錯誤
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刑法上の錯誤


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刑法上の錯誤とは、行為者の表象と、現実に存在し発生したところとの間に、不一致が生じていることをいう。この場合にどのような基準で故意を認めるかについて議論がある。刑法上の錯誤には、大きく分けて、事実の錯誤と法律の錯誤(違法性の錯誤)がある。

事実の錯誤とは、行為者の表象していた内容と、客観的に生起した事実との間に不一致がある場合をいう。

法律の錯誤(違法性の錯誤)とは、行為の違法性を基礎づける事実の認識については錯誤はないが、行為が法律上許されないことについて錯誤がある場合(違法性の意識が欠ける場合)をいう。


事実の錯誤

事実の錯誤は、構成要件に関する事実の錯誤と、違法性に関する事実の錯誤に分けられる。

刑法総論において、故意を「構成要件的故意」と「責任故意」に分ける学説があるが、構成要件に関する事実の錯誤は構成要件的故意の成否についての議論であり、違法性に関する事実の錯誤(誤想防衛等)は責任故意の成否についての議論であるといえる(以下、この学説に基づいた説明をする)。


構成要件に関する事実の錯誤

構成要件に関する事実の錯誤は、同一構成要件内の事実の錯誤と、異なる構成要件間の事実の錯誤に分類される。


同一構成要件内の事実の錯誤

客観的事実と認識の食違いが同一の構成要件の範囲内である場合(具体的事実の錯誤とも呼ばれる)。

例えば、殺人罪を行おうとする意思を持ち、客観的にも殺人罪に当たる行為を行った場合である。

同一構成要件内の事実の錯誤には、客体の錯誤・因果関係の錯誤・方法の錯誤(打撃の錯誤)などの例がある。

客体の錯誤
攻撃の客体の同一性を誤認した場合をいう。例えばAが、暗がりにいるBを殺そうと思い銃撃したが、実は別人のCであり、Cが死んだ場合である。この場合に、Cに対する殺人罪の故意が認められるかどうかが問題となる。

因果関係の錯誤
行為者が意図していたところと異なった因果経過をたどって、意図していた結果が発生した場合をいう。例えば、AがBにナイフで襲いかかったが、Bがとっさに横に避けたためナイフは刺さらなかったものの、急に横に避けたため、通りかかった車に衝突して死亡した場合である。ほかに、AがBにナイフで襲いかかってBを殺し、これを砂浜に捨ててきたところ、実はこのときBは驚いて気を失っただけで命の危険はなかったが、その後砂浜の砂を吸い込んで窒息死した場合がある(遅すぎた結果の発生。「ウェーバーの概括的故意」の事例ともいう)。

方法の錯誤(打撃の錯誤)
攻撃の結果が、意図していた客体とは別の客体に生じた場合をいう。例えば、AがBを殺そうと銃撃したが、弾がそれて隣にいたCを撃ち殺してしまった場合である。この場合、Cに対する殺人罪の故意が認められるかどうかが問題となる。


異なる構成要件間の事実の錯誤

客観的事実と認識の食違いが異なる構成要件にわたる場合である(抽象的事実の錯誤とも呼ばれる)。

器物損壊罪についての認識・意思を持ち、客観的には傷害罪にあたる行為を行った場合
Aがイライラして、店頭にあったマネキン人形にバットで殴りかかったが、実はBという人間であり、Bが負傷した。

傷害罪についての認識・意思を持ち、客観的には器物損壊罪にあたる行為を行った場合。
AがバットでBの足に殴りかかったが、実はCが所有するマネキン人形であり、マネキン人形が壊れた。

窃盗罪についての認識・意思を持ち、客観的には占有離脱物横領罪にあたる行為を行った場合。
Aが公園のベンチで隣のBの足元にBの荷物があり、Bが読書に夢中になっているすきに、荷物を持ち帰ったが、実はこの荷物は数日前に誰かが忘れていった落し物であった。

占有離脱物横領罪についての認識・意思を持ち、客観的には窃盗罪にあたる行為を行った場合。
Aは公園のベンチに風雨にさらされたような古びた誰かの忘れ物を持ち帰ったが、実は持ち主であるBがたまたまトイレに行っていて数分間現場を離れていただけであった。

なお、異なる構成要件間の錯誤でも、理論的には客体の錯誤や方法の錯誤に分類することは可能である。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:Mamenoki