国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡
すばる望遠鏡(左)。右はケックI望遠鏡
運用組織国立天文台
設置場所アメリカ合衆国ハワイ州
座標.mw-parser-output .geo-default,.mw-parser-output .geo-dms,.mw-parser-output .geo-dec{display:inline}.mw-parser-output .geo-nondefault,.mw-parser-output .geo-multi-punct,.mw-parser-output .geo-inline-hidden{display:none}.mw-parser-output .longitude,.mw-parser-output .latitude{white-space:nowrap}北緯19度49分32秒 西経155度28分36秒 / 北緯19.82556度 西経155.47667度 / 19.82556; -155.47667
すばる望遠鏡(すばるぼうえんきょう、英: Subaru Telescope)は、アメリカ・ハワイ島のマウナ・ケア山山頂(標高4,205m)にある日本の国立天文台の大型光学赤外線望遠鏡である。 1999年1月ファーストライト(試験観測開始)。建設総額は400億円。システム設計・建設のほとんどは三菱電機が請け負った。国立天文台が建設準備を進めていた当初のプロジェクト名は「日本国設大型望遠鏡」(英語: Japan National Large Telescope, JNLT)だった。建設が始まった1991年に望遠鏡の愛称の公募が行われ「すばる」が選ばれた。 1999年、国立天文台「すばる」プロジェクトチームが第47回菊池寛賞を受賞。 主鏡
概要
2015年4月時点で世界最大の一枚鏡望遠鏡は、アメリカアリゾナ州にある大双眼望遠鏡で、8.4m鏡2枚の合成直径は11.8m。また分割鏡では、スペイン領ラ・パルマ島のロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台にあるカナリア大望遠鏡(有効直径10.4m)である。
すばる望遠鏡には高度な技術が多数使われている。大きな特徴の一つとしては、コンピュータで制御された261本のアクチュエータにより主鏡を裏面から支持することで、望遠鏡を傾けた時に生じる主鏡の歪みを精密に補正し、常に理想的な形に保たれている(能動光学)。また、天文台の建物そのものの形状を円筒形のドーム形状にすることで、特に内部からの放熱による乱流を防ぐ観点で、通常の半球形のドームより適している。
観測装置の物理的なセットアップ以外は、約30キロ離れたハワイ島最大の町ヒロにあるセンターで観測者が受ける形で天体観測が行われる[1]。
性能
方式:光学式リッチー・クレチアン式望遠鏡/ナスミス式望遠鏡
望遠鏡設置場所
緯度 北緯 19度49分43秒
経度 西経155度28分50秒
海抜 4,139m
架台
架台形式 経緯台式
望遠鏡本体
高さ:22.2m
最大幅:27.2m
重量:555t
主反射鏡
有効直径:8.2m
厚さ:20cm
重量:22.8t
素材:ULE(超低膨張ガラス)
平均表面研磨誤差:14nm
焦点距離:15m
焦点[注釈 1]
主焦点F値:2.0(収差補正光学系を含む)=焦点距離16,400mm
カセグレン焦点F値:12.2=焦点距離100,000mm
ナスミス焦点F値:12.6(望遠鏡本体の左右に2つ)=焦点距離103,320mm
すばる望遠鏡を納める円筒形ドーム
ドーム
望遠鏡連動円筒型エンクロージャ
高さ:43m
基本直径:40m
重量:2,000t
全体はアルミニウムパネルで覆われている。
観測装置
近赤外線分光撮像装置 IRCS(地元ハワイ大学との共同開発)
コロナグラフ撮像装置 CIAO
冷却中間赤外線分光撮像装置 COMICS
微光天体分光撮像装置 FOCAS
広視野主焦点カメラ Suprime-Cam[注釈 2]
超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム, HSC)[2][3]
高分散分光器 HDS
多天体近赤外分光撮像装置 MOIRCS 東北大学理学部天文学教室との共同開発
これらの観測装置によって可視光から赤外線領域をカバーする観測が可能な仕組みとなっている。撮像を目的にした装置と分光観測を目的とした装置を、観測対象に応じて4つある望遠鏡焦点のいずれかに取り付けることで、広い範囲の波長をカバーする[注釈 3]。なお、新しい観測装置は、各大学や国立天文台にて開発研究が進められている(国立天文台の項を参照)。[注釈 4]
