てんかん
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てんかん

てんかん患者の脳波。発作が起きた後は特徴的な脳波を示す。
概要
診療科神経学, てんかん学[*]
分類および外部参照情報
ICD-10G40-G41
ICD-9-CM345
DiseasesDB4366
MedlinePlus000694
eMedicineneuro/415
MeSHD004827
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「キリストの変容」(ラファエロ・サンティ画、1518年?20年バチカン美術館蔵)
右下の上半身裸の子供の絵は、てんかんの症状を表している[1][注 1][2][3]。この絵画は、聖書におけるてんかんの記述に基づいている[注 2]

てんかん(癲癇、Epilepsy)とは、脳内の細胞に発生する異常な神経活動(「てんかん放電」)によっててんかん発作をきたす神経疾患、あるいは症状[4]神経疾患としてはもっとも一般的なものである[4]

古くから存在が知られている疾患の一つで、ソクラテスユリウス・カエサル が発病した記録が残っている。全般発作時の激しい全身の痙攣から、医学的な知識がない時代には、狐憑きに代表される「憑き物」が憑依したと誤認され、「放っておくと舌を噛んで死ぬ」と思われていたり、周囲に混乱を起こすことがあったり、偏見や差別の対象となることもあった。

かつては「子供の病気」とされていた。しかし、近年の調査研究で、老若男女関係なく発症する見解も示され、80歳を過ぎてから発病した報告例もある。一方でエミール・クレペリンは、老年性てんかんに対しては別個のものとして扱っている。

予防や完治は不可能である。しかし、抗てんかん薬を用いることによって、制御可能である[4][5]。年間の医薬品コストはわずか5ドルにすぎない[4]。しかし、通院、入院、検査には費用がかかり、日本では医療費自己負担額軽減のための制度もある[6]。また、食餌療法によっても発作の軽減や抑制が可能な病気である。てんかんの人口10万あたり障害調整生命年(2004年) .mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  no data   <50   50-72.5   72.5-95   95-117.5   117.5-140   140-162.5   162.5-185   185-207.5   207.5-230   230?252.5   252.5-275   >275

一般人口における有病率は0.4?1.0%ほどで、有病者数は全世界で約5,000万人いると見られており[4][7]、患者のおよそ80%は発展途上国の国民である[4]。各国の疫学データでは、発症率は人口の1%前後、低中所得国での有病率は0.7?1.4%となっている[4]

イギリスが発表した資料によれば、年間で「10万人あたり50例」[8]とあり、傷病にかかる費用は「年間20億ポンド」と推定されている[8]
定義

世界保健機関が発表しているこの病気の定義は、『種種の病因によってもたらされる慢性の脳疾患であり、大脳ニューロンの過剰な放電から由来する反復性の発作(てんかん発作、seizure)を主徴とし、それに変異に富んだ臨床ならびに検査所見の表出が伴う』とされている。これは「大脳皮質の過剰な発射ではない」「反復性でない」「脳疾患ではない」「臨床症状が合わない」「検査所見が合わない」ものは「てんかん」から鑑別するべきだという意味が込められている。日本神経学会のてんかん治療ガイドライン2010では、『てんかんとは慢性の脳の病気で、大脳の神経細胞が過剰に興奮するために、脳の症状(発作)が反復性(2回以上)に起こるものである。発作は突然起こり、普通とは異なる身体症状や意識、運動および感覚の変化が生じる。明らかな痙攣があればてんかんの可能性は高い』と記載されている。

ニューロン(Neurons、脳内に無数にある神経細胞)が興奮することによる不随意運動は、てんかんではない。脊髄性ミオクローヌスや、下位ニューロン障害の線維束攣縮も、てんかんとは異なる。経過が慢性反復性でなければならないことから、薬物中毒の離脱期におこる痙攣はてんかんではない。これらの痙攣に関しては急性症候性発作で述べる。
てんかん発作およびてんかん症候群の分類

てんかんが上記定義された病名である。てんかんの一回ごとの発作をてんかん発作(Epileptic Seizure)という。てんかん発作は痙攣(Convulsion)であることが多い。これは全身または一部の筋肉の不随意かつ発作的収縮を示す症候名である。不随意運動のミオクローヌス、他の症候では、失神との鑑別が必要な症候である。ただ、「痙攣=てんかん」というわけではない。何らかの誘因がある発作、1回だけで反復のない孤立発作、急性の全身疾患や頭部外傷直後に関連して起こった急性症候性発作では、「てんかん」とは診断されない。誘因のある発作の代表例が「ラム発作」で、アルコール依存症の患者が風邪をひいて飲酒をやめると起こる。これらの発作は皮質機能が一過性に障害されたときに起こる正常脳の自然な反応として考えられている。何らかの誘因する原因や機会がないにもかかわらず、反復して2回以上起こったてんかん発作があって、初めて「てんかん」と診断する。

「てんかん症候群」(Epileptic Syndromes)という言葉は、毎回随伴して起こる徴候、症状の組み合わせや病因、誘因因子、発症年齢、重症度および慢性化傾向に特徴づけられる症候群である。脳波・臨床症候群(electroclinical syndrome)とも言われ、若年ミオクロニーてんかん、「West症候群」、「レノックス・ガストー症候群」(Lennox?Gastaut Syndrome)がある。

国際抗てんかん連盟(ILAE)より、1981年度のてんかん発作型分類と1989年度の「てんかん症候群国際分類」が発表されている。てんかん発作型分類は2006年度に改訂され、てんかんおよびてんかん症候群国際分類は、2010年度に改訂されたが新分類普及は遅れている。分類に関しては、 ⇒てんかん治療ガイドライン2010 の外部リンクを参照されたい。
1981年度ILAEてんかん発作型分類

この発作型分類は、発作症状と脳波所見の忠実な対比から成り立つ。この分類では、発作型および脳波変化が一側半球の部分に局在する「部分発作」(Partial Seizures, 近年は「焦点性発作」〈Focal Seizure〉)と臨床症状が最初から両側半球が巻き込まれたと考えられる「全般発作」(Generalized Sezures)に分類される。部分発作(焦点性発作)はさらに意識が障害されない単純部分発作と意識障害がある複雑部分発作、さらに部分発作から全般性強直間代発作に進展する二次性全般化の3種類に分類される。全般発作は最初から両側半球巻き込まれた症状のみられる発作であり、欠神発作、ミオクロニー発作、間代性発作、強直性発作、強直間代性発作、脱力発作に分けられる。
1989年度ILAEてんかん、てんかん症候群分類

1989年度のILAEのてんかん、てんかん症候群および関連発作性疾患の国際分類は1985年度の分類を改定したものである。発作分類が「現象の記載」であるのに対しててんかん、てんかん症候群分類は「概念の規定」であるという考え方で作成された。四分法分類を特徴としている。てんかん発作が部分発作である局在関連(部分、焦点)てんかん、最初から全般性発作をもつ「全般てんかん」に二分される。もう一つの二分法は、脳腫瘍の病因の明確なてんかんを症候性てんかん、遺伝素因が想定され年齢依存性がみられる以外に病因が見当たらないてんかんを特発性てんかんと区分している。特発性てんかんはおそらくチャネル病ではないかと考えられている。症候性と推定されるものの、現時点では病因が特定できないてんかんを潜因性と区別されることもあるが曖昧な概念であり、用いられない傾向がある。

四分法分類であるため特発性てんかんは全般性てんかんだけではなく部分てんかんもあり、症候性てんかんも部分てんかんと全般性てんかんがある。この4分類では症候性部分てんかん以外は原則的に年齢依存性に発病する。局在関連てんかん(部分てんかん)を示唆する徴候には病因となるような既往歴、前兆、発作起始時、発作中の局所性運動ないし感覚徴候、自動症がある。ただし欠神発作でも自動症が認められることがある。特発性全般てんかんでは25歳以上での発症は稀であり、ほかの神経症状は認められない。これを示唆する徴候は小児期(思春期前まで)の発症、断眠やアルコールでの誘発、起床直後強直間代発作あるいはミオクロニー発作、ほかに神経症候がない発作型である失神発作、脳波で光突発反応、全般性の3Hz棘徐波複合あるいは多棘徐波複合がある。症候性全般性てんかんを示唆する徴候は非常に早い発症、頻回の発作、発症前からの精神遅滞や神経症候、神経症状の進行や退行、広汎性の脳波異常、器質的脳形態異常がある。

局在関連てんかんと全般てんかんという分類はペンフィールドの1954年の著作にさかのぼることができる。ペンフィールドはてんかん発作分類を焦点性大脳発作、中心脳発作、大脳性発作に分類し、これらの発作が症状として起こる疾患をてんかんと定義した。中心脳系とはペンフィールドにより提唱された両側脳半球を対称性に結合し脳機能を統合する構築をいい、高位脳幹で視床中脳を含む構築とされ、現在の解釈では脳幹賦活網様体から視床に至るヒトの覚醒に関与する部位と考えられている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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