ特性」「荷重特性」などと呼ぶ[20]。最もよく利用されるばねのばね特性は、線形であることが多い。線形とはたわみが荷重に比例して増減するということで、ばねに 10 kg重りを吊るすとばねが 1 cm 伸び、20 kg の重りを吊るすと 2 cm 伸びるという具合である[21]。この関係は「フックの法則」としても知られる[22]。線形特性であるばねでは荷重とたわみの関係は以下のような式で表される。 P = k δ {\displaystyle P=k\delta }

ここで、P が荷重(力)で、δ がたわみ(変位)である。k は P と δ の比例定数で「ばね定数」と呼ばれ、単位は[力]/[長さ]である[23]。例えば 10 kgf/cm というばね定数は、たわみ 1 cm を起こすのに 10 kg の重りを吊るす必要があるという意味である[21]。実際の製品でいえば、大型自動車や鉄道車両の懸架装置用ばねでは大きなばね定数が必要となり、それと比較してベッドソファーのばねでは小さなばね定数が必要となる[24]

負荷がねじりモーメント T で、たわみがねじり角 θ のときは、 T = k θ {\displaystyle T=k\theta }

という式になる。この場合の k の単位は[モーメント]/[角度]であり、k を「回転ばね定数」などと呼んで通常のばね定数と区別する場合もある[25]

荷重とたわみが比例しないばねも存在し、そのような関係を非線形と呼ぶ[26]。非線形特性のばねでは、例えば、ばねに 10 kg の重りを吊るすと 1 cm 伸びるが、20 kg の重りを吊るしても 1.2 cm しか伸びないという具合である[27]。さらに、荷重を加えるときと取り除くときで荷重とたわみの関係が異なり、荷重-たわみ曲線がヒステリシスループを描くばねもある[28]皿ばね圧縮コイルばねの内の特殊なものが、非線形特性のばねの例として挙げられる[26]
エネルギーの蓄積と放出はばねの一種であり、弾性エネルギーを利用してを放つ

ばねが変形するとき、弾性エネルギーという形でエネルギーがばねに蓄えられる[29]。蓄えられたエネルギーを放出させれば、ばねに機械的な仕事をさせることができる[30]。この「エネルギーの蓄積と放出」という働きが、ばねの主要な特性の2つ目として挙げられる[31]。例えば、によってを放つのは、このエネルギーの蓄積と放出を利用している[32]。手で弦を引くことで弾性エネルギーを蓄え、手を放すことで弾性エネルギーを矢を飛ばす力に変える[32]。ぜんまい時計では、ぜんまいに蓄えられたエネルギーを放出させながら時計が動いている[33]。弓と比較すると、ぜんまい時計の場合は弾性エネルギーを徐々に放出させながら利用している[32]。自動車の懸架装置用ばねの場合は、路面から伝わる衝撃をばねが受け、衝撃力をばねの弾性エネルギーに変化させて緩衝している[34]線形特性ばねの弾性エネルギー。下図が荷重-たわみ線図で、水色塗り部分の三角形面積 U が弾性エネルギーに相当する。

ばねに蓄えられる弾性エネルギーは、その弾性変形を起こす荷重によってなされた仕事に等しい[35]。荷重-たわみ線図では、曲線と横軸で囲まれた面積が弾性エネルギーに相当する[28]。線形特性に限定せずに、荷重 P がたわみ δ の一般的な関数であるときは、 P(δ) を積分して、弾性エネルギー U は以下のようになる[28]。 U = ∫ P ( δ ) d δ {\displaystyle U=\int P(\delta )d\delta }

線形特性のばねであれば、囲まれる面積は三角形となるので U = P δ 2 = k δ 2 2 = P 2 2 k {\displaystyle U={\frac {P\delta }{2}}={\frac {k\delta ^{2}}{2}}={\frac {P^{2}}{2k}}}

が弾性エネルギーである[36]。ばねが受ける荷重 P が同じなら、ばね定数 k が小さいほど吸収エネルギー U が大きくできる[37]。鉄道車両の連結器や緩衝装置のようにばねを衝突を緩和するために使用するときは、この吸収エネルギーが大きいほど有利となる[30]

荷重-たわみ曲線がヒステリシスループを描く非線形特性ばねの場合では、ループで囲まれる部分の面積分のエネルギーが摩擦などで消費される[38]。このヒステリシスによる弾性エネルギーの消費は減衰として働き、衝撃緩和の視点からは、ループで囲まれる面積が大きいほど有利となる[39]
固有の振動数ばねに吊られた重りが一定の振動数で揺れ続ける。この図中では、ばね定数が k、たわみが δ (t)(時刻 t の関数)、荷重(復元力)が P、重り質量が m、重力加速度が g で表されている。

先端に重りを付けたばねを天井に吊るし、重りを下に引っ張り、力を放す。すると重りは一定の振動数で上下に振動する[40]。この一定の振動数は「固有振動数」と呼ばれる[34]。この例のような、線形特性のばねと質点(重り)と基礎(天井)から成る1自由度のでは、固有振動数は f n = 1 2 π k m {\displaystyle f_{n}={\frac {1}{2\pi }}{\sqrt {\frac {k}{m}}}}

となる[41]。m は重りの質量、k はばね定数、π は円周率、fn が固有振動数である[41]。このような固有振動数を持つことが、ばねの主要な特性の3つ目である[42]。上の式では、k が大きくなるほど fn が大きくなり、k が小さくなるほど fn が小さくなる。


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