心理的葛藤に起因しない内因性うつ病の場合
生理的な原因が明確なほかの病気と違い回復を保障できる治療法はほとんど存在しない。多くの場合は時がたてば治ることが多い。ただしこの場合は実際に特定の治療法が回復に貢献したのかの疑問が残る。基本的に現在はまず鬱が病気であることを本人・家族が納得し、「無理をせず、養生して、(場合によっては)薬を飲んで、回復を待つ」ことである。
内因性うつ病の症状は、“気の持ちよう” “努力”などで変えられるものではない。変えられないものを、変えようと無理をすれば、症状を悪化させる。むしろ、変えようとせず、憂うつな気分に逆らわず、十分な休養を取りながら、回復を待つべきである。
うつ病の症状の一つに、将来を悲観してしまうことがある。病気のため、もう治らないとしか考えられなくなることも多い。しかし、うつ病はいかに重症でもいつかは改善するものである。いつかは良くなるという希望を持つことが重要である。
またあせって人生の決断を下さない方がよい。例えば転職・退職、離婚などの重要な決断はなるべく後回しにする。一般にうつ病のため判断能力は低下していることが多く、適切な判断が下せないことが多い。
家族など周囲の人たちも、長い目でうつ病患者を見守ることが求められる。「頑張れ」や「甘えるな」という言葉は、患者自身の力ではどうしようもない今の状態を、今すぐに自分の力で変えるようにと、無理を求めるものとなる。そして、このような言葉は、患者を追いつめ、最悪の場合、自殺の誘因とならないとも限らない。患者のみならず、周囲の人々も、患者がうつ病であり、患者自身の力では今の状態から抜け出せないことを受け入れ、長い目で回復を信じ、あせらないことが必要である。
「気の持ちようではないか」「旅行にでも行って気分転換してはどうか」といった言葉も、適切ではない。うつ病でなくとも、嫌なことが起きれば、嫌な気分になるし、そういった一過性の軽い抑うつ気分は多くの人が経験する。これらの言葉は、うつ病もそれと同じように対処すれば良いものと見ている。しかし、長期間に及ぶような酷いうつ状態(つまりうつ病)の場合には、適切な治療なしには気の持ちようを正すこともできず、旅行に行く気力も出ないため、これらの言葉はかえって患者を苦しめる。患者がこれらのアドバイスを受け入れられるほど回復したかどうかの見極めが大切である。
治療の前提として、治療の基本的原則について、しっかりと医師が説明を行い、患者が納得して治療に取り組むことが必要である。また、投薬についても、医師がしっかりと説明する必要がある。患者も、分からないことは質問していくことが必要である。こうした医師と患者のコミュニケーションが治療の成功には不可欠である。
心理的葛藤に起因すると思われる心因性うつ病の場合
心理的葛藤に起因すると思われるうつ病では、原因となった葛藤の解決や、葛藤状況から離れることなどの原因に対する対応が必要である。なお、一人一人の患者においては、心理的葛藤が原因と考えるべきものなのかどうかの判断は、かなり難しい。このため、この判断は、精神科医の助言に従うのが良いであろう。
入院・外来などの治療設定の選択
入院するかどうかなどの治療設定の選択をする場合には、症状の重症度の判断が重要である。ただし、専門的に見てかなり重症であると判断されるうつ病を、家族や周囲の人が、軽く見ることは多く、専門医を受診し、診断を受けることがまずもって必要である。特に、「死にたい」とか「消えてしまいたい」「自分は居ない方がいい」などの希死念慮や自己否定的な内容を口にする場合には、自殺の危険性があり、すみやかな受診が必要である。
治療開始の時点では、自殺の危険性が高い重症例であるか否かがまず評価され、自殺の危険性が高い重症例では、入院治療が必要となる。特に危険性が高い場合には、電気けいれん療法を行うと、自殺の危険性は軽減されるとされる。
自殺の危険性はないが、日常生活に著しい障害が生じている場合には、仕事を休んだり、主婦であれば家事を誰かに手伝ってもらうなど、社会的役割を免除してもらい、休養する必要がある。
日常生活における障害が軽い軽症例では、これまで通りの生活を続けながら、治療を行うこともある。
いずれの重症度でも、内因性うつ病においては、薬物療法を行うのが原則である。
治療法各論
薬物療法
うつ病に対しては、抗うつ薬の有効性が臨床的に科学的に実証されている。ただし抗うつ薬の効果は必ずしも即効的ではなく、効果が明確に現れるには1ないし3週間の継続的服用が必要である。このことをしっかりと理解して服薬する必要がある。抗うつ薬のうち、従来より用いられてきた三環系あるいは四環系抗うつ薬は、口渇・便秘・眠気などの副作用が比較的多い。これに対して近年開発された、セロトニン系に選択的に作用する薬剤SSRIや、セロトニンとノルアドレナリンに選択的に作用する薬剤SNRI等は副作用は比較的少ないとされるが、臨床的効果は三環系抗うつ薬より弱いとされる。また、不安・焦燥が強い場合などは抗不安薬を、不眠が強い場合は睡眠導入剤を併用することも多い。なお、抗うつ薬による治療開始直後には、年齢に関わりなく自殺の危険が増加する危険性があるとアメリカ食品医薬品局 (FDA) から警告が発せられた。また、近年セント・ジョーンズ・ワートを始めとしたハーブの利用にも注目が集まっているが、有効性はまだ不明である。なお、非定型うつ病については、本来モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害剤)が第一選択になり、欧米では活用されているが、現在日本で認可されているものはない。
認知行動療法
外界の認識の仕方で、感情や気分をコントロールしようという治療法。抑うつの背後にある認知のゆがみを自覚させ、合理的で自己擁護的な認知へと導くことを目的とする。対人関係療法も認知行動療法の要素を持つ。
心理療法
いわゆる「カウンセリング」と言われるもの。
電気けいれん療法 (ECT)
頭皮の上から電流を通電し、人工的にけいれんを起こす事で治療を行う。薬物療法が無効な場合や自殺の危険が切迫している場合などに行う。有効性・安全性とも高い治療法であり、保険診療でも認められている。
経頭蓋磁気刺激法 (TMS)
頭の外側から磁気パルスを当て、脳内に局所的な電流を生じさせることで脳機能の活性化を図るもの。保険は未承認。
その他、実験的段階にあるものや、限定的に行われる治療法として以下のようなものもある。
断眠療法
文字通り、睡眠を断つ治療法。「徹夜明けでハイになる」というものに近い。短期的には一定の効果があるが、再発率が高い。
光療法
強い光(太陽光あるいは人工光)を浴びる治療法。過食や過眠のあることが多い、冬型の「季節性うつ病」(高緯度地方に多い冬季にうつになるタイプ)に効果が認められている。
運動療法
有酸素運動の有効性が学会で指摘されている。入院時の日課とする病院もある。
音楽療法