0.999...
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実数の切断

デデキントによる実数の切断のアプローチでは、任意の実数 x というものは、「x より小さい有理数全体からなる無限集合」につけられた符牒ということになっている[21]。特に、実数 1 は 1 より小さいすべての有理数の集合である[22]。正の数の小数展開を考えれば実数の切断は簡単に決定できる。小数展開表示を適当な桁までで切って得られる有理数を使って、それより小さい有理数全体の集合というものを作ればいいのである。この方法で実数 0.999... というものが何であるかを考えるなら、 r < 0, r < 0.9, r < 0.99, ... といった条件(もっと一般に、ある n に対して、 1 ? (1/10)n の形の数より小さいという条件)を満たす有理数 r すべてが作る集合として定義するということになる[23]。0.999... のすべての元は 1 より小さいので、これは実数 1 の元である。逆に、実数 1 の元というのは有理数 a/b < 1 だが、これは a/b < 1 ? (1/10)b を満たすことも意味しているので、0.999... の元になっている。このようにして、0.999... と 1 とは全く同じ有理数をすべて元として含んでいるので、これらは集合として等しい。つまり 0.999... = 1 であるというわけである。

実数の切断による実数の定義は、最初 1872 年にリヒャルト・デーデキントによって発表された[24]。上記の、実数をそれぞれの小数展開に帰着させる方法は、フレッド・リッチマン (Fred Richman) の "Is 0.999...= 1?" という説明的な論文による。これは Mathematics Magazine に投稿されているが、これは数学を学ぶ学部生を対象としている[25]。リッチマンは、有理数の任意の稠密な部分集合における切断を考えても同様な結果をもたらすことを注意している。特に彼は分母が 10 のであるような分数全体の成す稠密部分集合を用いて、より直接的な 0.999... = 1 の証明を与え、「実数の伝統的な定義の中に、等式 0.999... = 1 は最初から組込まれている」と評した[26]。 リッチマンは、この手順をさらに修正して別の構造を導いており、それについて興味深く論じている。それについては以下の 「他の数体系」 を参照。


コーシー列

実数を構成するもう一つの方法は、実数の切断に比べれば間接的にではあるがやはり有理数の順序を用いるものである。まず、x と y の距離というものが絶対値 | x ? y | によって定義されることに注意する。ここに、絶対値 | z | は z と ?z の小さくない方として定義されるもので、非負である。そして実数の全体というものを、この距離に関してコーシー的な有理数列全体として定義するのである。ここで、有理数のコーシー列とは、有理数列(つまり自然数から有理数への写像) (x0, x1, x2, ...) であって、任意の正の数 δ に対して、N が存在し、以下の条件 : N より大きいすべての m, n に対して | xm ? xn| ? δ が成り立つ(つまり、十分先のほうでは2項間の距離がいくらでも小さくなっていく)ものである[27]

ただし、2つのコーシー列 (xn) と (yn) に対し、(xn ? yn) が極限 0 をもつならば、これらのコーシー列は実数としては等しいものと定められる。小数 b0.b1b2b3... に対して、これを各桁で順に切り捨てていくことにより得られる数列は有理数からなるコーシー列を定めるので、このコーシー列が、この小数展開の表している実数の真の値と定められることになるわけである[28]。この定式化において 0.999... = 1 を証明するためにしなければならないことは、有理数列

が 0 に収束するということを証明することである。同じことだが、n=0, 1, 2, ... に対してこの数列の第 n 項を考えると、示すべき内容を

と表すことができる。

この極限は単純で[29]、数列の極限の定義において、 ε = a/b > 0 に対し N = b ととれば示される。こうして、やはり 0.999... = 1 が示されたことになる。

コーシー列としての実数の定義については、最初に(いずれも)1872 年に エドゥアルト・ハイネゲオルク・カントール により独立に発表された[24]。0.999...=1 の証明も含めて、小数展開による上記のアプローチは1970年にグリフィス (Griffiths) とヒルトン (Hilton) の書いた A comprehensive textbook of classical mathematics: A contemporary interpretation を厳密にたどっている。この本はよく知られた概念を現代の観点でもう一度見直してもらうために特定して書かれている[30]


他の数体系

実数は非常に便利な数体系を形成しており、"0.999..." という表記法が実数を意味するものと考えることは根本的には『慣習』である。ウィリアム・ティモシー・ガワーズ (William Timothy Gowers) は Mathematics: A Very Short Introduction において、等式 0.999...=1 を結論することも同様に『慣習』であると述べている。すなわち、「しかしながら、それは決して独裁的な慣習ではない。なぜなら、それを受け入れなければ、一風変わった新しい対象を発明するか、または算数のよく知られた規則のいくつかを諦めるかのどちらかが強制されるからである[31]。」

新しい対象もしくは知られていない規則を用いて上の証明を再び解釈すると、0.999...≠1 であるような仮説の数体系に制限を加えることができる。リッチマンが述べたように、『ある人の証明は、別の人にとっては背理法である。(one man's proof is another man's reductio ad absurdum.)[32]』もし、 0.999... が 1 と異なれば、上の証明で立てられた少なくとも1つの仮定は潰れなければならない。


無限小

0.999...=1 のいくつかの証明は、通常の実数がアルキメデス的であること、すなわち、"0でない無限小は存在しない" ことに依存している。 通常の実数に代わるいくつかのものを含むような、数学的に理路整然とした順序の導入された代数構造があるが、それは非アルキメデス的である。例えば、二元数は新しい無限小の要素 ε を含む。これは ε2 = 0 であることを除けば 複素数 における虚数単位 i の類似である。結果として生じる構造は、記号処理系のための微分の理論 (automatic differentiation) で有用である。二元数には辞書式順序を与えることができ、この場合において ε の倍数は非アルキメデス的要素になる[33]。実数に代わる構造を構成するもう一つの方法は、(特殊な例ではあるが)集合論や古典的な理論ではなく、トポス理論やそれに代わる諸論理を用いることである。例えば、『滑らかな無限小解析(smooth infinitesimal analysis)』 では逆元のない無限小が存在する[34]

超準解析によってたくさんの無限小量(やその逆数)を含んだ体系が得られることはよく知られているが、これによって、普通とは異なり、しかもより直感的と思われる微積分へのアプローチが可能になる[35]。1972年にライトストーン (A.H. Lightstone) は超準解析に基づき、(0, 1) に属する超実数に対して一意的な "超小数展開" を対応させる考え方を展開した。ここで超小数展開とは超自然数で添字づけられた数字の列のことである。この枠組みにおいて、素朴には0.333... に対応する表示を2種類考えることができるが

0.333...;...000... は正確には超小数と見なすことができないが

0.333...;...333... はちょうど1?3と一致する

のでいずれにせよ0.333...と1?3の差は無限小ですらない[36]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki