いて座A*
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いて座A*
Sagittarius A*


イベントホライズンテレスコープによって直接観測されたいて座A*
星座いて座
位置
元期:J2000.0
赤経 (RA, α) 17h 45m 40.03599s[1]
赤緯 (Dec, δ)?29° 0′ 28.1699″[1]

距離27,100 ± 200 光年
(8,320 ± 70 パーセク[2]
25,600 ± 500 光年
(7,860 ± 140 パーセク[3]
物理的性質
質量(4.28 ± 0.10) ×106 M?[2]
(4.02 ± 0.16) ×106 M?[3]
他のカタログでの名称
AX J1745.6-2900, CXOGC J174540.0-290027, SWIFT J1746.3-2850A[1]
Template (ノート 解説) ■Project

いて座A*(いてざエー・スター、略号Sgr A*)は、天の川銀河中心にある明るくコンパクトな天文電波源。より大規模な構造の電波源領域であるいて座Aの一部である。いて座A*の位置には超大質量ブラックホールが存在すると考えられ、多くの渦巻銀河楕円銀河の中心にも同じように超大質量ブラックホールがあるというのが定説となっている[4]。いて座A*の周囲を公転している恒星S2の観測によって、銀河系中心に超大質量ブラックホールが存在する証拠と、ブラックホールに関するデータがもたらされ、いて座A*がその存在位置であるという結論になっていたが、2022年5月12日、ブラックホールの直接観測を目指す国際プロジェクトイベントホライズンテレスコープ (EHT) により、いて座A*に存在する超大質量ブラックホールの直接観測に成功したと発表された。ブラックホールの直接観測に成功したのはM87の中心にある超大質量ブラックホールに次いで観測史上2例目である[5][6]
観測とその歴史

地球といて座A*との間は、塵とガスによる星間減光が25等級にも及ぶため、可視光による分光観測が難しい[7]。そのため、観測は主に赤外線電波X線で行われている。

いて座A*は、他にはない相対性理論の格好の実験場とも考えられる。相対性理論が予測する現象と観測との間で相違が発見されるかもしれないし、予測と観測が一致すれば相対性理論を補強する結果となる[8]
電波ジャンスキーアンテナ。このアンテナで天の川からの電波を検出した。事象の地平線望遠鏡とグローバルミリ波VLBIアレイに参加する電波望遠鏡群。出典: ESO / O. Furtak

いて座辺りの銀河系中心方向から電波が放射されていることは、ジャンスキーが初めて明らかにした[9]1974年2月に、アメリカ国立電波天文台の電波干渉計でその領域が観測され、いて座A*が発見された[10]。「いて座A* (Sgr A*)」という名称が定着する前には「GCCRS (the galactic center compact radio source)」や「Sgr A(cn)」(cnはcompact non-thermalの略)などとも呼ばれていた[11]。Sgr A*という名称は、1982年にこの電波源の周囲にジェットのような構造を発見した報告の中で、初めて用いられた[12][11]。発見者の一人ロバート・L・ブラウンは、この電波源が「興奮させる (exciting)」ものであったこと、そして原子物理学でいう「励起状態 (excited states)」にある原子には「*」が付されて表記されることから、「Sgr A*」という表記を思い付いた、としている[11]

電波の波長域で超長基線電波干渉法(VLBI)の技術を使用することで、いて座A*の画像を得ることが試みられている。現在、最も高い空間分解能の観測は、波長1.3mmで行われ、電波源の大きさは角度で37マイクロ秒と求められている[13]。この大きさは、天体までの距離を2万6000光年とすると、直径4400万kmに相当する。太陽系の大きさと比較すると、太陽から地球までの距離が約1億5000万km(1天文単位)、惑星の中で太陽に最も近い水星までの距離が約4600万kmとなる。また、いて座A*の固有運動も調べられ、赤経が1年あたり-2.7ミリ秒、赤緯が1年あたり-5.60ミリ秒と見積もられている[14]

VLBIの手法を用い、世界各地の電波望遠鏡を結んだ地球サイズの電波望遠鏡で、いて座A*のブラックホールの姿を画像として直接とらえる計画も進んでいる。2017年4月、事象の地平線望遠鏡(EHT)、グローバルミリ波VLBIアレイ(GMVA)による観測が行われた[15]
赤外線銀河系中心のいて座A*とGCIRS 13E(IRS 13)

赤外線では主に、いて座A*の周囲に存在する恒星や、高温のガス雲の観測が行われている。特に、1992年から続く、恒星の運動速度と、いて座A*との位置関係の測定によって、いて座A*の質量が見積もられ、いて座A*が超大質量ブラックホールである証拠が蓄積されている(詳細は、中心ブラックホール節を参照)。

2004年、いて座A*からおよそ3光年の距離を公転する天体GCIRS 13Eの中に、中間質量ブラックホール候補が発見された[16]。GCIRS 13Eは7つの恒星からなる星団で、その中に太陽の1,300倍の質量を持つブラックホールがあると予想されている。GCIRS 13Eの存在は、超大質量ブラックホールが周辺のブラックホールや恒星を吸収することで、ここまで大質量に成長したという仮説の裏付けとなる可能性がある。いて座A*周囲の降着円盤と発光するガスの想像図[17]。出典: ESO / L. Calcada

また、近赤外線で超大質量ブラックホール本体付近で発生した爆発現象が観測されている。2008年VLTによる観測で、いて座A*からの近赤外線放射が急激に増大したことが発表された[17]サブミリ波との同時観測から、この増光現象は、ブラックホールへ向かって降着しつつあるガス塊が引き伸ばされて崩壊し、加熱したことによる放射と推測されている。
X線いて座A*(中央)と最近の超新星爆発による2つの光のこだま(丸で囲んだ部分)。出典: NASA / CXC / Caltech / M. Muno, et al.NuSTARが高エネルギーX線で初めて超大質量ブラックホール付近をとらえた[18]。出典: NASA / JPL-Caltech


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