いとこ婚
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いとこ婚(いとここん、: cousincest)は、いとこ同士の結婚のこと。ある人物の孫同士の結婚であることから、近親婚: cousin marriage, consanguine marriage)の範疇と見なされることがあるが、法的あるいは慣習的な可否は国家や民族、文化圏や地域社会によって異なる。世界のいとこの結婚に関する法律 .mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  結婚が可能としている地域   宗教や文化に依存して許可している地域1   地域社会に認められた上であれば可能としている地域   特別な場合を除いていとことの結婚を禁止している地域   刑罰を設けてはいないが法律上は禁止している地域   性関係が場合によっては性犯罪となりうるとしている地域   データなし 1インドヒンドゥー教を参照。
概要婚姻数全体に占める6親等(はとこ)より近い近親との婚姻の割合(%)[1][2]   <1   1?4   5?9   10?19   20?29   30?39   40?49   50+

日本では、4親等以上離れていれば直系でない限り親族同士の結婚も認められているため、いとこ婚が可能である[3]。古いデータではあるが、後藤源太郎の著書『近親結婚と母系制』に世界各地におけるいとこ婚の比率が記載されており、1931年昭和6年)の東京市で4.0%、1949年昭和24年)の長崎市で5.24%となっていた[4]。1914年 - 1919年のフランスで0.97%、1925年 - 1939年のイングランドで0.40%、1925年 - 1950年のアメリカ合衆国ボルチモアで0.05%となっており、欧米に比べれば高い[4]。ただし、1955年 - 1957年のイスラエル全土で5.22%と、当時の他の地域と比べて、日本在住の人々のいとこ婚の比率が突出しているわけではない[4]。なお、今日の日本では過去に比べいとこ婚の比率が減少したとされ、調査でいとこ婚の比率は全ての婚姻のうち1.6%だったという1983年の報告がある[5][6]

イスラーム文化圏では地域によって異なるが、サウジアラビアのような国では血縁が濃いことが喜ばれる傾向があるため、いとこ同士の見合い婚が多い。恋愛結婚にしても、女性が顔を隠しているために、男性にとって恋愛対象になり得るのが顔を知っている従姉妹に限定されてしまうという事情がある。また、預言者ムハンマドの第7夫人ザイナブがムハンマドの従姉妹であることも、いとこ婚が推奨される背景になっている。クルアーン(コーラン)に記述された、婚姻が禁じられた近親者の一覧[7]の中には、いとこは書かれていない。父方いとこ同士の結婚(ビント・アンム婚)は好ましいものとされており、特別な理由がない限り、女性が父方の従兄弟に当たる男性からの求婚を断ることができない、という慣習を持った地域も存在する[8]

ヨーロッパの王族、貴族の間では、いとこ婚が頻繁に行われている(関連項目の例を参照)。しかし本来は教会法に反する近親婚に当たるとされており、カトリックの場合には教会から特別に赦免をもらったり、逆に離婚時にはこれを理由に用いて結婚を無効にする、といったことが行われていた。

他の文化圏の事情については近親婚も参照。

このように、いとこ婚の可否にはまず文化的な差異が大きく影響している。
研究
遺伝的な障害との関係
肯定的見解
2002年平成14年)4月に「Journal of Genetic Counseling」で発表された研究では、アメリカ合衆国で収集された情報によれば子供の遺伝的危険度は一般的な交配でも3%程度存在する[9]。また、かつて日本の広島市と長崎市で調査された1965年昭和40年)発表のデータによれば、広島市が通常の児童期における致死率6.4%がいとこ交配で9.2%になり、長崎市で通常の児童期における致死率7.7%がいとこ交配で8.7%になっていたなどの調査結果が存在している[9]。それらの研究を総合すると、いとこ同士が交配したところで子供の遺伝的な危険性は通常の婚姻の場合の遺伝的危険度に1.7 - 2.8%加わる程度に過ぎないと推定された[9]。このリスクは40歳以上の高齢の女性の出産と同程度である。
否定的見解
BBCの報道によれば、イギリスに住むパキスタン人は55%がいとこと結婚している。いとこ婚する者の両親やその祖父母やその祖先もいとこ婚の結果である場合は、遺伝的には兄弟姉妹間の結婚に近い場合もある。このため遺伝子障害の発生率が一般住民の13倍もの高率であり、バーミンガムではいとこ婚のパキスタン系住民の子供の10人に1人は幼年期に死ぬ、あるいは重大な障害を起こしており、イギリスでは人口比で3%を少し超える程度のパキスタン人が、遺伝病の子供全体の少なくとも3分の1を占めている[10]
文化人類学におけるいとこ婚「平行いとこと交叉いとこ」も参照

