迷ったときは、とりあえず執筆しようとしている分野でどのような表記が行われているかを参考にしてください。それでも迷ったときは、とりあえず自分が一番書きやすい表記で書き始めてください。表記も大事ですが、内容ももっと大事です。内容によって表記を変えなければならない場合もあるでしょう。
そして、内容を書き上げた後に表記を調整してください。
まず、それらの言葉がどの言語からのものかを分類してください。現地語でしょうか? それとも英語でしょうか? それともそれ以外の国の言葉でしょうか?
日本語の外来語表記はしばしば揺れがみられます。これは主に、経由した言語の違いが原因です。明治以降、外来語は主に英語を通して行われてきました。このため、外来語表記は英語を元に行われてきました(英語表記)。
しかし、戦後になって各国の文物は直接その国から得るようになってきました。そのため、英語を経由せずに、直接その地の言語で表記されることが増えてきました(原音表記)。例えば、イタリアの都市名が英語表記のベニスから原語表記のベネチアやヴェネツィアに、英語表記のフローレンスから原語表記のフィレンツェに変化しました。でも、新聞・一般雑誌・ニュース番組などでは英語から情報を得ることが多いので英語表記が多くなります。
今後も当然、現地から直接情報を得るでしょうから、外来語表記において、英語表記から原語表記への流れは止めようがないでしょう。教科書等でもマホメットがムハンマドになるなど原音表記への流れができています。しかし、これまで使われてきた表記がよく使われているものほど、新しい表記への抵抗感が強くなります。その場合は言語や分野ごとに基準をつくり、それに従ってください。
また、原音表記を使う場合、複数の言語が候補に挙がるときもあります。その場合は、その地域の標準語・共通語(または、標準語・共通語に準ずる言語)にあわせた表記を採用してください。方言を採用してしまうと他の項目との整合性をとるのが難しくなりがちです。
ベネチアとヴェネツィアのように同じ言語由来でありながら表記が違う場合、どの表記を採用すべきでしょうか。そのような場合には、各分野・各言語ごとに統一基準を作り、それに従ってください。
転写法では、どの程度日本語として定着しているか考えておきましょう。ヴ音のように、日本語に本来ない発音を使った表記への抵抗感は、どうしても強くなります。でも play の仮名表記がプレーからプレイに変化しているように、日本国内での外国語の普及に従って、外来語表記も現地の発音をできるだけ表すような傾向がでています。一般に、専門的な名称については、その専門分野でもっとも好まれる転写法を尊重するべきです。でも場合によっては、慣用に配慮しなければならないかもしれません。
ここでは、分野別・分野間で表記を統一するときの、考え方を示します。
まず、ある程度統一的に用語を掲載している辞書・事典等を参考にしてください。例えば、専門家用の事典(例えばアラビア語なら平凡社『イスラム事典』など)や学術用語集を元に適切な表記を選択します。マスコミでの表記をとるならば、共同通信社『記者ハンドブック』やNHK放送文化研究所『NHK 新用字用語辞典』などを参照します。
これは、ある程度幅広く用語が掲載されている資料の表記規則を理解してそれを元に適切な表記を選択するためのガイドラインです。権威ある文献を使うべきと主張しているわけではありません。単にその用語だけを問題にすると一貫性を欠きやすくなります。そこで周辺の用語とのバランスを考えて用語を選択してください。
人名
項目名は、その人物が最も依拠している分野での専門的な文献で現れる表記を優先する。
作家など著述にて有名な人の名前は、本人の著作物(または訳書)で普及・定着しているものがあればそれを尊重する。
人名はよく知られたペンネームがある場合そちらを項目名としてもよい。
例:ウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフ → ウラジーミル・レーニン
もしも専門内・専門間で表記の対立がある場合
その人物の母語、または活躍した地域の言語を元に表記する。
移住などで複数の言語による表記があり、前項にて解決できない場合には、最終的な使用言語での使用言語による表記を尊重する。
これらが、日本で慣用されているものと大きく違う場合にはその点も考慮してください。
地名
現代の地名については、その地域の公用語(または、それに準ずるもの)を元に表記してください。ただし、日本での慣用で別の表記が定着している場合には、その点を十分考慮してください。
例:フルハム → フラム
歴史上の地名については、その地名を扱う学界で好まれる表記を使用してください。
例:アテネ → アテナイ
国名は外務省の表記がウィキペディア日本語版内で最も定着しています。でも、外務省の表記も常に変わりうるものであることは留意してください。人名の話ですが、1984年韓国の全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領(当時)が訪れる前に、外務省は韓国人名の表記をそれまでの漢字表記・日本語読みから原音読みに転換しました。
ウィキペディア日本語版では、企業名においては、慣習的な表記法が多くみられます。
例:ロールス・ロイス、シーメンス
ここでは、慣用や原音などの長所・短所を列挙します。過去、投票が提案されたときの分類や議論が元となっています。
一般的慣用
報道・教科書でみられる表記法
迷う場合にはGoogleなどの検索エンジンでの最多表示数
一般的慣用の長所
百科事典の利用者はその事項についての専門家ではないので、入り口は一般的な名の方が良い。
外部の検索エンジン経由で多くのインターネット利用者の目に触れることで記事を読んでもらえる。
他の記事の執筆者がリンクを張るときに選ばれやすい表記にすれば、リダイレクト修正の手間が減る。
選択に迷うときは検索エンジンでの最多表示数にあわせれば機械的に決定できる
一般的慣用の短所
何が一般的かは個々人の感じ方に依存し、客観的ではない。
ある語について専門家と一般人で対立があるのは、表記が複数あってまとまっていない状態なのであって、一般的表記がまとまって専門家の表記と対立している状態と解すべきではない。
分野内で表記法がばらばらになりやすい。
報道慣行は変化の頻度が高い。
学問的に間違い・望ましくないとされている表記が記事名になる恐れがある。
専門的慣用
その分野の専門的文献の表記をとる。
より具体的には専門的事典の表記をとる
複数の専門の間で異なる場合には、書かれる主題によって採るべき専門を決定する
専門的慣用の長所
専門にそった知識を授けることが百科事典の使命である
専門的な語で検索する人の目をひき、ウィキペディアの専門性をアピールする
表記法の整合性がとりやすい