「HDS:高分散分光器」、「IRCS:近赤外線分光撮像装置」及び「Suprime-Cam:広視野主焦点カメラ」が、国立天文台ハワイ観測所開設の最初の時期に設置した観測装置である。その後、岡山天体物理観測所等で行われた開発に基づき新たに開発された機器「COMICS:冷却中間赤外線分光装置」や「FOCAS:微光天体分光撮像装置」を設置し観測に利用している。また、太陽系外惑星発見などを目指して開発された「CIAO:コロナグラフ撮像装置」によって、「連星系」や「太陽系外惑星系」の観測が行われる。また、大規模光学系を有効に活用するために、東北大学のチームが中心となって開発した「MOIRCS:多天体近赤外分光撮像装置」が設置されて現在にいたる。
2012年8月には、「Suprime-Cam:広視野主焦点カメラ」に代わって新開発の「超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム)」が設置され、2013年7月にファイストライト画像が公開された。Suprime-Camでは、アンドロメダ銀河の一部(満月よりやや広い視野)を撮影できていたが、Hyper Suprime-Camは、満月9個分の広さの天域を一度に撮影できる世界最高性能の超広視野カメラとなった。独自に開発した 116 個の CCD 素子を配置し、計8億7000万画素を持つ巨大なデジタルカメラの持つ広い視野により、すばる望遠鏡はアンドロメダ銀河のほぼ全体を1視野で捉えることに成功した[4]。
観測機器のアップデートに関しては、太陽系外惑星をピンポイントで観測するために、コロナグラフフィルターの精度とともに、補正光学系を改良した「HiCIAO」 が開発され、2009年より利用されている[5]。
観測補助装置としては、浜松ホトニクスの開発した波面センサーによる補償光学装置や理化学研究所にて開発されたレーザーガイド星装置などがあり、高分解能かつ高精度(レイリー限界やドーズ限界に限りなく近くする)の観測が可能なように配慮している。ただし、波面センサーの分解能に関しては、これからも研究開発が進むことによって、将来更に解像度を上げた装置になる予定でもある。 高分散分光器と低分散分光器の違いについて。 高分散分光器は、分光像を焦点レンズなどを用いて拡大することによって、精密な分光像が得られる装置。難点は、焦点レンズによって拡大されるため、分光像が暗くなってしまうことである。そのため、有る程度の口径か、もしくは高感度のセンサーが必要となる。後者の場合には、暗電流等の問題があるため、通常は用いられない。 低分散分光器は、分光像をそのまま撮影できるようにした装置のこと。具体的には、光学プリズムや解析格子などを用いて得られたスペクトルをそのまま表示もしくは撮像できる装置である。特に、太陽観測や惑星科学観測などで用いられる。 直径8.2mに対して厚さが20cmしかない反射鏡の精度を維持するために、動的支持装置(Active Support)を搭載している。この支持装置は、鏡面精度を常に 100 nm ( 10 − 7 m {\displaystyle 10^{-7}m} ) の桁に保つための装置である。コンピュータで制御された261本のアクチュエータにより主鏡を裏面から支持することで、望遠鏡の姿勢変化による主鏡の変形を0.1秒に1回の頻度で自動的に微調整している。 地球大気の乱流などもっと速い変動に起因する星像の揺れを実時間で直す装置(補償光学: Adaptive Optics)は2000年12月よりカセグレン焦点に設置されている。これにより近赤外線では回折限界(Diffraction limit)に迫る星像が得られている。さらに赤外ナスミス焦点に人工星(レーザーガイド星)を使った更に高精度な補償光学系を開発し、2006年10月にファーストライト(初観測)に成功した。 これらの技術によって天体の解像度の高い画像を得るとともに、遠方にある微かな光を放つ銀河や星雲などの観測性能を大幅に向上させる。 すばる望遠鏡は日本の国立天文台の施設であるが、国際共同利用観測所であるため世界中の天文学者が観測提案を提出でき、審査に合格した観測提案だけが実行に移される。観測提案は年に2度募集される。 2004年、国立天文台・東京大学・宇宙航空研究開発機構・英国ダーラム大学・英国レスター大学の研究チームは、「すばる/XMM-ニュートン・ディープサーベイ」(SXDS)により取得された深撮像サーベイ画像と検出された天体カタログを全世界へ公開した[7]。