レヴィ=ストロースはいとこ婚を、

交差いとこ婚:兄妹や姉弟など、異性のきょうだいの子供同士が結婚する

平行いとこ婚:兄弟や姉妹など、同性のきょうだいの子供同士が結婚する

の2つに分類した(さらにそれぞれを「父方」と「母方」に分け、4種類とすることもある)。『親族の基本構造』において彼は、当時「未開社会」とされていた社会においていとこ婚の奨励が見られるのは、インセスト・タブーの全くない原始社会からタブーのある現代への「進化」の途上にあるからである、といったような構造主義以前の見方を退け、財の交換ないし贈与という視点から、数学的に記述することさえ可能な体系的な規則性があることを示し、族外婚の規則性を論じた。いとこ婚に関するこの分類方法は、その後も文化人類学で一般的に使用されている。
主な法制「近親婚」も参照

国にもよるが、いとこ婚(cousin marriage)は近親婚を意味し、その制限は近親度数に基づいて行われている。現在の近親度数の計算方法は、同じ祖父母を持つ子孫は近親度1度(いとこかその父母、first cousin)、同じ曽祖父母を持つ子孫は2度(はとこ、その父母・祖父母、second cousin)、同じ高祖父を持つ子孫は3度(third cousin)などとされている。
ヨーロッパ

中世前期のヨーロッパはローマ帝国後期の慣習を引き継ぎ、カノン法に基づいて近親間の結婚を禁じていたが、次第に貴族氏族の近親関係が増えてゆき、最終的には限られた活動範囲で伴侶になる見込みのある相手を見つけることが容易でなくなった。例外的な婚姻(特免の結婚)やその婚姻による子を教会の保護対象とすることを認可されるには教会に莫大な支払いをする必要があり、その金額も次第に増加していった [11]

1215年、第4ラテラン公会議は7度以内だった近親婚の禁止の度数を4度以内(6 - 16親等以内)へと下げ[12][13]、度数計算方法も改定した[14]。それまでの計算方法は、同じ祖先に行き着くまでの人数にそこから婚約相手までの人数を加える方式だったが、新法では単に同じ祖先に行き着くまでの数となった[14]

1215年以降は、特免を受けずとも4度までは婚姻可能という習慣が一般的に普及し、近親婚の全体的な経費は下がった[15]

19世紀になり女性の社会的な活動性が高まると、教会法に基づく規則は次第に廃れ、19世紀にはハンガリースペインでは特免は政府によって行われるようになった[16]
イギリス

1875年のチャールズ・ダーウィン(1809年 - 1882年)の試算によれば、イングランドでは1度の近親婚の割合は全体で3.5%、中流階級では4.5%だった。貴族階級の中では1819年生まれのヴィクトリア女王アルバート王配との婚姻が傑出した例外となっているが[17][18]、20世紀にはいとこ婚の割合は1%にまで下がった[19]

スコットランドの精神科医で学会副委員長のアーサー・ミッチェル(英語版)(1826年 - 1909年)は論文で、近親婚の子孫への悪影響に関するダーウィンやアラン・ハス(Alan Huth)の結論の大きな矛盾を指摘し、血縁の悪影響は適切な住環境によって部分的に解決ができるという仮説を立てたが[20][21]、実際にはそのデータは仮説を証明しうるものではなかった[22][23]


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