用語補足
観測技術
すばる望遠鏡による成果
単独観測
宇宙の大規模構造の元となる、フィラメント状星雲の発見。また、銀河系の10倍以上の質量を持つ、銀河団の元となる星雲を発見。
赤外線によって、宇宙の最遠の超新星爆発を捉える。
太陽系外にある微惑星のリングを捉える。
2005年2月、くじら座の方向に観測史上最遠の銀河団を捉える。距離128億光年
2006年5月、ガンマ線バーストの解析により、宇宙の再電離はビッグバン後9億年まで遡ることを確認。
2006年8月、かに座の方向に日本人の発見したものとしては最遠となる127億光年離れたクエーサーを発見。
2006年9月、かみのけ座の方向に、天体観測史上最遠となる128億8000万光年離れた銀河を発見する。
2014年11月、すばる望遠鏡にとって最も遠い宇宙をこれまでにない感度で探査し、ビッグバンからわずか7億年後(131億光年先)の宇宙にある銀河を7個発見[6]。
国際連携観測
NASAの探査機ディープ・インパクトと連携し、彗星への衝突時の光を捉える。
なお、この観測はマウナケア山頂の望遠鏡群全体でも行った。
ヨーロッパ南天天文台でも観測を行う。
NASA及び欧州宇宙機関(ESA)の探査機カッシーニと連携し、土星の衛星タイタンのジェット流の観測を行う。
NASAと協力し、冥王星-エッジワース・カイパーベルト天体探査機ニュー・ホライズンズの探査目標天体の捜索を行う。
ESAと共同で、すばる/XMM-ニュートン・ディープサーベイ(SXDS)と呼ばれる深宇宙撮像サーベイを行う。
ハッブル宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡、超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)、VLT、XMM-Newton、GALEX、Chandra、UKIRT、NOAO、CFHT等と共同で、ハッブル宇宙望遠鏡基幹プログラムであるCOSMOSプロジェクトに参加。X線、紫外線、赤外線、電波の全波長帯で宇宙の大規模構造を観測する。
撮影画像と天体カタログの公開
出来事
望遠鏡を収めるドーム施設の建設中に火災が発生した。この事故によって4名の作業員が死亡した。
2011年7月、すばる望遠鏡の主焦点部から冷却液が漏れ出す事故が起きた。液は主鏡を含めた広範囲に飛び散り、機材も浸水したため、観測利用が行えない状態となった[8]。その後、原因究明と復旧作業が進められ、2011年9月までにナスミス焦点、カセグレン焦点、および赤外用主焦点での観測を再開した。損傷の大きかった可視光用主焦点の復旧には時間がかかったが、2012年7月15日に共同利用観測を再開することができた[9]。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 観測機器を取り付ける焦点は4箇所ある。なお、主焦点ならびにカセグレン焦点は可視光・近赤外の焦点系であり、ナスミス焦点は片方が可視光焦点であり、もう片方は近赤外焦点である。
^ 2013年7月、より広い視野と高い解像度を得ることを目的とした、Hyper Suprime-Camに置き換えられた。これは、近赤外線領域から可視光をカバーするモザイク型CCDカメラ(計8億7000万画素)と光学補正レンズからなる。
^ 正確には、大型観測装置がナスミス焦点に取り付けられ、小型の広視野主焦点カメラ(Suprime-Cam)が、主焦点観測室に取り付けられる。特に大型の観測装置によっては、重量数tに達するものもある。またカセグイン焦点には日本放送協会(NHK)のスーパーハープ管型カメラが取り付けられ、すばる望遠鏡から生中継が行われたこともある。科学観測的には、コロナグラフ撮像装置や微光天体分光撮像装置などが取り付けられ、連星系の伴星の観測なども行われている。
^ 新規に開発された新しい観測機器に関しては、岡山天体物理観測所や各大学の保有する天文台での実験観測を経て、観測計画に基づき設置利用が可能である。この場合には、その観測機器は開発した大学や研究室によって保有されることになる。なお、国立天文台における大型機器の開発研究に関しては、自然科学研究機構ならびに文部科学省、さらには財務省の許可が要るため、時間がかかる例もある。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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